77 / 86
アルベルチーヌの空中疾走 プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
しおりを挟む
延長戦、マチルダチームの攻撃。ジャマーはアルベルチーヌに替わっていた。マチルダは騎士科男子三人とともにサポートのためのブロッカーになった。
アルベルチーヌが最後尾について試合は開始された。すいすいと助飛行をして最初の追い抜きをする。再度最後尾についてからが得点可能となる。
マチルダがアーサーにつき、騎士科男子三人はマルセル、騎士科上級生、そしてロアルドに一人ずつついた。マンツーマンのマークだ。まとまって前をふさがないので、スピードはそれなりに出ていた。
ロアルドとマルセルはブロックが苦手なので逃げ役だったのだが、スピードが速いマルセルが先頭、ロアルドは二番手にいた。アーサーと騎士科上級生はブロッカーとして少し遅れて飛んでいた。
屈強なブロッカーが四人いれば固まってジャマーの進行を妨害できるのだが、このメンバーではそれは無理だったのだ。
しかしアーサーと騎士科上級生二人だけではアルベルチーヌに対してブロッカーとなることはできなかった。
まるで先ほどのオスカーの動きをまねしたかのように、アルベルチーヌはアクセルとブレーキを使い分けた見事な動きでアーサーと騎士科上級生を抜いた。もちろんマチルダらのアーサーたちへの牽制も奏功したが、それらがなくても難なく抜けたのではないかというくらいエクセレントな動きだった。
そしてアルベルチーヌがロアルドに迫る。
「何もしないわよ」アルベルチーヌはそう言い残してあっさりとロアルドを抜いていった。
ロアルドは何もできなかった。アルベルチーヌが自分を警戒しているなんてウソだとロアルドは思った。
アルベルチーヌが、さらに前をいくマルセルを追った。
しかしマルセルも速い。たちまち周回遅れの一団に追いついた。
アルベルチーヌが再度最後尾についた格好になった。
マルセルを先に行かせて、アーサーと騎士科上級生がアルベルチーヌにブロックをかまそうと後ろに出てきた。
しかし二人にはマチルダらがマンツーマンでマークについていて、その動きは自由にはならなかった。
またしてもアルベルチーヌがこの二人を抜く。そしてロアルドを捉えた。
いったい何回抜かれるんだ?
そんな疑問が浮かんだころにはアルベルチーヌはロアルドを抜いていた。三人抜きを二回。六点あげたことになる。ただ、マルセルだけが抜かれずにアルベルチーヌの前を飛んでいるのだ。
マルセルは速かった。彼にマークについているはずのマチルダチームの騎士科男子は、完全に振り切られていた。
まるでマルセルとアルベルチーヌのデッドヒートのようにレースが進行していた。
そしてさらにスピードアップした。
マルセルが必死になって逃げる。それを追うアルベルチーヌ。高速で周回するためにアルベルチーヌがまた最後尾についた。
この流れでは三度目の三人抜きをされると判断したアーサーが騎士科上級生とともにマルセルに寄った。さきほどまではマルセルを先に行かせて二人でアルベルチーヌをブロックしようとしていたのだが、それが無理だと判断して、マルセルを巻き込んで壁をつくろうとしていた。
そしてそれをロアルドにも要求したのだ。
これは覚悟をした方が良い。ロアルドが壁に加わった瞬間、後ろの方で例のあれが出来上がろうとしていた。
騎士科の男子三人を槍の先にしてアルベルチーヌとマチルダがステッキを重ねて柄の部分になるフォーメーション。ジャマ―がマチルダからアルベルチーヌに変わっただけで前回の攻撃時と全く同じ形だった。その破壊力を知っているだけにロアルドは戦慄した。
誰かの身体強化魔法を借りよう。姉マチルダも許してくれるに違いない。
いや、どうせなら……
それはマルセルがやろうとしていることをスナッチで見たから、そうすることに決めたのだ。
アルベルチーヌがエアロブラストとファイアブラストのコンボを発動し、マチルダチームの五人の矢がロアルドたちの壁に突き刺さろうとした瞬間、マルセルのステッキの尾がマチルダチームの矢の先に向けられた。
高火力のファイアブラストがマルセルのステッキから後ろへ放たれた。あくまでも加速のための放出。決して相手チームを直接狙ったわけではない、という体でマルセルはファイアブラストを放った。
それは火を噴いたという表現がふさわしいものだった。そして同時にロアルドはどさくさ紛れに相手チーム騎士科男子三人からエアロブラストを奪い取って、目に見えぬよう後ろへ放ったのだ。
三人分のエアロブラストとマルセルの高火力ファイアブラストがマチルダチームの矢先の部分すなわち騎士科男子三人に当たった。
ロアルドチームは壁ごと急加速して前へ、そしてマチルダチームの矢先三人は砕け散るようにバラバラになって左右と下に飛んで行った。
その後ろから現れたマチルダとアルベルチーヌの二人が加速して迫ったが、先に加速に成功していたロアルドチーム四人が壁を維持したまま先へ進み、逃げ切った。
タイムアップ。マチルダチームの得点は六点に終わった。
ロアルドはマチルダに睨まれた。スナッチを使ったことがバレたようだ。
あとでどんな仕打ちが待っているかわからない。
ロアルドはため息をついた。
アルベルチーヌが最後尾について試合は開始された。すいすいと助飛行をして最初の追い抜きをする。再度最後尾についてからが得点可能となる。
マチルダがアーサーにつき、騎士科男子三人はマルセル、騎士科上級生、そしてロアルドに一人ずつついた。マンツーマンのマークだ。まとまって前をふさがないので、スピードはそれなりに出ていた。
ロアルドとマルセルはブロックが苦手なので逃げ役だったのだが、スピードが速いマルセルが先頭、ロアルドは二番手にいた。アーサーと騎士科上級生はブロッカーとして少し遅れて飛んでいた。
屈強なブロッカーが四人いれば固まってジャマーの進行を妨害できるのだが、このメンバーではそれは無理だったのだ。
しかしアーサーと騎士科上級生二人だけではアルベルチーヌに対してブロッカーとなることはできなかった。
まるで先ほどのオスカーの動きをまねしたかのように、アルベルチーヌはアクセルとブレーキを使い分けた見事な動きでアーサーと騎士科上級生を抜いた。もちろんマチルダらのアーサーたちへの牽制も奏功したが、それらがなくても難なく抜けたのではないかというくらいエクセレントな動きだった。
そしてアルベルチーヌがロアルドに迫る。
「何もしないわよ」アルベルチーヌはそう言い残してあっさりとロアルドを抜いていった。
ロアルドは何もできなかった。アルベルチーヌが自分を警戒しているなんてウソだとロアルドは思った。
アルベルチーヌが、さらに前をいくマルセルを追った。
しかしマルセルも速い。たちまち周回遅れの一団に追いついた。
アルベルチーヌが再度最後尾についた格好になった。
マルセルを先に行かせて、アーサーと騎士科上級生がアルベルチーヌにブロックをかまそうと後ろに出てきた。
しかし二人にはマチルダらがマンツーマンでマークについていて、その動きは自由にはならなかった。
またしてもアルベルチーヌがこの二人を抜く。そしてロアルドを捉えた。
いったい何回抜かれるんだ?
そんな疑問が浮かんだころにはアルベルチーヌはロアルドを抜いていた。三人抜きを二回。六点あげたことになる。ただ、マルセルだけが抜かれずにアルベルチーヌの前を飛んでいるのだ。
マルセルは速かった。彼にマークについているはずのマチルダチームの騎士科男子は、完全に振り切られていた。
まるでマルセルとアルベルチーヌのデッドヒートのようにレースが進行していた。
そしてさらにスピードアップした。
マルセルが必死になって逃げる。それを追うアルベルチーヌ。高速で周回するためにアルベルチーヌがまた最後尾についた。
この流れでは三度目の三人抜きをされると判断したアーサーが騎士科上級生とともにマルセルに寄った。さきほどまではマルセルを先に行かせて二人でアルベルチーヌをブロックしようとしていたのだが、それが無理だと判断して、マルセルを巻き込んで壁をつくろうとしていた。
そしてそれをロアルドにも要求したのだ。
これは覚悟をした方が良い。ロアルドが壁に加わった瞬間、後ろの方で例のあれが出来上がろうとしていた。
騎士科の男子三人を槍の先にしてアルベルチーヌとマチルダがステッキを重ねて柄の部分になるフォーメーション。ジャマ―がマチルダからアルベルチーヌに変わっただけで前回の攻撃時と全く同じ形だった。その破壊力を知っているだけにロアルドは戦慄した。
誰かの身体強化魔法を借りよう。姉マチルダも許してくれるに違いない。
いや、どうせなら……
それはマルセルがやろうとしていることをスナッチで見たから、そうすることに決めたのだ。
アルベルチーヌがエアロブラストとファイアブラストのコンボを発動し、マチルダチームの五人の矢がロアルドたちの壁に突き刺さろうとした瞬間、マルセルのステッキの尾がマチルダチームの矢の先に向けられた。
高火力のファイアブラストがマルセルのステッキから後ろへ放たれた。あくまでも加速のための放出。決して相手チームを直接狙ったわけではない、という体でマルセルはファイアブラストを放った。
それは火を噴いたという表現がふさわしいものだった。そして同時にロアルドはどさくさ紛れに相手チーム騎士科男子三人からエアロブラストを奪い取って、目に見えぬよう後ろへ放ったのだ。
三人分のエアロブラストとマルセルの高火力ファイアブラストがマチルダチームの矢先の部分すなわち騎士科男子三人に当たった。
ロアルドチームは壁ごと急加速して前へ、そしてマチルダチームの矢先三人は砕け散るようにバラバラになって左右と下に飛んで行った。
その後ろから現れたマチルダとアルベルチーヌの二人が加速して迫ったが、先に加速に成功していたロアルドチーム四人が壁を維持したまま先へ進み、逃げ切った。
タイムアップ。マチルダチームの得点は六点に終わった。
ロアルドはマチルダに睨まれた。スナッチを使ったことがバレたようだ。
あとでどんな仕打ちが待っているかわからない。
ロアルドはため息をついた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる