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魔力なしでいかに飛ぶか プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
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さきほどのオーバーテイカーで負傷者を二名出してしまった。
負傷自体は回復魔法で治療できるが、そうした回復魔法が施こされたプレイヤーがその後の競技に出場することを体育祭では禁じていた。ドーピング扱いになるらしい。
それを言うなら、格闘競技の時に自己を身体強化するのはドーピングではないのかとロアルドは思ったが理屈はよくわからなかった。
急遽オーバーテイカーと空中騎馬戦に出場することになったロアルドとマルセルは学院内の空き地でアーサーとマルセルの指導を受けた。
とはいえ、アーサーもマルセルも出場する種目が多いために彼らの空き時間を利用しての特訓だったので、あまり時間をとることはできなかった。
魔法に秀でたマルセルに関しては体力面の問題だけだった。接触プレーを極力避けること、それだけだ。
しかしロアルドはそれだけで済まない。何しろまともに飛べるようになったのが最近だからだ。
どうにかトラックを周回できるようにはなったが、スピードは騎士科や魔法科の生徒の足元にも及ばず、急に向きを変える技術は皆無といって良かった。
「競技で使用許可が下りているステッキは基本的に真っすぐにしか飛べないんだ」オスカーが説明する。「最新のステッキならエアロの放出部の向きを自由に変えることができるので上昇したり下降したり、右へ旋回、左へ旋回などしやすい。しかしオーバーテイカーはスピードが肝だ。エアロの向きを変えられるステッキではスピードが劣る。だからスピード特化のステッキを使ってもらうのだけれど、魔法なしでカーブするのは相当厳しい。僕にそれをやれと言われても困るくらいだ」
魔法を使えない仕官科の生徒が使うブルーム型ステッキにはエアロの魔石が三個埋められていて、それを後方に放出することで前へ推進する。出力重視のために真後ろにしかエアロが放てないような仕組みになっていた。その代わり出力が三段階だ。
このスピード特化型ステッキでは真っすぐにしか飛べない。上昇するためにはステッキを力づくて起こしてその先を上へと向けなければならないのだ。
空中に静止している状態なら容易だが、高速で飛んでいる状態では相当な力が必要だった。それを騎士科や魔法科の生徒は自らに身体強化魔法を施してパワーアップし、ステッキの向きを力づくで変えているのだった。
非力なロアルドが魔法なしでステッキの向きを変えるのは無理な話だった。たいてい速度を落としてから向きを変える。左へ旋回するときは左へ体を倒し、ステッキの先を力づくで左へ向けるといった具合だった。
「まあ、難しく考えることはない。オーバーテイカーはトラックを周回するだけだから、コース通りに飛んでいれば良いよ」オスカーは簡単なことのように言った。「守備時はひたすら全速力で抜かれないように逃げれば良い。ブロックはアーサーがする。接触してけがをしないように気をつけて」
トラックの直線は三個の魔石を全開にしてスピードアップ、カーブに差し掛かる手前で魔石の効果を切って速度を落とす。スローイン、ファーストアウトの基本通りでいくしかなかった。
何度か練習するうちに左回りのトラックが苦にならなくなった。反対に曲がれと言われても難しいくらいに左回りだけできるようになったのだ。
「問題はやはり空中騎馬戦だね」オスカーが言う。「自由に飛び回らなければならない。空中で急に静止したり、反転したり」
「無理だ……」ロアルドは言った。「急な動きをしなくて良いポジションが良いな。デストロイとか」
「そうだな、しかし……」オスカーは考え込んでいた。
何となく考えていることはわかる。ろくに動けないデストロイはいないのと同じだ。ただでさえ二人欠けて十名になっているのだから。
「陰に隠れていてそっとキャピタルの寝首を掻くトルペドの方が良いように思うな」オスカーが言った。「君は存在感を消すのが上手いから」
「上手いのじゃなくて、単に存在感がないんだよ」ロアルドはむくれた。
負傷自体は回復魔法で治療できるが、そうした回復魔法が施こされたプレイヤーがその後の競技に出場することを体育祭では禁じていた。ドーピング扱いになるらしい。
それを言うなら、格闘競技の時に自己を身体強化するのはドーピングではないのかとロアルドは思ったが理屈はよくわからなかった。
急遽オーバーテイカーと空中騎馬戦に出場することになったロアルドとマルセルは学院内の空き地でアーサーとマルセルの指導を受けた。
とはいえ、アーサーもマルセルも出場する種目が多いために彼らの空き時間を利用しての特訓だったので、あまり時間をとることはできなかった。
魔法に秀でたマルセルに関しては体力面の問題だけだった。接触プレーを極力避けること、それだけだ。
しかしロアルドはそれだけで済まない。何しろまともに飛べるようになったのが最近だからだ。
どうにかトラックを周回できるようにはなったが、スピードは騎士科や魔法科の生徒の足元にも及ばず、急に向きを変える技術は皆無といって良かった。
「競技で使用許可が下りているステッキは基本的に真っすぐにしか飛べないんだ」オスカーが説明する。「最新のステッキならエアロの放出部の向きを自由に変えることができるので上昇したり下降したり、右へ旋回、左へ旋回などしやすい。しかしオーバーテイカーはスピードが肝だ。エアロの向きを変えられるステッキではスピードが劣る。だからスピード特化のステッキを使ってもらうのだけれど、魔法なしでカーブするのは相当厳しい。僕にそれをやれと言われても困るくらいだ」
魔法を使えない仕官科の生徒が使うブルーム型ステッキにはエアロの魔石が三個埋められていて、それを後方に放出することで前へ推進する。出力重視のために真後ろにしかエアロが放てないような仕組みになっていた。その代わり出力が三段階だ。
このスピード特化型ステッキでは真っすぐにしか飛べない。上昇するためにはステッキを力づくて起こしてその先を上へと向けなければならないのだ。
空中に静止している状態なら容易だが、高速で飛んでいる状態では相当な力が必要だった。それを騎士科や魔法科の生徒は自らに身体強化魔法を施してパワーアップし、ステッキの向きを力づくで変えているのだった。
非力なロアルドが魔法なしでステッキの向きを変えるのは無理な話だった。たいてい速度を落としてから向きを変える。左へ旋回するときは左へ体を倒し、ステッキの先を力づくで左へ向けるといった具合だった。
「まあ、難しく考えることはない。オーバーテイカーはトラックを周回するだけだから、コース通りに飛んでいれば良いよ」オスカーは簡単なことのように言った。「守備時はひたすら全速力で抜かれないように逃げれば良い。ブロックはアーサーがする。接触してけがをしないように気をつけて」
トラックの直線は三個の魔石を全開にしてスピードアップ、カーブに差し掛かる手前で魔石の効果を切って速度を落とす。スローイン、ファーストアウトの基本通りでいくしかなかった。
何度か練習するうちに左回りのトラックが苦にならなくなった。反対に曲がれと言われても難しいくらいに左回りだけできるようになったのだ。
「問題はやはり空中騎馬戦だね」オスカーが言う。「自由に飛び回らなければならない。空中で急に静止したり、反転したり」
「無理だ……」ロアルドは言った。「急な動きをしなくて良いポジションが良いな。デストロイとか」
「そうだな、しかし……」オスカーは考え込んでいた。
何となく考えていることはわかる。ろくに動けないデストロイはいないのと同じだ。ただでさえ二人欠けて十名になっているのだから。
「陰に隠れていてそっとキャピタルの寝首を掻くトルペドの方が良いように思うな」オスカーが言った。「君は存在感を消すのが上手いから」
「上手いのじゃなくて、単に存在感がないんだよ」ロアルドはむくれた。
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