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空中浮遊の原理 プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院

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「魔法を持たない者が飛鉱石の力で宙に浮いた状態から地面に着地するには、飛鉱石とステッキとの絶縁を少しずつ行う必要がある。単純にオンオフの『全か無か』の切り替えだと、墜落してしまうのだ。そこで開発されたのが、徐々に飛鉱石とのつながりを断つこのダイヤルだ。これをゆっくりと回すと少しずつ飛鉱石の浮遊魔力が減弱する仕組みになっている。なお、この仕組みを実用化したのもエゼルムンド帝国だ」
 教官は自ら実演した。ステッキにまたがり上昇する。そして宙に静止したら、こんどはゆっくりと下りてきて、地面に足をついた。
「ゆっくりとしか下りられないのが難点だ。ちなみにこの動作を逆に行うとゆっくりと上昇することができる」
 今度は教官がゆっくりと上昇した。
「以上が、魔法を持たない者が飛鉱石の力のみで浮いたり下りたりする方法だ。上昇には一気に昇る方法とゆっくり昇る方法があるが、下りる時はゆっくり下りるしかない。一気に下りたら墜落になる。さて、まずはこれを二人にやってもらおう」
 そこでようやく選ばれた大柄男子と小柄女子がステッキに跨って上昇下降の練習をすることになった。
 ふたりの体がゆっくりと上昇する。
「おお!」という声があちこちで上がった。
 ふたりの体は宙に浮いて止まった。しかしその高さに違いがあった。
 大柄な男子は二メートルくらい、小柄な女子は四メートル上で止まり、小柄女子が大柄男子を見下ろすかたちになった。
「なぜこのようになったか、賢明な諸君ならわかるだろう」教官が説明を始めた。「同じ大きさの飛鉱石なら、体重の軽い者ほど高く上昇することができる。飛鉱石の浮遊メカニズムは、その石の内部に秘められた魔法エネルギーを位置エネルギーに変換することにあると考えられている。単位時間あたりの変換量は飛鉱石の大きさに依存する。同じ大きさの飛鉱石は常に一定量のエネルギー変換を行うから一定の位置エネルギーが得られることになる。そして位置エネルギーは質量と高さの積に比例するから、この二人のように体重の違いで高さの違いが生じてしまうのだ。だから二人が同じ高さに浮かぶためには体重の重い彼にはそれなりの大きさの飛鉱石が必要になるのだ」
 教官は大柄男子に下りるように言い、下りてきた彼に別のステッキを手渡した。そのステッキを使った彼は、小柄女子とほぼ同じ高さまで浮遊することができた。
「以上が、魔法を持たない者が飛鉱石の力のみで浮遊する方法なのだが、これだと一定の高さに上昇してゆっくりと下りてくることしかできない。もっと高く飛んだり、横へ移動したりできないのだ。そこでまた別の魔石が必要となる。風の魔石だ。この魔石の魔力でもってステッキの後ろへエアロを放つと前へ推進することができる。横へ動くことができるし、斜め下へエアロを噴射すれば上昇することもできる。逆もまたしかりだ。ステッキの向きを変えることで下降することもできる。しかもエアロの勢いもまた別のダイヤルを操作することで強弱をつけられるからスピードも変えられるというわけだ。なおこれを実用化したのもまたエゼルムンド帝国の技術だ」
 どうも教官はエゼルムンド帝国にかぶれているらしい。
「このブルーム型ステッキが開発されたので、魔法を持たない者も空を自由に飛べるようになった。それまでは魔法を持つものだけが空を飛べたのだ。棒状のものに飛鉱石を埋め込み、それに自らの魔力を注入することで飛鉱石の位置エネルギー変換を自由に変え、また推進力も自分の魔法で自由に変えられたからこのような道具は必要なかった」
「杖がなくても、飛鉱石を身に着けているだけでも空を飛べるということでしょうか?」誰かが質問した。
「もちろん、そうだ。必ずしも杖状のものは必要ない。ブローチのように胸につけているだけでも飛鉱石の力で浮遊し、あとは自らの魔法で自由に動くことはできる……」
「ならば、箒のようなものは必要ないのでは?」
「実は棒状のものに飛鉱石の魔力を伝達した方が速く飛べるのだ。胸につけるだけだと自らが棒のような姿勢にならざるを得ない」
 そう言うと教官は両手を頭上に真っすぐと伸ばし、直立状態で真上に飛んだ。その姿勢のまま横になり水平に飛ぶ。細長い魚が泳いでいるみたいで格好の良いものではなかった。
「しかも……」教官は地面に降り立った。「ステッキを持つよりも明らかに遅い。どうしてそのような現象になるのかはまだ解明されていない」
 なるほどと生徒たちは頷いた。
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