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行き場のない思い (カウンタークルー 瀧本あづさ)
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九時頃からあづさはマンションの前に張り込んでいた。先週の同じ曜日の九時半頃に彼らが出てきたらしい。同じ条件なら今日も彼らが出てくるのは九時半のはずだった。
エレベーターが松原の部屋のある階まで上がったのを確認して、あづさは玄関を入りエレベーターの前に立った。
エレベーターがゆっくりと下りてくる。それが早いのか遅いのか、今のあづさにはわからなかった。
何て言ってやろうかといろいろ考えたが、結局気の利いたことばは思いつかなかった。
扉が開き、男女が出てきた。男の方は間違いなく英司だった。
英司はあづさの姿を見とめると、ぎょっとしたように立ちすくんだ。
すかさずあづさは声をかけた。
「英司君、お別れを言いに来たのよ」
隣の女には一切視線を送らない。どんな女かなんて関係なかった。
「お別れ?」
英司は言葉を探しているようだった。さすがの彼も窮地に立たされて狼狽している。
「あなたとのお付き合いは、もうこれっきりということで……。私の前には二度と姿を現さないで」
あづさは精一杯英司を睨みつけた。これで終わりにするのだと自分に言い聞かせるために。
「二度と……」と英司は言葉がでない。
あづさは終わったと感じた。あとは踵を返すだけだった。
「英司君、これが君の彼女なの? こんなヤンキーみたいなのが? 信じられない。趣味悪ーい!」
突然隣りの女が甲高い声で発言した。そのひとことひとことがあづさの心を毒矢のように刺していった。
「とにかく、私の半径五メートル以内には入ってこないで! お店にも来ないでよ!」
女の一言を振りほどくためにあづさはそう言った。しかし女はあづさより明らかに狡猾だった。
「お店? あなたキャバクラ嬢だったの?」
あづさは発作的に手を振り上げていた。しかしそれを振り下ろす気力は全くなかった。
(この女もいずれ同じような目にあうんだわ)
そう思うと女に対しても憐れみのような気持ちが湧いてきて、彼女に憤っても仕方がない気がしてきたのだ。あづさはすっかり萎えていた。
そのまま黙って背を向け、マンションを出た。早足で逃げる。いつの間にか目は涙で溢れ、どこをどう走ったかわからなくなっていた。
気がつくとあづさは、QS明葉ビル店の前にいた。
店はすでに閉店していた。店の横の倉庫にゴミ袋をいくつも運び込む松原の姿があった。
その姿を見るとどうしようもない感情が湧き上がり、あづさは泣きながら松原に駆け寄った。
「どうした?」
松原はきょとんとした顔をして、あづさの体を受け止めた。
エレベーターが松原の部屋のある階まで上がったのを確認して、あづさは玄関を入りエレベーターの前に立った。
エレベーターがゆっくりと下りてくる。それが早いのか遅いのか、今のあづさにはわからなかった。
何て言ってやろうかといろいろ考えたが、結局気の利いたことばは思いつかなかった。
扉が開き、男女が出てきた。男の方は間違いなく英司だった。
英司はあづさの姿を見とめると、ぎょっとしたように立ちすくんだ。
すかさずあづさは声をかけた。
「英司君、お別れを言いに来たのよ」
隣の女には一切視線を送らない。どんな女かなんて関係なかった。
「お別れ?」
英司は言葉を探しているようだった。さすがの彼も窮地に立たされて狼狽している。
「あなたとのお付き合いは、もうこれっきりということで……。私の前には二度と姿を現さないで」
あづさは精一杯英司を睨みつけた。これで終わりにするのだと自分に言い聞かせるために。
「二度と……」と英司は言葉がでない。
あづさは終わったと感じた。あとは踵を返すだけだった。
「英司君、これが君の彼女なの? こんなヤンキーみたいなのが? 信じられない。趣味悪ーい!」
突然隣りの女が甲高い声で発言した。そのひとことひとことがあづさの心を毒矢のように刺していった。
「とにかく、私の半径五メートル以内には入ってこないで! お店にも来ないでよ!」
女の一言を振りほどくためにあづさはそう言った。しかし女はあづさより明らかに狡猾だった。
「お店? あなたキャバクラ嬢だったの?」
あづさは発作的に手を振り上げていた。しかしそれを振り下ろす気力は全くなかった。
(この女もいずれ同じような目にあうんだわ)
そう思うと女に対しても憐れみのような気持ちが湧いてきて、彼女に憤っても仕方がない気がしてきたのだ。あづさはすっかり萎えていた。
そのまま黙って背を向け、マンションを出た。早足で逃げる。いつの間にか目は涙で溢れ、どこをどう走ったかわからなくなっていた。
気がつくとあづさは、QS明葉ビル店の前にいた。
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その姿を見るとどうしようもない感情が湧き上がり、あづさは泣きながら松原に駆け寄った。
「どうした?」
松原はきょとんとした顔をして、あづさの体を受け止めた。
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