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空中飛行 プレセア暦三〇四六年 コーネル邸
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「見て見て、お兄さま」ロージーの声が上から聞こえる。
ロアルドは見上げていた。
長いステッキに跨がったロージーが空中をすいすい飛んでいた。その後ろを見守るようにジェシカも飛んでいる。
ジェシカが飛鉱石を利用した空中飛行をロージーに教えていたのだった。
街に出かけた時に広場で紙芝居男女の捕り物に遭遇し、ジェシカが空を飛んだのだが、その時使用したステッキは王都学院の実習で使ったものだという。
それと似たものをジェシカと父エドワードが作成した。庭にあった丈夫な樹木の枝を使い、飛鉱石を埋め込んだものだ。即席だが再現度は高い。
父エドワードはロアルドの横で末娘が楽しそうに空を飛んでいる様子を見て喜んだ。
「大昔は箒に跨がって飛んだらしい」エドワードが言った。「他に身近な杖状のものがなかったのだろう。飛鉱石だけだと宙に浮くだけだ。何らかの魔法を後ろに向かって勢いよく放つことで前に推進力が出る。ゆっくり安全に飛ぶならエアロだけで十分だな。ファイアやサンダーは急加速に欠かせないが初心者には危険だ」
念のために地上少し上に網状に魔法結界が張られていた。落ちたときにその体を包み込む。
「お前も私の魔法を使って飛んでみるか?」
「遠慮します。すぐにスナッチの圏外に出てしまって墜落しますから」
「そうか」エドワードは残念そうな顔をした。
飛鉱石は島国であるバングレア王国の至るところでたくさん見つかる。
その量は大陸で採れる量の遥か上をいっていた。
その昔バングレア王国が空に浮かび、空の国と言われていた神話は、王国内で飛鉱石がたくさん採れることに由来していた。
しかし現実的には空を飛ぶことはできない。せいぜい飛行船を飛ばすのに使われるくらいだ。
王国は飛鉱石と飛行船を他国に売ることで巨大な富を得ていた。
ロージーとジェシカの二人が降りてきた。
「ああ、楽しかった」ロージーは楽しさを顔に出した。「お兄さまも飛んでみない?」
「だから僕は魔法が使えないから」
「浮くだけならできるのじゃない?」ジェシカが言った。「動けなくても」
「私の後ろに乗せてあげるわよ」ロージーはすっかり得意満面だ。
「二人乗りはロージーにはまだ無理よ」
「そうかなあ」
ジェシカはステッキを小さくして耳の中にしまった。
「そんなに小さくなるとは便利だな」エドワードが感心する。
「ステッキについている魔石に圧縮魔法もかけられているのよ。魔石が砂粒くらいに縮むとそれに合わせてステッキも縮むというわけ」
「グレース姉さまの髪挿しくらいの大きさにして髪に挿せば良いのに」
「そうね、それも良いかな」ジェシカは今さらのように言った。
「それを考えた教官は東方の大陸の童話にヒントを得たのだろう」エドワードが言った。「確か猿族の少年が伸び縮みする棍棒を耳から取り出して敵をやっつけたとか」
「だとしたら私たち生徒は猿に見立てられているということね。今度授業の時に抗議するわ」
「まあ待て。便利なことには変わりないだろう」エドワードは憤慨する娘をなだめた。
自分が空を飛ぶことなど一生ないだろうとロアルドは思った。ロアルドは高いところが苦手だったのだ。
まさか二年後にそれで悪戦苦闘することになるとは、その時は思いもしなかった。
ロアルドは見上げていた。
長いステッキに跨がったロージーが空中をすいすい飛んでいた。その後ろを見守るようにジェシカも飛んでいる。
ジェシカが飛鉱石を利用した空中飛行をロージーに教えていたのだった。
街に出かけた時に広場で紙芝居男女の捕り物に遭遇し、ジェシカが空を飛んだのだが、その時使用したステッキは王都学院の実習で使ったものだという。
それと似たものをジェシカと父エドワードが作成した。庭にあった丈夫な樹木の枝を使い、飛鉱石を埋め込んだものだ。即席だが再現度は高い。
父エドワードはロアルドの横で末娘が楽しそうに空を飛んでいる様子を見て喜んだ。
「大昔は箒に跨がって飛んだらしい」エドワードが言った。「他に身近な杖状のものがなかったのだろう。飛鉱石だけだと宙に浮くだけだ。何らかの魔法を後ろに向かって勢いよく放つことで前に推進力が出る。ゆっくり安全に飛ぶならエアロだけで十分だな。ファイアやサンダーは急加速に欠かせないが初心者には危険だ」
念のために地上少し上に網状に魔法結界が張られていた。落ちたときにその体を包み込む。
「お前も私の魔法を使って飛んでみるか?」
「遠慮します。すぐにスナッチの圏外に出てしまって墜落しますから」
「そうか」エドワードは残念そうな顔をした。
飛鉱石は島国であるバングレア王国の至るところでたくさん見つかる。
その量は大陸で採れる量の遥か上をいっていた。
その昔バングレア王国が空に浮かび、空の国と言われていた神話は、王国内で飛鉱石がたくさん採れることに由来していた。
しかし現実的には空を飛ぶことはできない。せいぜい飛行船を飛ばすのに使われるくらいだ。
王国は飛鉱石と飛行船を他国に売ることで巨大な富を得ていた。
ロージーとジェシカの二人が降りてきた。
「ああ、楽しかった」ロージーは楽しさを顔に出した。「お兄さまも飛んでみない?」
「だから僕は魔法が使えないから」
「浮くだけならできるのじゃない?」ジェシカが言った。「動けなくても」
「私の後ろに乗せてあげるわよ」ロージーはすっかり得意満面だ。
「二人乗りはロージーにはまだ無理よ」
「そうかなあ」
ジェシカはステッキを小さくして耳の中にしまった。
「そんなに小さくなるとは便利だな」エドワードが感心する。
「ステッキについている魔石に圧縮魔法もかけられているのよ。魔石が砂粒くらいに縮むとそれに合わせてステッキも縮むというわけ」
「グレース姉さまの髪挿しくらいの大きさにして髪に挿せば良いのに」
「そうね、それも良いかな」ジェシカは今さらのように言った。
「それを考えた教官は東方の大陸の童話にヒントを得たのだろう」エドワードが言った。「確か猿族の少年が伸び縮みする棍棒を耳から取り出して敵をやっつけたとか」
「だとしたら私たち生徒は猿に見立てられているということね。今度授業の時に抗議するわ」
「まあ待て。便利なことには変わりないだろう」エドワードは憤慨する娘をなだめた。
自分が空を飛ぶことなど一生ないだろうとロアルドは思った。ロアルドは高いところが苦手だったのだ。
まさか二年後にそれで悪戦苦闘することになるとは、その時は思いもしなかった。
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