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故郷 佐原編

一部に短く伝える

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 翌日登校した火花ほのかは編入試験を受ける話を何人かにすることになった。
 軽部かるべをはじめとする悪ダチは編入が決まってからすることにした。やはり編入できなかったとなると寄って集っていじられるからだ。
 昼休みに階段踊り場で佐内一葉さないかずはには伝えた。
 転校するかもしれないと言うと一葉は予想以上に動揺した。
「なんでそんな話になるのよ」
「まだ決まったわけじゃないし、行ってみて気に入らなかったら戻ってくることになるな」
「そんないい加減にできる話じゃないでしょ」
「俺がいなくなるとさびしいか?」火花は意地の悪い顔をした。
「火花の共犯として西銘にしな先生に目をつけられているのよ」
「そこかい!」
胡蝶こちょうさんはもう知っているの?」一葉は矛先をそらした。
「言ってない。しばらく話もしていないな。日和ひよりには雷人らいとから伝わるだろう」
「自分の口で言いなさいよ」
「そうだな、俺からも言うわ」
「当たり前でしょ」
 あまり長話もできず、一葉は不機嫌な顔のまま離れていった。
 次は蒔苗まかないだ。数学の授業の後、職員室へ戻る蒔苗まかないを捕まえて短く伝えた。
芦崎あしざき先生から聞いたよ」蒔苗は知っていた。
「なんだ、けっこう芦崎先生とコミュニケーションとってるんだな」
「相談は受けている。これでも俺は芦崎先生の先輩でもあるからな」
「大学同じだっけ?」
「違う。教師として先輩だ」
「偉そうだな」火花は笑った。「あ、そうそう、俺の実の母親、鏡花きょうかという名前だったよ」
「やはりな。そう思ってみるとお前の顔は先生に似ている」
「空手やっていて父親と出会ったらしいぜ」
「美人だったが鉄拳制裁しそうな雰囲気があった……」
「どんな教師だよ。芦崎先生にも似ているのか?」火花は蒔苗の顔を覗き込んだ。
「似てるっちゃ、似てる。多分、お前の母さんの方が美人だったよ」
「言っちゃったな」
「でも芦崎先生の方が華奢で、守ってあげたいタイプだな」
「あ、いいです、そのへんで。それに芦崎先生を守るのはあんたじゃない」
 火花は蒔苗に手を振って立ち去った。
 芦崎にバツイチ教師は似合わない。しかし芦崎にふさわしい男など火花の周囲にはいなかった。
「俺が十年早く生まれていたらな」火花は想像した。「やっぱ、ないわー。俺がダメだな」
 火花はひとり笑った。
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