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赤く光る髪がなびく プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
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オーバーテイカー準決勝、オスカーが最後尾につき、再開した。助飛行から始めて全員を抜いていく。
次に最後尾についた時からが得点可能になる。時計も動き出す。残り時間は少なかった。
先ほどと同じようにするかと思いきや、マチルダのチーム四人ははじめから全速力で飛んだ。そうなるとオスカーも高速で飛ぶ。
オスカーが相手チーム四人の後ろについた時、オスカーのすぐ後ろにマルセル、少し離れてロアルド、さらにずっと後ろにアーサーと騎士科上級生がいて、この二人は周回遅れでマチルダたち四人の前を塞ごうかという位置につけていた。マチルダのチーム四人を前後から挟み撃ちにした格好だ。
するとマチルダとアルベルチーヌが後ろに出てきた。この二人は前を塞がれて速度が落ちたのを良いことに前に向かって飛びながら瞬時に左右や上下に揺れるように動いてオスカーが抜こうとするコースを次々と塞いだ。
しかし前が詰まってきた。この競技は空中で静止したり逆走すると失格となるが、のろのろとでも前へ飛んでいれば許される。
アーサーと騎士科上級生が先頭にいて、マチルダのチームの騎士科二人の行く手を阻み、団子状態になった。この形は、追い抜くコースさえ作れば一気に四人抜ける状態だった。
もう時間がない。ロアルドがそう思った次の瞬間、ブレーキをかけたようにアーサーと騎士科上級生が減速してマチルダたち四人に接触した。その結果、敵味方の騎士科四人がもつれた。
カーブにさしかかったところでアーサーが相手チームの一人の体をつかんで外へ押し出そうとした。
しかし体格に勝る相手チームの騎士科上級生がこらえる。
手薄になったインコースにマチルダとアルベルチーヌがブロックに来た。
オスカーはそこへ向かっていたが、塞がれて前に出られない。
次の瞬間、相手を外に押し出そうとしていたアーサーが突然手を離し、消えるように下へ落ちた。
アーサーに押されていた相手は中へ押し返そうとしていて、その障壁が急になくなったために内へと滑り、マチルダとアルベルチーヌに当たった。
その結果、トラックの最も外側に隙間が空いた。それがちょうど直線になる瞬間だった。
ものすごい勢いでオスカーが加速した。オスカーを後押しするようにマルセルがオスカーの腰に向けてエアロを放っていた。
オスカーが一気に四人を抜き去った。
そこでタイムアップ。ロアルドチームに四点が入った。
ロアルドはその様子を後ろから感心しながら見ていた。
「押してダメなら引いてみな、だぜ」アーサーはすっかり得意気になっていた。
確かに、押すしか能がないと思っていたアーサーが突然押すのを止めたのだ。何だか画期的な出来事のように思えた。
しかし一方でアルベルチーヌがあの瞬間に躊躇したこともロアルドには見えていた。
外側に隙間ができた瞬間、アルベルチーヌは味方上級生を吹き飛ばしてオスカーに当てる魔法を発動直前まで用意していたのだ。そのままオスカーもろとも上級生をコースアウトさせるだけの魔力があった。
これならオスカーは得点できず、相手上級生のコースアウトのみによる一失点ですんだはずだ。
「珍しく遠慮したな」マルセルの言葉が聞こえてきた。彼も同じ見方をしていたようだ。「まだ前半が終わっただけだし、最後なら迷わず味方ごとオスカーを外へ押し出していただろうね」
攻守が交代した。この時点でマチルダのチームがリードしていれば、ロアルドのチームが続いて攻撃するのだが、逆転したためにマチルダのチームに攻撃権が移った。攻守を同じ数こなした後の次の攻撃は常に負けているチームに攻撃権がわたる。同点なら単純に攻守交替となる。
こうして攻撃権が移ったのだが、マチルダとアルベルチーヌは空中トラックを飛んでいた。彼女らが攻撃側プレイヤーになることが明らかとなった。
ジャマーはマチルダが務めるようだ。騎士科男子が一人入った。体格の良い騎士科男子が三人、それにマチルダとアルベルチーヌの布陣だった。
ロアルドのチームはオスカーがトラックから離れた。
ロアルドとしては自分よりもオスカーに出ていて欲しかったが、最後の攻撃に専念するために休息をとるのだろう。
九人がトラックでの飛行を始めた。ゆっくりと周回する。
マチルダが最後尾についたので審判が開始を宣言した。
徐々にスピードを上げながらマチルダが敵味方八人を抜き去り再び最後尾につく頃には、マチルダのチームは五人ともロアルドのチーム四人より後方に来ていた。
先頭に騎士科男子が三人。尖った矢先のように三角形をつくる形で飛んでいる。その三人に覆われるように真ん中にマチルダがいて最後尾の矢の柄にあたるところにアルベルチーヌがいた。
カーブが終わって直線になった瞬間、彼らは塊となって急加速した。
ロアルドのチームのブロック役はアーサーと騎士科上級生の二人だけだ。マルセルもロアルドも逃げる役だった。
「ヤバイよ、あれは」マルセルが恐れ戦き、我先にと前へ加速した。
ロアルドは置いていかれ、後ろにいるアーサーと騎士科上級生の二人に飲み込まれた。
次の瞬間、騎士科三人を剣先にしたような敵五人の塊がロアルドたちを襲った。
マチルダたち五人のステッキはほとんど重なっていた。特にマチルダとアルベルチーヌは二本のステッキに同乗するように前傾姿勢で乗っていて、アルベルチーヌはマチルダの背中につかまり、両足はステッキの上に乗っていたのだ。
その五人の剣先がアーサーと騎士科上級生の背中を襲った瞬間、ロアルドは視た。
あり得ない。アルベルチーヌが最大出力の上級魔法ファイアブラストとエアロブラストのコンボを発動させていた。
その時、アルベルチーヌの髪が一瞬真っ赤に光って風になびいたように見えた。
それが恐ろしいくらい美しかった。
次に最後尾についた時からが得点可能になる。時計も動き出す。残り時間は少なかった。
先ほどと同じようにするかと思いきや、マチルダのチーム四人ははじめから全速力で飛んだ。そうなるとオスカーも高速で飛ぶ。
オスカーが相手チーム四人の後ろについた時、オスカーのすぐ後ろにマルセル、少し離れてロアルド、さらにずっと後ろにアーサーと騎士科上級生がいて、この二人は周回遅れでマチルダたち四人の前を塞ごうかという位置につけていた。マチルダのチーム四人を前後から挟み撃ちにした格好だ。
するとマチルダとアルベルチーヌが後ろに出てきた。この二人は前を塞がれて速度が落ちたのを良いことに前に向かって飛びながら瞬時に左右や上下に揺れるように動いてオスカーが抜こうとするコースを次々と塞いだ。
しかし前が詰まってきた。この競技は空中で静止したり逆走すると失格となるが、のろのろとでも前へ飛んでいれば許される。
アーサーと騎士科上級生が先頭にいて、マチルダのチームの騎士科二人の行く手を阻み、団子状態になった。この形は、追い抜くコースさえ作れば一気に四人抜ける状態だった。
もう時間がない。ロアルドがそう思った次の瞬間、ブレーキをかけたようにアーサーと騎士科上級生が減速してマチルダたち四人に接触した。その結果、敵味方の騎士科四人がもつれた。
カーブにさしかかったところでアーサーが相手チームの一人の体をつかんで外へ押し出そうとした。
しかし体格に勝る相手チームの騎士科上級生がこらえる。
手薄になったインコースにマチルダとアルベルチーヌがブロックに来た。
オスカーはそこへ向かっていたが、塞がれて前に出られない。
次の瞬間、相手を外に押し出そうとしていたアーサーが突然手を離し、消えるように下へ落ちた。
アーサーに押されていた相手は中へ押し返そうとしていて、その障壁が急になくなったために内へと滑り、マチルダとアルベルチーヌに当たった。
その結果、トラックの最も外側に隙間が空いた。それがちょうど直線になる瞬間だった。
ものすごい勢いでオスカーが加速した。オスカーを後押しするようにマルセルがオスカーの腰に向けてエアロを放っていた。
オスカーが一気に四人を抜き去った。
そこでタイムアップ。ロアルドチームに四点が入った。
ロアルドはその様子を後ろから感心しながら見ていた。
「押してダメなら引いてみな、だぜ」アーサーはすっかり得意気になっていた。
確かに、押すしか能がないと思っていたアーサーが突然押すのを止めたのだ。何だか画期的な出来事のように思えた。
しかし一方でアルベルチーヌがあの瞬間に躊躇したこともロアルドには見えていた。
外側に隙間ができた瞬間、アルベルチーヌは味方上級生を吹き飛ばしてオスカーに当てる魔法を発動直前まで用意していたのだ。そのままオスカーもろとも上級生をコースアウトさせるだけの魔力があった。
これならオスカーは得点できず、相手上級生のコースアウトのみによる一失点ですんだはずだ。
「珍しく遠慮したな」マルセルの言葉が聞こえてきた。彼も同じ見方をしていたようだ。「まだ前半が終わっただけだし、最後なら迷わず味方ごとオスカーを外へ押し出していただろうね」
攻守が交代した。この時点でマチルダのチームがリードしていれば、ロアルドのチームが続いて攻撃するのだが、逆転したためにマチルダのチームに攻撃権が移った。攻守を同じ数こなした後の次の攻撃は常に負けているチームに攻撃権がわたる。同点なら単純に攻守交替となる。
こうして攻撃権が移ったのだが、マチルダとアルベルチーヌは空中トラックを飛んでいた。彼女らが攻撃側プレイヤーになることが明らかとなった。
ジャマーはマチルダが務めるようだ。騎士科男子が一人入った。体格の良い騎士科男子が三人、それにマチルダとアルベルチーヌの布陣だった。
ロアルドのチームはオスカーがトラックから離れた。
ロアルドとしては自分よりもオスカーに出ていて欲しかったが、最後の攻撃に専念するために休息をとるのだろう。
九人がトラックでの飛行を始めた。ゆっくりと周回する。
マチルダが最後尾についたので審判が開始を宣言した。
徐々にスピードを上げながらマチルダが敵味方八人を抜き去り再び最後尾につく頃には、マチルダのチームは五人ともロアルドのチーム四人より後方に来ていた。
先頭に騎士科男子が三人。尖った矢先のように三角形をつくる形で飛んでいる。その三人に覆われるように真ん中にマチルダがいて最後尾の矢の柄にあたるところにアルベルチーヌがいた。
カーブが終わって直線になった瞬間、彼らは塊となって急加速した。
ロアルドのチームのブロック役はアーサーと騎士科上級生の二人だけだ。マルセルもロアルドも逃げる役だった。
「ヤバイよ、あれは」マルセルが恐れ戦き、我先にと前へ加速した。
ロアルドは置いていかれ、後ろにいるアーサーと騎士科上級生の二人に飲み込まれた。
次の瞬間、騎士科三人を剣先にしたような敵五人の塊がロアルドたちを襲った。
マチルダたち五人のステッキはほとんど重なっていた。特にマチルダとアルベルチーヌは二本のステッキに同乗するように前傾姿勢で乗っていて、アルベルチーヌはマチルダの背中につかまり、両足はステッキの上に乗っていたのだ。
その五人の剣先がアーサーと騎士科上級生の背中を襲った瞬間、ロアルドは視た。
あり得ない。アルベルチーヌが最大出力の上級魔法ファイアブラストとエアロブラストのコンボを発動させていた。
その時、アルベルチーヌの髪が一瞬真っ赤に光って風になびいたように見えた。
それが恐ろしいくらい美しかった。
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