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スチュワート教授を尾行 プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
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どうすべきか迷った挙句、ロアルドはスチュワート教授を尾行することにした。まずは対象の観察だ。スチュワート教授がどのような人物なのか、ロアルドは全くと言っていいほど情報をもたなかった。その上、ロアルドはひとりでは何もできない。ロアルドができることは頭と足をつかった追跡のみだった。
しかしそれは予想以上に困難を極めた。
スチュワート教授は毎日のように図書館を訪れた。おそらくその頻度は以前より増しているだろう。以前は週に二度か三度だったとオスカーから聞いた。ところが今はほとんど毎日なのだ。
明らかに姉グレースに対するアプローチが増えている。
ロアルドは可能な限り、スチュワート教授とグレースの間でなされる文献検索の際には、スナッチの射程内に身を置いて、スチュワート教授のグレースに対する精神支配系魔法の邪魔をしたが、どう考えても限界がある。息をとめているときしか邪魔ができないからだ。
ロアルドは疲労を感じる毎日を過ごすことになった。
そして文献検索が終わったら、スチュワート教授を尾行する。
ところがそれがまた困難を極めた。
スチュワート教授は移動に身体強化魔法を使った。おそらく他の教官たちも同じことをしているのだろう。地道に自力で歩行しているのはロアルドのような魔法を持たない凡人だけだ。王都学院の生徒であるなら仕官科の生徒くらいだろう。
だからロアルドは、すぐにスチュワート教授の姿を見失った。
彼を尾行して自宅の場所をつきとめたりなどということは夢のような話だった。
四十前後に見えるスチュワート教授には妻子がいると考えるのが妥当だろう。
王都学院の教官には何らかの爵位が与えられている。貴族の子息を教える以上、教官もまた貴族であるべきという考えからだ。
その爵位というのが面倒な制度でもある。跡取りがなければ返上することになる。だから爵位を持つものは必ず配偶者をそなえ、子を儲けるのが慣例となっていた。四十前後で妻子がいない貴族は滅多にいなかった。妻と死別してもすぐに後妻をとる。
スチュワート教授がもし妻がいない身なら、姉グレースを娶るという話もありなのだが、そうではなさそうだった。
その日もロアルドは、何度目かの尾行を試みたが失敗してしまった。スチュワート教授に気づかれてしまったのだ。
「何か私に用かね?」
隠れるところがない道でスチュワート教授は振り返り、ロアルドに声をかけた。
「あの、その……」ここでコミュニケーション障害が発動する。
「毎日のように私のあとを追っていたようだが、用があるのなら言いなさい」
尾行はとっくの昔に気づかれていたようだ。
「僕、仕官科一年生のロアルド・コーネルと言います」
「コーネル?」スチュワート教授はすぐに警戒の表情を浮かべた。「グレース・コーネル君の……」
「弟です」ロアルドは答えた。「姉にとっては恥ずかしいくらい出来損ないで、弟と名乗るのも憚れるので、あまり公にはしておりませんが」
「そうか」スチュワート教授はしばしの間考えた挙句、ロアルドに同行を許した。「一緒に来なさい。話を聞こう」
「はい、お願いします」
ロアルドは、従うしかなかった。
しかしそれは予想以上に困難を極めた。
スチュワート教授は毎日のように図書館を訪れた。おそらくその頻度は以前より増しているだろう。以前は週に二度か三度だったとオスカーから聞いた。ところが今はほとんど毎日なのだ。
明らかに姉グレースに対するアプローチが増えている。
ロアルドは可能な限り、スチュワート教授とグレースの間でなされる文献検索の際には、スナッチの射程内に身を置いて、スチュワート教授のグレースに対する精神支配系魔法の邪魔をしたが、どう考えても限界がある。息をとめているときしか邪魔ができないからだ。
ロアルドは疲労を感じる毎日を過ごすことになった。
そして文献検索が終わったら、スチュワート教授を尾行する。
ところがそれがまた困難を極めた。
スチュワート教授は移動に身体強化魔法を使った。おそらく他の教官たちも同じことをしているのだろう。地道に自力で歩行しているのはロアルドのような魔法を持たない凡人だけだ。王都学院の生徒であるなら仕官科の生徒くらいだろう。
だからロアルドは、すぐにスチュワート教授の姿を見失った。
彼を尾行して自宅の場所をつきとめたりなどということは夢のような話だった。
四十前後に見えるスチュワート教授には妻子がいると考えるのが妥当だろう。
王都学院の教官には何らかの爵位が与えられている。貴族の子息を教える以上、教官もまた貴族であるべきという考えからだ。
その爵位というのが面倒な制度でもある。跡取りがなければ返上することになる。だから爵位を持つものは必ず配偶者をそなえ、子を儲けるのが慣例となっていた。四十前後で妻子がいない貴族は滅多にいなかった。妻と死別してもすぐに後妻をとる。
スチュワート教授がもし妻がいない身なら、姉グレースを娶るという話もありなのだが、そうではなさそうだった。
その日もロアルドは、何度目かの尾行を試みたが失敗してしまった。スチュワート教授に気づかれてしまったのだ。
「何か私に用かね?」
隠れるところがない道でスチュワート教授は振り返り、ロアルドに声をかけた。
「あの、その……」ここでコミュニケーション障害が発動する。
「毎日のように私のあとを追っていたようだが、用があるのなら言いなさい」
尾行はとっくの昔に気づかれていたようだ。
「僕、仕官科一年生のロアルド・コーネルと言います」
「コーネル?」スチュワート教授はすぐに警戒の表情を浮かべた。「グレース・コーネル君の……」
「弟です」ロアルドは答えた。「姉にとっては恥ずかしいくらい出来損ないで、弟と名乗るのも憚れるので、あまり公にはしておりませんが」
「そうか」スチュワート教授はしばしの間考えた挙句、ロアルドに同行を許した。「一緒に来なさい。話を聞こう」
「はい、お願いします」
ロアルドは、従うしかなかった。
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