スナッチ ボクに魔力はありません 王都学院の異端児

hakusuya

文字の大きさ
上 下
57 / 86

難なくアーサーは勝つ プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院

しおりを挟む
 空中トラックのスタートラインに騎士科一年生十人が横並びに浮いていた。
 アーサーは内側から三人目だ。トラック競技である以上、内側が有利なのは間違いない。
 アーサーより内側の二人はそれほど目立つ生徒ではなさそうだ。というより騎士科一年生でアーサーより体格の良い生徒はいなかった。
 個人競飛行のコースは一周。飛鉱石ひこうせきがはめられただけのステッキを使って空中飛行する。加速や方向転換は自らの魔法で行わなければならない。その他身体強化などの魔法は認められているが、一緒に飛ぶ競争相手を直接攻撃する魔法は禁じられていた。
 審判がスタートの合図を示す閃光空気弾を上空に放った。
 予想通りアーサーがスタートダッシュに成功した。トップで第一コーナーにさしかかる。
 そのままトラックの最内側に沿って旋回した。
 二番手はアーサーの後につづいて曲がったが、三番手は第一コーナーの外に立つ支柱を蹴って方向転換し、加速した。これによりアーサーにかなり迫ることに成功した。
 しかし第一コーナーと第二コーナーとの間は、第二と第三に比べて短い。すぐに第二コーナーにさしかかった。
 ここで先頭を行くアーサーが速度を落とさずに支柱に到達し、支柱を蹴って方向転換して加速した。
 コーナーをトラックに沿って曲がっていた二番手は一時アーサーにならびかけていたが、アーサーの支柱を使った方向転換による加速で再び距離をあけられた。
 要するに支柱を使う方向転換は第二、第四コーナーで行う方が効果的なのだ。第一、第三だとすぐに次のコーナーになり、加速効果が失われる。
 スタートとともにトップにたったアーサーだから王道のレースができたのだ。
 どう考えてもこのままアーサーがトップでゴールインするのは間違いなかった。
 だからそれを阻止するべく、アーサーを憎く思う上級生たちが第四コーナーの支柱のそばに集結していたのだった。
 アーサーはそのままトラックに沿って第四コーナーをカーブしても一位は間違いなかった。しかし個人競飛行のランク付けはタイムによるのだ。タイムが同着のときだけ、レースの順位が加味される。だからアーサーは第四コーナーの支柱を蹴るはずだった。
 アーサーが支柱を蹴る瞬間に、妨害工策をする生徒たちはアーサーに向けて気づかれない程度の閃光魔法やら風魔法を放ったり、支柱を揺らす振動魔法を放つ準備をしていた。
 だからロアルドはそれら全てを刈り取った。
 アーサーは何の苦も無く支柱を蹴り、方向転換して、最後の直線コースをフルスロットルに加速した。
 アーサーはステッキに跨っていない。ステッキを握ったままステッキと平行になるように両脚を揃えて真一文字の姿で飛んでいた。
 アーサーはトップでゴールインした。そのタイムは現時点で個人競飛行のトップに躍り出るものだった。
 妨害工策を行おうとしていた連中は顔を見合わせていた。全員が不思議そうな顔をしている。
 なぜ魔法が発動されなかったのか。そんなおかしな現象があるのか。
 しかしその疑問はその後も続いた。
 彼らはその後行われたレースもすべて妨害しようと試みた。おそらくアーサーに対する私怨を持つものだけの集まりではなかったのだろう。体育祭賭博に関係した妨害だったようだ。
 オッズの低い、人気の高いチームが負けるように工作していたようだが、ロアルドは可能な限り彼らの工作を邪魔した。
 何度も歯を食いしばり息を止めたからロアルドは疲れた。
 少しは褒めてくれても良いのではないかと、ロアルドは姉マチルダの顔を思い浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...