上 下
7 / 8
本編

雪菜先輩は生徒会長と仲が良い

しおりを挟む
「ところで本谷もいるが何をしておった?」舞子まいこ会長はテーブルの上に目をやった。
「保健だよりの作成よ」雪菜せつな先輩が答えた。
優理香ゆりかに任せるとラノベ風になるな」
「それを楽しみにしてるの」
「自由だなあ、雪菜は」
 何だかやっぱりゆるゆるした百合の世界のような気がする。
実里みのりちゃんにお願いしても良かったのよ。ミステリータッチなんて良いじゃない?」
「それは私よりも芦屋あしやだろう」
 そういえば舞子会長も昔は文芸部にいたと聞いたことがある。だが今はミステリー研究会だ。それもほとんど活動していないらしい。
「そっちの美少女は今年入った新入部員か?」突如舞子会長はあたしと雪菜先輩を交互に見て言った。美少女と言われてあたしはとても良い気分だ。
「そうよ、実里ちゃん。今年は高等部に男女一名ずつ入ったの。うらやましい?」
「そうだな、ミステリ研はもう私と芦屋のふたりだけだからほとんど休部状態だ」
「じゃあ、文芸部に帰ってくる?」
「今さらな」舞子会長はちょっと考えたようだった。「芦屋は明石あかしさんに後を頼むと言われたからミステリ研をなくすつもりはないだろう」
「そうなのね」
「それに、文芸部の部室はあいつが主のように居座っているんだろう?」
但馬たじまくんのこと?」他に誰がいるんですか、雪菜先輩。
「そんな名前だったな」知っていてとぼけているな、これは。
「悪い子じゃないのは知っているでしょう?」雪菜先輩にかかれば但馬先輩も「子」扱いだ。凄すぎる。
「でも、あのが、せっかく入った新入部員を次々と幽霊部員にしているのは間違いないだろう?」やっぱりそうだったか。
「だからこうして保健室に集まっているんじゃない。ここが部室なの」ここ部室なんですね。
「申し遅れました。一年H組の鴫野亜実しぎのつぐみです」舞子会長と目が合ってしまったあたしは、今さらのように自己紹介をした。
「三年A組の舞子実里まいこみのりです」舞子会長は余所よそ行きのように言葉遣いを変えた。「槇村雪菜まきむらせつなのクラスメイトです」
「決して生徒会長とは名乗らないのよね」雪菜先輩がそこをついた。
「何しろ、ダメ会長だからね」ダメさはわからないが、目の前にいる舞子会長はそれまであたしが持っていた会長のイメージとはまるで違った。「生理痛がひどくて、よく保健室で寝ているよ」
「いつもつらそうだものね」
 そういうことでしたか。
「こんなクールビューティが入部したのなら文芸部も安泰だな」
「そうでしょう、実里ちゃんと似ているね」
 あたしは不愛想でコミュ障なところがあるから黙っていることが多い。それに表情もふだんはあまりかわらない。だからクールビューティなどと言われたこともあるが、舞子会長に言われるとは思わなかった。
 舞子会長こそクールビューティにふさわしいのだ。まさかその会長にこのような残念女子の一面があるとは。
「まあ一年我慢すれば、あのも卒業だ。そうしたら好きなように部室も使えるだろう。おっとその前に本谷がいたな。本谷が次期の部長になるのかな?」
「私では荷が重すぎます」本谷優理香先輩が手を小さく振った。
「しかし、他にいないだろう。二年生は」
「男子で茂原もばらくんがいるわ」雪菜先輩が答えた。「他の部員も退部したわけではないの。来なくなっただけ。名簿には残っているからまた戻ってくる可能性がある」
幡野はたの妹とか?」誰です、それ?
「前生徒会長の妹だよ」舞子会長があたしに向かって教えてくれた。あたしの心が読めるの?
「お姉さんの沙織さおりさんは文芸部部長にして生徒会長にもなった人だった。その妹ちゃんは大人しい子だったわ」雪菜先輩が説明してくれた。
「前生徒会長は完璧主義だったからな。私も尊敬はしている。その妹は姉の前では何も言えず苦労しただろう」
「そんなすごい生徒会長だったのですか」あたしは想像できなかった。「もしや制服のバリエーションを増やしたり改革に着手した生徒会長がその人なのですか?」
「それは違うな」「違うわよ」舞子会長と雪菜先輩が声を揃えた。
「前生徒会長は保守的なひとで、校則を変えたりはしなかった。改革したのはその前の会長さんなの」
「凄い色気のある女性で、生徒会に美男子を揃えて女ハーレムにしていたな」
「生徒会長は一年ごとに保守的な人と革新的な人が交互に出てくるの」
「順番からすると私は革新派になるのだが、何もやってないな」舞子会長は笑った。「ただ、自由にやっている」
「そうね」
「それも私の代でおわりだ。次期とその次は保守派が続くだろう」
「そうね」雪菜先輩は苦笑した。
「ほら、二年後の生徒会長が戻ってきた」
 舞子会長が笑って見る先に三井寺琴莉みいでらことりがサンドイッチを手にして立っていた。
「会長、申し訳ありません。残りもののサンドイッチですが、どうぞ召し上がってください」
 三井さん、悪い人じゃなさそうだけれど、なんか頭の固そうな人だな、とあたしは思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

喜劇・魔切の渡し

多谷昇太
大衆娯楽
これは演劇の舞台用に書いたシナリオです。時は現代で場所はあの「矢切の渡し」で有名な葛飾・柴又となります。ヒロインは和子。チャキチャキの江戸っ子娘で、某商事会社のOLです。一方で和子はお米という名の年配の女性が起こした某新興宗教にかぶれていてその教団の熱心な信者でもあります。50年配の父・良夫と母・為子がおり和子はその一人娘です。教団の教え通りにまっすぐ生きようと常日頃から努力しているのですが、何しろ江戸っ子なものですから自分を云うのに「あちし」とか云い、どうかすると「べらんめえ」調子までもが出てしまいます。ところで、いきなりの設定で恐縮ですがこの正しいことに生一本な和子を何とか鬱屈させよう、悪の道に誘い込もうとする〝悪魔〟がなぜか登場致します。和子のような純な魂は悪魔にとっては非常に垂涎を誘われるようで、色々な仕掛けをしては何とか悪の道に誘おうと躍起になる分けです。ところが…です。この悪魔を常日頃から監視し、もし和子のような善なる、光指向の人間を悪魔がたぶらかそうとするならば、その事あるごとに〝天使〟が現れてこれを邪魔(邪天?)致します。天使、悪魔とも年齢は4、50ぐらいですがなぜか悪魔が都会風で、天使はかっぺ丸出しの田舎者という設定となります。あ、そうだ。申し遅れましたがこれは「喜劇」です。随所に笑いを誘うような趣向を凝らしており、お楽しみいただけると思いますが、しかし作者の指向としましては単なる喜劇に留まらず、現代社会における諸々の問題点とシビアなる諸相をそこに込めて、これを弾劾し、正してみようと、大それたことを考えてもいるのです。さあ、それでは「喜劇・魔切の渡し」をお楽しみください。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

催眠術師

廣瀬純一
大衆娯楽
ある男が催眠術にかかって性転換する話

徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……

紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz 徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ! 望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。 刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。

夫の浮気

廣瀬純一
大衆娯楽
浮気癖のある夫と妻の体が入れ替わる話

処理中です...