モース10

藤谷 郁

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妄想の産物

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 W市公会堂を出たのは午後四時。

 時間が早いので、慧一は峰子と京子を車に乗せて、少し遠い場所にあるイタリアンまでドライブした。

 後部席の峰子はほとんど口を利かない。彼女と並んで座る京子が、もっぱら慧一の話し相手となった。


 交差点で止まった時、バックミラーの中で峰子は一度だけ慧一と視線を合わせるが、気まずそうに逸らした。

 そのうぶな仕草に慧一の心は乱れ――つまり、劣情を刺激された。さらに、いつか見た峰子を抱く夢を思い出してしまう。

 京子が一緒でなかったらとんでもないことをしそうだ。

 慧一はハンドルを握る手に汗を滲ませた。

 海岸沿いの道を三十分ほど走ったところで、慧一は小休止した。数台分の駐車スペースのある、景色のいい場所だ。


「あのう、慧一さん。ちょっと確認なんですけど」


 伸びをする慧一のそばに京子が近寄り、話しかけてきた。峰子は離れたところで柵に手をかけ、海を眺めている。


「今から行くイタリアンって、リストランテ? それともトラットリア?」

「トラットリアだよ。どうして?」


 峰子の姿を目にしつつ、返事をした。


「いえ、値段が気になったものですから」

「ああ」


 京子に向き直り、慧一は微笑む。


「大丈夫、そんな気取ったところじゃないよ。それに、俺は割り勘って嫌いなの」

「そうなんですか?」

「今日に限っては、ね」


 ニヤリと笑って峰子を目で指す彼に、京子はなるほどと頷く。


「私も御相伴にあずかっていいんですかね」

「もちろんだよ。君には感謝してる。腹いっぱい食ってくれ」


 二人は楽しそうに笑い合った。

 こちらの会話が気になるのか、峰子がゆっくりと近付いてくる。
 慧一はまぶしげに、彼女を見つめた。

 海からの風が、ワンピースの薄い布を彼女の身体に巻きつかせている。

 細い線が露わになるのを見とめ、慧一はまたしてもおかしな気持ちになった。


(俺ってこんなにドスケベだっけ?)


 頭では、慎重に行こうと考えているのに、身体は勝手に走り出そうとする。

 ちょっとしたきっかけで、本能が暴走しそうだ。


 京子という理性を傍らに置くのを、今夜決して怠るまい――


 慧一はしっかりと、自分に釘をさした。




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