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夜へ
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午後九時――
客室の鍵を開ける慧一の後ろに、峰子が立っている。
食事と会話で少しはほぐれた態度も、ここへきてリセットされたようだ。彼女の緊張感が痛いほど伝わってくる。
慧一は背中を見せたまま彼女に告げた。
「これから部屋に入るけどな、峰子」
「はい」
「二人でお茶を飲みながら、楽しくお喋りするってわけじゃないぞ」
「はい」
峰子のか細い、しかし素直な返事に慧一は頷く。
「分かってるならいい」
言いながら、勢いよくドアを押した。
先に入るよう峰子を促す。
彼女は軽く会釈をして慧一の前を通り、部屋の奥へとそろそろと進んだ。ドアが静かに閉まると、正真正銘、二人きりになった。
照明が抑えられたオレンジの空間。
中央にはダブルベッドが、やけに大きく存在している。
峰子は窓辺に寄り、海を見ている。男に背をむけたまま、ピクリとも動かない。
慧一は上着を脱ぐと無造作にソファの背に放り、ネクタイを緩めた。
首筋に汗が滲む。こちらも少し緊張している。
(慌てるなよ)
口の中でひとりごち、ゆっくりと峰子に近付いた。思い切ったように腕を伸ばすと、細い肩を掴む。
彼女の体が強張るのを、手の平に感じた。
「峰子」
「は……い」
声も上ずり、気の毒なぐらいガチガチである。
だが慧一は情けをかけるつもりは一切ない。二人きりになった瞬間から男と女だ。躊躇も遠慮もしない。
「本当にいいのかなんて、俺は訊かないよ」
「はい……」
腕に力を入れ、峰子の体をこちらに向かせた。
怯えた瞳とがち合うが、慧一は構わず、彼女の眼鏡をそっと外して傍らのテーブルに置く。そして、返すその手で顎を支えた。
慧一の感性にぴたりと符合する、峰子のかわいい顔。
月明かりに映える白い肌は、慧一よりもよほど肌理が細かく透明だった。
眉も睫も薔薇色の唇も、微かに震えている。
(今からすべて、俺のものにする)
唇を塞ぐように、キスをした。
客室の鍵を開ける慧一の後ろに、峰子が立っている。
食事と会話で少しはほぐれた態度も、ここへきてリセットされたようだ。彼女の緊張感が痛いほど伝わってくる。
慧一は背中を見せたまま彼女に告げた。
「これから部屋に入るけどな、峰子」
「はい」
「二人でお茶を飲みながら、楽しくお喋りするってわけじゃないぞ」
「はい」
峰子のか細い、しかし素直な返事に慧一は頷く。
「分かってるならいい」
言いながら、勢いよくドアを押した。
先に入るよう峰子を促す。
彼女は軽く会釈をして慧一の前を通り、部屋の奥へとそろそろと進んだ。ドアが静かに閉まると、正真正銘、二人きりになった。
照明が抑えられたオレンジの空間。
中央にはダブルベッドが、やけに大きく存在している。
峰子は窓辺に寄り、海を見ている。男に背をむけたまま、ピクリとも動かない。
慧一は上着を脱ぐと無造作にソファの背に放り、ネクタイを緩めた。
首筋に汗が滲む。こちらも少し緊張している。
(慌てるなよ)
口の中でひとりごち、ゆっくりと峰子に近付いた。思い切ったように腕を伸ばすと、細い肩を掴む。
彼女の体が強張るのを、手の平に感じた。
「峰子」
「は……い」
声も上ずり、気の毒なぐらいガチガチである。
だが慧一は情けをかけるつもりは一切ない。二人きりになった瞬間から男と女だ。躊躇も遠慮もしない。
「本当にいいのかなんて、俺は訊かないよ」
「はい……」
腕に力を入れ、峰子の体をこちらに向かせた。
怯えた瞳とがち合うが、慧一は構わず、彼女の眼鏡をそっと外して傍らのテーブルに置く。そして、返すその手で顎を支えた。
慧一の感性にぴたりと符合する、峰子のかわいい顔。
月明かりに映える白い肌は、慧一よりもよほど肌理が細かく透明だった。
眉も睫も薔薇色の唇も、微かに震えている。
(今からすべて、俺のものにする)
唇を塞ぐように、キスをした。
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