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親友の恋
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コーヒーが運ばれて来ると、峰子はまず香りを楽しんだ。その後、ゆっくりとした動作でクリームを入れる。
優雅な仕草が真介にそっくりだ……と、慧一は見入った。
「あの、どうかしましたか?」
慧一の視線に気が付いて峰子が訊く。
「いや、前から思ってたけど、峰子と真介は似てるんだよな」
「私と泉さんが?」
峰子は目をぱちくりとさせる。
「うん。何かする時の動作とか、仕草が似てる。それに、二人とも性格は控えめで、普段は落ち着いてるし。あと、自分の魅力が分かってないところとか」
「はあ」
「面白真面目なところも」
「お、おもしろ……まじめですか?」
峰子は心外な目で慧一を見返すが、思いあたるふしがあるのか否定はしない。
「そういえば、慧一さんと泉さんは、出身大学が同じですよね」
峰子はコーヒーをひと口含むと、思いついたように尋ねた。
「ああ。成績はあいつのほうが、ずーっと上だけどね」
「泉さんって知的な感じがします。お昼休みに本を読まれているのを何度か見ました」
慧一はカップを持つ手を止めた。峰子の頬が、少し赤くなっている。
「フーン、よく見てるな。あいつ、どこで休憩してるんだ」
「中庭の木陰にあるベンチで、時々」
峰子の嬉しそうな表情に、慧一はもやっとする。
(真介は峰子にとって、シンのモデルになった男だ。好意的なのは、別におかしくはないが……)
慧一は話題を変えた。
「同人誌、全部読んだよ」
「え? すごい早いですね。全部ですか」
「うん。それで、少し訊きたいことがあるんだけど」
「はい、何でしょう」
峰子は身を乗り出し、質問を受ける態勢をとった。
「今更の疑問だけど、あの筋書きで、どうして男同士なんだ? 男と女じゃ駄目なのか」
「あ……」
峰子は頷くと、しばらく考えてから、
「分からないんです」
「分からない?」
「どうしてか、魅力的な男性キャラクターを想像すると、愛し合わせてしまうのです。あと、男女だと、そのう……」
「男女だと?」
「なんだか、生々しくって」
峰子は慧一から目を逸らし、窓の林へと移した。
いたたまれなように。
(なるほどね……)
確かに生々しい。それに今の峰子は、自らその生々しさを体感した後だから、なおさらそう感じるのだ。
「じゃあ、次の質問な。変なことを訊くようだが、勘繰るなよ。俺は真面目なんだから」
「え、ええ」
慧一はいくぶん声を落として、質問を向ける。
「峰子の描く挿絵は男同士で正常位ってのが多いけど、そういうのはどうなんだ。実際、有り得るのか」
挿絵は正常位のみならず、バリエーション豊かな(よく分からない)体位が描かれている。何かを参考にしたのか、それとも峰子の創造なのか。
峰子は赤らみつつも、もっともな疑問と思ってか、うんうんと頷く。
「そ……それはですね、有り得ると言うかあの……こちらの世界では出来ることになってるんです」
「出来ることに?」
「はい……」
困ったようにもじもじする。答えにくそうな彼女を見て、慧一はもしやと思った。
「穴でもあるのか」
あからさまな言い方に峰子はハッとするが、首を縦に振った。
「そうです。あるんです」
「……すげえな」
ほとんど当てずっぽうだが、見事に的中した。彼女達のディープな世界と発想に、あらためて恐れ入る。
(創作の世界ってのは、どこまでも自由なんだ。面白いなあ……)
もう少し突っ込んで訊きたいが、峰子が困りそうなのでやめておく。
(その辺りは、同人仲間の京子ちゃんにでも教えてもらおう)
慧一は他にもあれこれ質問したが、峰子はいちいち丁寧に答えた。
同人誌『モース』は、細かな設定まで用意されていると分かり、慧一は感心する。小説を書いたことのない彼にとって、峰子の話は面白いものだった。
「もっと訊きたいけど、そろそろやめておくよ。ありがとうな、峰子」
「いえ、そんな。しっかりと読み込んでもらえて、嬉しいです」
峰子はコーヒーの残りを飲んだ。
同人誌の話題なので熱が入り、喉が渇くのだろう。
「あの、慧一さんって、いろんなことに興味があるんですね。好奇心が強いのは、良いことだと思います」
「それは褒めてるのか」
慧一はテーブル越しに上体を寄せた。
「はい、もちろんです」
「ふうん、君は懐が深いな。俺の好奇心には、呆れる女性が多いんだけど」
これは本当だった。
率直に突っ込みすぎるのが原因で、彼は何度も女性に振られている。
「そう……なんですか?」
「うん。だから、峰子に褒められて嬉しいよ」
峰子はなぜか曖昧に笑い、目を伏せる。
慧一の発言は、多くの女性遍歴を匂わせるものだった。彼としては、特に意味もなく、ありのままを話しただけなのだが。
「どうした?」
「えっ? いえ、ちょっとレンズが曇ってしまって」
峰子は眼鏡を外し、ハンカチでレンズを拭った。
優雅な仕草が真介にそっくりだ……と、慧一は見入った。
「あの、どうかしましたか?」
慧一の視線に気が付いて峰子が訊く。
「いや、前から思ってたけど、峰子と真介は似てるんだよな」
「私と泉さんが?」
峰子は目をぱちくりとさせる。
「うん。何かする時の動作とか、仕草が似てる。それに、二人とも性格は控えめで、普段は落ち着いてるし。あと、自分の魅力が分かってないところとか」
「はあ」
「面白真面目なところも」
「お、おもしろ……まじめですか?」
峰子は心外な目で慧一を見返すが、思いあたるふしがあるのか否定はしない。
「そういえば、慧一さんと泉さんは、出身大学が同じですよね」
峰子はコーヒーをひと口含むと、思いついたように尋ねた。
「ああ。成績はあいつのほうが、ずーっと上だけどね」
「泉さんって知的な感じがします。お昼休みに本を読まれているのを何度か見ました」
慧一はカップを持つ手を止めた。峰子の頬が、少し赤くなっている。
「フーン、よく見てるな。あいつ、どこで休憩してるんだ」
「中庭の木陰にあるベンチで、時々」
峰子の嬉しそうな表情に、慧一はもやっとする。
(真介は峰子にとって、シンのモデルになった男だ。好意的なのは、別におかしくはないが……)
慧一は話題を変えた。
「同人誌、全部読んだよ」
「え? すごい早いですね。全部ですか」
「うん。それで、少し訊きたいことがあるんだけど」
「はい、何でしょう」
峰子は身を乗り出し、質問を受ける態勢をとった。
「今更の疑問だけど、あの筋書きで、どうして男同士なんだ? 男と女じゃ駄目なのか」
「あ……」
峰子は頷くと、しばらく考えてから、
「分からないんです」
「分からない?」
「どうしてか、魅力的な男性キャラクターを想像すると、愛し合わせてしまうのです。あと、男女だと、そのう……」
「男女だと?」
「なんだか、生々しくって」
峰子は慧一から目を逸らし、窓の林へと移した。
いたたまれなように。
(なるほどね……)
確かに生々しい。それに今の峰子は、自らその生々しさを体感した後だから、なおさらそう感じるのだ。
「じゃあ、次の質問な。変なことを訊くようだが、勘繰るなよ。俺は真面目なんだから」
「え、ええ」
慧一はいくぶん声を落として、質問を向ける。
「峰子の描く挿絵は男同士で正常位ってのが多いけど、そういうのはどうなんだ。実際、有り得るのか」
挿絵は正常位のみならず、バリエーション豊かな(よく分からない)体位が描かれている。何かを参考にしたのか、それとも峰子の創造なのか。
峰子は赤らみつつも、もっともな疑問と思ってか、うんうんと頷く。
「そ……それはですね、有り得ると言うかあの……こちらの世界では出来ることになってるんです」
「出来ることに?」
「はい……」
困ったようにもじもじする。答えにくそうな彼女を見て、慧一はもしやと思った。
「穴でもあるのか」
あからさまな言い方に峰子はハッとするが、首を縦に振った。
「そうです。あるんです」
「……すげえな」
ほとんど当てずっぽうだが、見事に的中した。彼女達のディープな世界と発想に、あらためて恐れ入る。
(創作の世界ってのは、どこまでも自由なんだ。面白いなあ……)
もう少し突っ込んで訊きたいが、峰子が困りそうなのでやめておく。
(その辺りは、同人仲間の京子ちゃんにでも教えてもらおう)
慧一は他にもあれこれ質問したが、峰子はいちいち丁寧に答えた。
同人誌『モース』は、細かな設定まで用意されていると分かり、慧一は感心する。小説を書いたことのない彼にとって、峰子の話は面白いものだった。
「もっと訊きたいけど、そろそろやめておくよ。ありがとうな、峰子」
「いえ、そんな。しっかりと読み込んでもらえて、嬉しいです」
峰子はコーヒーの残りを飲んだ。
同人誌の話題なので熱が入り、喉が渇くのだろう。
「あの、慧一さんって、いろんなことに興味があるんですね。好奇心が強いのは、良いことだと思います」
「それは褒めてるのか」
慧一はテーブル越しに上体を寄せた。
「はい、もちろんです」
「ふうん、君は懐が深いな。俺の好奇心には、呆れる女性が多いんだけど」
これは本当だった。
率直に突っ込みすぎるのが原因で、彼は何度も女性に振られている。
「そう……なんですか?」
「うん。だから、峰子に褒められて嬉しいよ」
峰子はなぜか曖昧に笑い、目を伏せる。
慧一の発言は、多くの女性遍歴を匂わせるものだった。彼としては、特に意味もなく、ありのままを話しただけなのだが。
「どうした?」
「えっ? いえ、ちょっとレンズが曇ってしまって」
峰子は眼鏡を外し、ハンカチでレンズを拭った。
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