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親友の恋
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だが葉月聖子という女は、説明を求める真介に、それは裏切りではないと言い放つ。『真介君は、ただのボーイフレンドよ。恋人じゃないわ』と、片付けたのだ。
彼女は初めての恋人であると同時に、初めての女である。
それだけに彼女の軽い言葉は、耐え難い屈辱であり、真介を自信喪失に陥らせた。
「どうして今頃会うんだよ。葉月も葉月だが、お前も何を考えてるんだ」
慧一は友人の心情を理解できず、強い口調で詰め寄る。
「うん……まあ、そうなんだが」
真介は口ごもりながらも、慧一の目をまっすぐに見た。
「聖子のやつ、あの時の男と結婚したものの、結局上手くいかなかったらしいんだ。金遣いの荒さと暴力に苦しめられて、去年離婚したって」
過去に自分を裏切った女の不幸を、同情の滲む声で説明した。
「そんなのは自業自得だよ。それで何か、やっとお前の良さが分かったからやり直したいとか言われて、その気になっちまってるわけか」
珍しく怒りを露わにする慧一に、真介はひと言もなく俯いた。
重苦しい沈黙が二人の間に下りる。
向かいに座る峰子はよく分からないなりに、不穏な状況を読み取っていた。葉月聖子という女性は、慧一から見て好ましい相手ではないらしい――
「行こうぜ、峰子」
慧一は立ち上がった。
俯いたままの真介を残し、峰子を促して店の出口へと進む。
真介のああいったところが慧一には解せない。実にもどかしい。
(あんな女と会うってのに、店に入って来た時の、あの爽やかすぎる笑顔は何だ。お前を傷付けたあの女に、俺がどれだけムカついたか知ってるだろ!)
慧一は会計を済ませると、荒々しくドアを開けて表に出た。
バイトのおばちゃんも、その勢いに面食らって声も掛けられない。峰子は遅れないようついて歩くのがせいいっぱいで、後に残した真介を振り向く間もなかった。
「俺が応援するとでも思ったのか」
車のボンネットを平手で叩くと慧一は、真介が座っている辺りの窓を睨み付ける。
「お前は本物のバカヤローだ!」
「慧一さん、落ち着いて」
突然、峰子が慧一の腕にすがり付いてきた。
「……おっ」
慧一はハッと我に返る。怒るあまり、その存在を忘れかけていた彼女の、意外なほどの強い力だった。
「私、何がどうなっているのか、よく分からないけど……どうしたらいいのか、一緒に考えたいです」
懸命に見上げる黒い瞳が、不安げに揺れている。
峰子の必死な様子に、慧一の沸騰した頭は、嘘のように冷めていく。
「峰子……」
林を渡る風の音が耳に聞こえる。
憑き物が落ちたように、彼は穏やかな心地になった。
「峰子、すまない。俺は……」
言いかけると、峰子はなだめるように慧一の腕を撫でた。殆ど無意識の動作だった。
「分かった。ありがとう、峰子」
慧一はばつが悪いながらも、彼女の誠実な気持ちが嬉しくて、素直に感謝した。
落ち着いた彼の口調に、峰子も安堵した表情になる。
その時、駐車場に一台の車が入ってきた。
けたたましいエンジン音を辺り一帯に反響させている。
慧一と峰子は、そのほうへ目を向けた。
ラインをはみ出し、斜めに駐車した車から降りてきたのは、忘れもしない親友の仇、葉月聖子だった。
彼女は初めての恋人であると同時に、初めての女である。
それだけに彼女の軽い言葉は、耐え難い屈辱であり、真介を自信喪失に陥らせた。
「どうして今頃会うんだよ。葉月も葉月だが、お前も何を考えてるんだ」
慧一は友人の心情を理解できず、強い口調で詰め寄る。
「うん……まあ、そうなんだが」
真介は口ごもりながらも、慧一の目をまっすぐに見た。
「聖子のやつ、あの時の男と結婚したものの、結局上手くいかなかったらしいんだ。金遣いの荒さと暴力に苦しめられて、去年離婚したって」
過去に自分を裏切った女の不幸を、同情の滲む声で説明した。
「そんなのは自業自得だよ。それで何か、やっとお前の良さが分かったからやり直したいとか言われて、その気になっちまってるわけか」
珍しく怒りを露わにする慧一に、真介はひと言もなく俯いた。
重苦しい沈黙が二人の間に下りる。
向かいに座る峰子はよく分からないなりに、不穏な状況を読み取っていた。葉月聖子という女性は、慧一から見て好ましい相手ではないらしい――
「行こうぜ、峰子」
慧一は立ち上がった。
俯いたままの真介を残し、峰子を促して店の出口へと進む。
真介のああいったところが慧一には解せない。実にもどかしい。
(あんな女と会うってのに、店に入って来た時の、あの爽やかすぎる笑顔は何だ。お前を傷付けたあの女に、俺がどれだけムカついたか知ってるだろ!)
慧一は会計を済ませると、荒々しくドアを開けて表に出た。
バイトのおばちゃんも、その勢いに面食らって声も掛けられない。峰子は遅れないようついて歩くのがせいいっぱいで、後に残した真介を振り向く間もなかった。
「俺が応援するとでも思ったのか」
車のボンネットを平手で叩くと慧一は、真介が座っている辺りの窓を睨み付ける。
「お前は本物のバカヤローだ!」
「慧一さん、落ち着いて」
突然、峰子が慧一の腕にすがり付いてきた。
「……おっ」
慧一はハッと我に返る。怒るあまり、その存在を忘れかけていた彼女の、意外なほどの強い力だった。
「私、何がどうなっているのか、よく分からないけど……どうしたらいいのか、一緒に考えたいです」
懸命に見上げる黒い瞳が、不安げに揺れている。
峰子の必死な様子に、慧一の沸騰した頭は、嘘のように冷めていく。
「峰子……」
林を渡る風の音が耳に聞こえる。
憑き物が落ちたように、彼は穏やかな心地になった。
「峰子、すまない。俺は……」
言いかけると、峰子はなだめるように慧一の腕を撫でた。殆ど無意識の動作だった。
「分かった。ありがとう、峰子」
慧一はばつが悪いながらも、彼女の誠実な気持ちが嬉しくて、素直に感謝した。
落ち着いた彼の口調に、峰子も安堵した表情になる。
その時、駐車場に一台の車が入ってきた。
けたたましいエンジン音を辺り一帯に反響させている。
慧一と峰子は、そのほうへ目を向けた。
ラインをはみ出し、斜めに駐車した車から降りてきたのは、忘れもしない親友の仇、葉月聖子だった。
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