23 / 82
妄想の産物
2
しおりを挟む
W市公会堂を出たのは午後四時。
時間が早いので、慧一は峰子と京子を車に乗せて、少し遠い場所にあるイタリアンまでドライブした。
後部席の峰子はほとんど口を利かない。彼女と並んで座る京子が、もっぱら慧一の話し相手となった。
交差点で止まった時、バックミラーの中で峰子は一度だけ慧一と視線を合わせるが、気まずそうに逸らした。
そのうぶな仕草に慧一の心は乱れ――つまり、劣情を刺激された。さらに、いつか見た峰子を抱く夢を思い出してしまう。
京子が一緒でなかったらとんでもないことをしそうだ。
慧一はハンドルを握る手に汗を滲ませた。
海岸沿いの道を三十分ほど走ったところで、慧一は小休止した。数台分の駐車スペースのある、景色のいい場所だ。
「あのう、慧一さん。ちょっと確認なんですけど」
伸びをする慧一のそばに京子が近寄り、話しかけてきた。峰子は離れたところで柵に手をかけ、海を眺めている。
「今から行くイタリアンって、リストランテ? それともトラットリア?」
「トラットリアだよ。どうして?」
峰子の姿を目にしつつ、返事をした。
「いえ、値段が気になったものですから」
「ああ」
京子に向き直り、慧一は微笑む。
「大丈夫、そんな気取ったところじゃないよ。それに、俺は割り勘って嫌いなの」
「そうなんですか?」
「今日に限っては、ね」
ニヤリと笑って峰子を目で指す彼に、京子はなるほどと頷く。
「私も御相伴にあずかっていいんですかね」
「もちろんだよ。君には感謝してる。腹いっぱい食ってくれ」
二人は楽しそうに笑い合った。
こちらの会話が気になるのか、峰子がゆっくりと近付いてくる。
慧一はまぶしげに、彼女を見つめた。
海からの風が、ワンピースの薄い布を彼女の身体に巻きつかせている。
細い線が露わになるのを見とめ、慧一はまたしてもおかしな気持ちになった。
(俺ってこんなにドスケベだっけ?)
頭では、慎重に行こうと考えているのに、身体は勝手に走り出そうとする。
ちょっとしたきっかけで、本能が暴走しそうだ。
京子という理性を傍らに置くのを、今夜決して怠るまい――
慧一はしっかりと、自分に釘をさした。
時間が早いので、慧一は峰子と京子を車に乗せて、少し遠い場所にあるイタリアンまでドライブした。
後部席の峰子はほとんど口を利かない。彼女と並んで座る京子が、もっぱら慧一の話し相手となった。
交差点で止まった時、バックミラーの中で峰子は一度だけ慧一と視線を合わせるが、気まずそうに逸らした。
そのうぶな仕草に慧一の心は乱れ――つまり、劣情を刺激された。さらに、いつか見た峰子を抱く夢を思い出してしまう。
京子が一緒でなかったらとんでもないことをしそうだ。
慧一はハンドルを握る手に汗を滲ませた。
海岸沿いの道を三十分ほど走ったところで、慧一は小休止した。数台分の駐車スペースのある、景色のいい場所だ。
「あのう、慧一さん。ちょっと確認なんですけど」
伸びをする慧一のそばに京子が近寄り、話しかけてきた。峰子は離れたところで柵に手をかけ、海を眺めている。
「今から行くイタリアンって、リストランテ? それともトラットリア?」
「トラットリアだよ。どうして?」
峰子の姿を目にしつつ、返事をした。
「いえ、値段が気になったものですから」
「ああ」
京子に向き直り、慧一は微笑む。
「大丈夫、そんな気取ったところじゃないよ。それに、俺は割り勘って嫌いなの」
「そうなんですか?」
「今日に限っては、ね」
ニヤリと笑って峰子を目で指す彼に、京子はなるほどと頷く。
「私も御相伴にあずかっていいんですかね」
「もちろんだよ。君には感謝してる。腹いっぱい食ってくれ」
二人は楽しそうに笑い合った。
こちらの会話が気になるのか、峰子がゆっくりと近付いてくる。
慧一はまぶしげに、彼女を見つめた。
海からの風が、ワンピースの薄い布を彼女の身体に巻きつかせている。
細い線が露わになるのを見とめ、慧一はまたしてもおかしな気持ちになった。
(俺ってこんなにドスケベだっけ?)
頭では、慎重に行こうと考えているのに、身体は勝手に走り出そうとする。
ちょっとしたきっかけで、本能が暴走しそうだ。
京子という理性を傍らに置くのを、今夜決して怠るまい――
慧一はしっかりと、自分に釘をさした。
10
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

秘密の恋
美希みなみ
恋愛
番外編更新はじめました(*ノωノ)
笠井瑞穂 25歳 東洋不動産 社長秘書
高倉由幸 31歳 東洋不動産 代表取締役社長
一途に由幸に思いをよせる、どこにでもいそうなOL瑞穂。
瑞穂は諦めるための最後の賭けに出た。
思いが届かなくても一度だけ…。
これで、あなたを諦めるから……。
短編ショートストーリーです。
番外編で由幸のお話を追加予定です。

Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる