モース10

藤谷 郁

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二人きり

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 自分を持て余す慧一だが、時間は刻々と過ぎていく。ガキみたいなことをやってる場合じゃない。


「峰子」

「はい」 

「訊きたいことがあるんだけどさ」

「はい、何でしょう」


 峰子は運転席の肩に手を添え、身を乗り出してきた。素直な態度に、慧一は期待を膨らませる。


「モースに出てくるケイは随分と傲慢で、ええと……ドスケベな男だが、もしかして俺を参考にしてる?」


 交差点を過ぎて右折すると、海沿いの通りに出る。時刻は午後九時をまわり、すれ違う車も少ない。閑散とした道路が伸びている。


「俺のことを、君はどう見てるんだ?」


 京子が言うように、ただの同人誌のネタなのか。それとも一個人として感じるものが、多少なりともあるのか。訊きたいのはそこだった。

 慧一は固唾を呑み、峰子の返事を待つ。


「私……」


 暫しの沈黙の後、峰子は口を開いた。


「滝口さんのこと、何となく、私に似てる人なんじゃないかって、思ったんです」


 それは、予想もしなかった言葉。
 慧一が何も言えずにいると、今度は彼女が問い返す。


「あなたは、自由を愛する人ではないですか」


 またしても、直球ど真ん中。

 彼女の問いは、十分に、ありのままの慧一を表現している。


(ああ、俺は自由を愛する。束縛されるのは何よりも苦痛だ)


 川本唯の一件で自覚したばかりだった。


「どうして、そう思うんだ」

「それは、挿絵を描くために滝口さんの写真をいくつか見るうち、多分そうなんじゃないかって思い始めたんです。滝口さんは、目が……」


 彼女が言わんとすることを察し、慧一は口を挟む。


「目が優しい? これはな、優しく見えるだけだよ。よく誤解されるけど」

「いいえ、違います」


 きっぱりと否定され、ハッとする。峰子らしからぬ強い口調だった。


「目が、言ってるんです。俺は誰にも縛られないぞって」


 慧一は絶句した。


 ――目が優しいね、温かいね、紳士なのね


 彼に近付く女達は皆、甘い声で囁き、うっとりと見つめる。どんな印象を持とうが彼女達の勝手だし、貶してるわけじゃないから別に構わない。

 だが、あまり同じことばかり言われると辟易する。
 だから、さっきみたいに誤解するなと突っぱねたくもなるのだ。

 しかし峰子は、彼女達とは違う見方をした。

 いや、見抜いたと言うべきか。


「驚いたね。本当にそう思うのか」


 慧一は道の先にコンビニを見つけると、ウインカーを出して駐車場へ入った。

 突然の行為にバックミラーの峰子は戸惑った様子だが、もっと集中して話がしたい。今がチャンスなのだと直感した。

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