13 / 82
アプローチ
3
しおりを挟む「お前はそういう奴だ」
食堂を出て工場へ向かう道すがら、真介は慧一をなじった。
「俺があの子に関心があるのを察して、ちょっかいを掛けたんだな」
「へえ、やっぱり関心があるのか」
とぼけた言い方に、真介は切れ長の目を冷たく光らせ、
「ふざけるなっ」
本気で怒りかけた。
慧一は皮肉な笑みを浮かべ、ありのままを答える。
「安心しろよ。俺は振られた」
真介は目を瞬かせ、呆れたように言った。
「もうデートに誘ったのか?」
信じられないといった顔だ。奥手の彼には、とても理解できない速攻だろう。
「もうってお前、こう見えて女の子を誘うなんてめったにないんだぜ。自信喪失だよ」
それは慧一の本音である。
百パーセント、色よい返事がもらえると思ったのに……
峰子の態度が解せなかった。
「そうか。ふふっ、お前振られたのか」
真介は急にご機嫌になり、嬉しそうに笑った。慧一は口を尖らせ、冗談でもないふうに言う。
「今度はお前が誘ってみろよ。案外OKかもしれんよ」
「……は?」
真介は融通がきかない真面目人間。
その上、奥手で物静かで、女の子からすれば退屈な男に映るだろう。
だがよくよく見れば、鼻筋の通ったきれいな顔立ちをしている。峰子にしても、小説のネタにするくらいだから嫌いではないだろう。
もっとも、慧一もそのはずだが。
「まさか、俺なんかが誘っても……」
真介は元気なくかぶりを振る。
この自信のなさが、男としての魅力を半減させているのだ。慧一は、肩を落として歩く友人をもったいなく思った。
工場の前まで来ると真介は、気が付いたように顔を上げる。
「そういえば、例のあれ、何か分かったのか」
「モース?」
「そう、それ」
慧一は何となく考える仕草をしてから、真介をじろじろと眺めた。
「何だ」
「いいや、まだ調査中でね」
「何か分かりそうか」
詰め寄る真介は真顔で、必死といってもいい。慧一はニヤリとした。
「そんなに見つめないで。シ・ン・さ・ま」
「!」
真介はさっと顔を赤らめ、慧一の肩をパーンと叩く。
「真面目にやれ、真面目に!」
今度こそ本当に湯気を上げている。打たれたところをさすりながら、慧一は苦笑を浮かべた。
「怒るなよ。ちゃんと調べてるんだから」
「まったく!」
「それにしてもお前、"犯人"が分かったらどうするつもりだ」
「決まってる。訴えてやる」
「出るとこに出て、"俺達と思われる二人の濡れ場"を読み上げるのか?」
「ぐっ……」
「犯人殿に、あれは俺達とは一切無関係だとか、フィクションだとか返されたら?」
「ううっ」
苦しげにうめく真介に、慧一は噴き出しそうになる。自分と違って、芯から真面目な男なのだ。
「とにかく、何か分かったら教えるよ。しっかりしろ、じゃな」
帽子を被り直して工場へ入る慧一の背中に、真介の慌てた声が飛んだ。
「三原さんに手出すなよ!」
慧一は背中のまま肩をすくめると、
「それは約束できない」
聞こえない声で言い、扉を閉めた。
食堂を出て工場へ向かう道すがら、真介は慧一をなじった。
「俺があの子に関心があるのを察して、ちょっかいを掛けたんだな」
「へえ、やっぱり関心があるのか」
とぼけた言い方に、真介は切れ長の目を冷たく光らせ、
「ふざけるなっ」
本気で怒りかけた。
慧一は皮肉な笑みを浮かべ、ありのままを答える。
「安心しろよ。俺は振られた」
真介は目を瞬かせ、呆れたように言った。
「もうデートに誘ったのか?」
信じられないといった顔だ。奥手の彼には、とても理解できない速攻だろう。
「もうってお前、こう見えて女の子を誘うなんてめったにないんだぜ。自信喪失だよ」
それは慧一の本音である。
百パーセント、色よい返事がもらえると思ったのに……
峰子の態度が解せなかった。
「そうか。ふふっ、お前振られたのか」
真介は急にご機嫌になり、嬉しそうに笑った。慧一は口を尖らせ、冗談でもないふうに言う。
「今度はお前が誘ってみろよ。案外OKかもしれんよ」
「……は?」
真介は融通がきかない真面目人間。
その上、奥手で物静かで、女の子からすれば退屈な男に映るだろう。
だがよくよく見れば、鼻筋の通ったきれいな顔立ちをしている。峰子にしても、小説のネタにするくらいだから嫌いではないだろう。
もっとも、慧一もそのはずだが。
「まさか、俺なんかが誘っても……」
真介は元気なくかぶりを振る。
この自信のなさが、男としての魅力を半減させているのだ。慧一は、肩を落として歩く友人をもったいなく思った。
工場の前まで来ると真介は、気が付いたように顔を上げる。
「そういえば、例のあれ、何か分かったのか」
「モース?」
「そう、それ」
慧一は何となく考える仕草をしてから、真介をじろじろと眺めた。
「何だ」
「いいや、まだ調査中でね」
「何か分かりそうか」
詰め寄る真介は真顔で、必死といってもいい。慧一はニヤリとした。
「そんなに見つめないで。シ・ン・さ・ま」
「!」
真介はさっと顔を赤らめ、慧一の肩をパーンと叩く。
「真面目にやれ、真面目に!」
今度こそ本当に湯気を上げている。打たれたところをさすりながら、慧一は苦笑を浮かべた。
「怒るなよ。ちゃんと調べてるんだから」
「まったく!」
「それにしてもお前、"犯人"が分かったらどうするつもりだ」
「決まってる。訴えてやる」
「出るとこに出て、"俺達と思われる二人の濡れ場"を読み上げるのか?」
「ぐっ……」
「犯人殿に、あれは俺達とは一切無関係だとか、フィクションだとか返されたら?」
「ううっ」
苦しげにうめく真介に、慧一は噴き出しそうになる。自分と違って、芯から真面目な男なのだ。
「とにかく、何か分かったら教えるよ。しっかりしろ、じゃな」
帽子を被り直して工場へ入る慧一の背中に、真介の慌てた声が飛んだ。
「三原さんに手出すなよ!」
慧一は背中のまま肩をすくめると、
「それは約束できない」
聞こえない声で言い、扉を閉めた。
10
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

秘密の恋
美希みなみ
恋愛
番外編更新はじめました(*ノωノ)
笠井瑞穂 25歳 東洋不動産 社長秘書
高倉由幸 31歳 東洋不動産 代表取締役社長
一途に由幸に思いをよせる、どこにでもいそうなOL瑞穂。
瑞穂は諦めるための最後の賭けに出た。
思いが届かなくても一度だけ…。
これで、あなたを諦めるから……。
短編ショートストーリーです。
番外編で由幸のお話を追加予定です。

Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる