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そして二階へ プレセア暦三〇四八年 王都コル某邸宅
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グレースとともに部屋を出たスチュワート教授を追いたかったが、給仕の女ふたりが立ちふさがった。その手にはいつの間にかナイフが握られていた。その一方でどこからか攻撃魔法は飛んでき続けている。
「移動しよう」マルセルがロアルドの手を掴んだ。
二人の体は一メートル浮かび、次の瞬間二メートル離れた床に着地した。
マルセルが瞬間移動を使ったようだ。途中に障害物があるとまずいので短い距離で連続に動く。
「壁を通り抜けることもできないことはないが、少し時間がかかるんだ。僕はまだ魔法を使うのに慣れていないのでね」
それだけ数えきれない魔法を抱えていてほとんど使ったことがないというのか。
「単純な魔法しかまともに使えないよ」
マルセルが言う「単純」が何を指すのかロアルドにはわからなかった。記憶を操作する魔法は「単純」に含まれるのだろうか。
できればスチュワート教授のグレースに関わる記憶は消しておきたい。「ラテナリ語版全世界魔法大全第六巻」に関するものだけではなく、グレースを介して文献検索していた記憶なども全て。彼にとってグレースは会ったこともない学生のひとりにしておきたかった。
そしてまたこうも思う。魔法の持ち主が使い慣れていない魔法を果たして自分は使いこなせることができるのだろうか。
二人は部屋の外へ出た。給仕の女が追ってこないように、扉を閉め、その扉が開かないように細工を施した。魔法で金属部分を溶接したのだ。
「これでしばらくはもつだろう。ナイフで扉を突き破ってくるかもしれないけれど」マルセルが笑みを浮かべた。
そして寝室を探す。彼らは寝室に向かったに違いない。
攻撃魔法がその後も飛んできていた。
二階に上がったところで、魔法を使っている者の存在を捉えた。魔法が見えたのだ。
屋根裏あたりに発動されようとしている魔法があった。
ロアルドは息を止めた。
発動直前の魔法をすべて奪い、その持ち主に向けて放った。
屋根裏のあちこちで、どすんどすんという音が聞こえた。
「まさか……彼女がもう来たのか?……」マルセルがつぶやいた。
「彼女?」何のことだかロアルドにはわからなかった。
「いや、何でもない、それより急ごう」
攻撃魔法はその後も飛んできた。おそらく屋根裏以外にもまだ複数の魔法師がいたのだろう。ほんとうにマルセルが言う通り屋根の上にいるのかもしれない。だとしたらスナッチが届かない可能性がある。
「いったい、どこだ?」
小さな邸とはいえ部屋数は多かった。その一つ一つに鍵がかけられていて、中に入るにはいちいち鍵を壊さねばならなかった。そうして中に入ったところで、そこが無人という状態が続いた。
「たぶんここだ」ロアルドは言った。たぶんではなく確信だ。中にスチュワート教授の魔法を感じる。そしてまたグレースの魔法も。
たとえ眠っていてもその人物が持つ魔法は見える。スナッチの圏内にグレースの魔法を捉えた。
「じゃあ、突き破るぞ」マルセルが言った。
「頼む!」
突き破った瞬間、鉈のようなものが振り下ろされた。
「移動しよう」マルセルがロアルドの手を掴んだ。
二人の体は一メートル浮かび、次の瞬間二メートル離れた床に着地した。
マルセルが瞬間移動を使ったようだ。途中に障害物があるとまずいので短い距離で連続に動く。
「壁を通り抜けることもできないことはないが、少し時間がかかるんだ。僕はまだ魔法を使うのに慣れていないのでね」
それだけ数えきれない魔法を抱えていてほとんど使ったことがないというのか。
「単純な魔法しかまともに使えないよ」
マルセルが言う「単純」が何を指すのかロアルドにはわからなかった。記憶を操作する魔法は「単純」に含まれるのだろうか。
できればスチュワート教授のグレースに関わる記憶は消しておきたい。「ラテナリ語版全世界魔法大全第六巻」に関するものだけではなく、グレースを介して文献検索していた記憶なども全て。彼にとってグレースは会ったこともない学生のひとりにしておきたかった。
そしてまたこうも思う。魔法の持ち主が使い慣れていない魔法を果たして自分は使いこなせることができるのだろうか。
二人は部屋の外へ出た。給仕の女が追ってこないように、扉を閉め、その扉が開かないように細工を施した。魔法で金属部分を溶接したのだ。
「これでしばらくはもつだろう。ナイフで扉を突き破ってくるかもしれないけれど」マルセルが笑みを浮かべた。
そして寝室を探す。彼らは寝室に向かったに違いない。
攻撃魔法がその後も飛んできていた。
二階に上がったところで、魔法を使っている者の存在を捉えた。魔法が見えたのだ。
屋根裏あたりに発動されようとしている魔法があった。
ロアルドは息を止めた。
発動直前の魔法をすべて奪い、その持ち主に向けて放った。
屋根裏のあちこちで、どすんどすんという音が聞こえた。
「まさか……彼女がもう来たのか?……」マルセルがつぶやいた。
「彼女?」何のことだかロアルドにはわからなかった。
「いや、何でもない、それより急ごう」
攻撃魔法はその後も飛んできた。おそらく屋根裏以外にもまだ複数の魔法師がいたのだろう。ほんとうにマルセルが言う通り屋根の上にいるのかもしれない。だとしたらスナッチが届かない可能性がある。
「いったい、どこだ?」
小さな邸とはいえ部屋数は多かった。その一つ一つに鍵がかけられていて、中に入るにはいちいち鍵を壊さねばならなかった。そうして中に入ったところで、そこが無人という状態が続いた。
「たぶんここだ」ロアルドは言った。たぶんではなく確信だ。中にスチュワート教授の魔法を感じる。そしてまたグレースの魔法も。
たとえ眠っていてもその人物が持つ魔法は見える。スナッチの圏内にグレースの魔法を捉えた。
「じゃあ、突き破るぞ」マルセルが言った。
「頼む!」
突き破った瞬間、鉈のようなものが振り下ろされた。
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