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アプローチ
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「お前はそういう奴だ」
食堂を出て工場へ向かう道すがら、真介は慧一をなじった。
「俺があの子に関心があるのを察して、ちょっかいを掛けたんだな」
「へえ、やっぱり関心があるのか」
とぼけた言い方に、真介は切れ長の目を冷たく光らせ、
「ふざけるなっ」
本気で怒りかけた。
慧一は皮肉な笑みを浮かべ、ありのままを答える。
「安心しろよ。俺は振られた」
真介は目を瞬かせ、呆れたように言った。
「もうデートに誘ったのか?」
信じられないといった顔だ。奥手の彼には、とても理解できない速攻だろう。
「もうってお前、こう見えて女の子を誘うなんてめったにないんだぜ。自信喪失だよ」
それは慧一の本音である。
百パーセント、色よい返事がもらえると思ったのに……
峰子の態度が解せなかった。
「そうか。ふふっ、お前振られたのか」
真介は急にご機嫌になり、嬉しそうに笑った。慧一は口を尖らせ、冗談でもないふうに言う。
「今度はお前が誘ってみろよ。案外OKかもしれんよ」
「……は?」
真介は融通がきかない真面目人間。
その上、奥手で物静かで、女の子からすれば退屈な男に映るだろう。
だがよくよく見れば、鼻筋の通ったきれいな顔立ちをしている。峰子にしても、小説のネタにするくらいだから嫌いではないだろう。
もっとも、慧一もそのはずだが。
「まさか、俺なんかが誘っても……」
真介は元気なくかぶりを振る。
この自信のなさが、男としての魅力を半減させているのだ。慧一は、肩を落として歩く友人をもったいなく思った。
工場の前まで来ると真介は、気が付いたように顔を上げる。
「そういえば、例のあれ、何か分かったのか」
「モース?」
「そう、それ」
慧一は何となく考える仕草をしてから、真介をじろじろと眺めた。
「何だ」
「いいや、まだ調査中でね」
「何か分かりそうか」
詰め寄る真介は真顔で、必死といってもいい。慧一はニヤリとした。
「そんなに見つめないで。シ・ン・さ・ま」
「!」
真介はさっと顔を赤らめ、慧一の肩をパーンと叩く。
「真面目にやれ、真面目に!」
今度こそ本当に湯気を上げている。打たれたところをさすりながら、慧一は苦笑を浮かべた。
「怒るなよ。ちゃんと調べてるんだから」
「まったく!」
「それにしてもお前、"犯人"が分かったらどうするつもりだ」
「決まってる。訴えてやる」
「出るとこに出て、"俺達と思われる二人の濡れ場"を読み上げるのか?」
「ぐっ……」
「犯人殿に、あれは俺達とは一切無関係だとか、フィクションだとか返されたら?」
「ううっ」
苦しげにうめく真介に、慧一は噴き出しそうになる。自分と違って、芯から真面目な男なのだ。
「とにかく、何か分かったら教えるよ。しっかりしろ、じゃな」
帽子を被り直して工場へ入る慧一の背中に、真介の慌てた声が飛んだ。
「三原さんに手出すなよ!」
慧一は背中のまま肩をすくめると、
「それは約束できない」
聞こえない声で言い、扉を閉めた。
食堂を出て工場へ向かう道すがら、真介は慧一をなじった。
「俺があの子に関心があるのを察して、ちょっかいを掛けたんだな」
「へえ、やっぱり関心があるのか」
とぼけた言い方に、真介は切れ長の目を冷たく光らせ、
「ふざけるなっ」
本気で怒りかけた。
慧一は皮肉な笑みを浮かべ、ありのままを答える。
「安心しろよ。俺は振られた」
真介は目を瞬かせ、呆れたように言った。
「もうデートに誘ったのか?」
信じられないといった顔だ。奥手の彼には、とても理解できない速攻だろう。
「もうってお前、こう見えて女の子を誘うなんてめったにないんだぜ。自信喪失だよ」
それは慧一の本音である。
百パーセント、色よい返事がもらえると思ったのに……
峰子の態度が解せなかった。
「そうか。ふふっ、お前振られたのか」
真介は急にご機嫌になり、嬉しそうに笑った。慧一は口を尖らせ、冗談でもないふうに言う。
「今度はお前が誘ってみろよ。案外OKかもしれんよ」
「……は?」
真介は融通がきかない真面目人間。
その上、奥手で物静かで、女の子からすれば退屈な男に映るだろう。
だがよくよく見れば、鼻筋の通ったきれいな顔立ちをしている。峰子にしても、小説のネタにするくらいだから嫌いではないだろう。
もっとも、慧一もそのはずだが。
「まさか、俺なんかが誘っても……」
真介は元気なくかぶりを振る。
この自信のなさが、男としての魅力を半減させているのだ。慧一は、肩を落として歩く友人をもったいなく思った。
工場の前まで来ると真介は、気が付いたように顔を上げる。
「そういえば、例のあれ、何か分かったのか」
「モース?」
「そう、それ」
慧一は何となく考える仕草をしてから、真介をじろじろと眺めた。
「何だ」
「いいや、まだ調査中でね」
「何か分かりそうか」
詰め寄る真介は真顔で、必死といってもいい。慧一はニヤリとした。
「そんなに見つめないで。シ・ン・さ・ま」
「!」
真介はさっと顔を赤らめ、慧一の肩をパーンと叩く。
「真面目にやれ、真面目に!」
今度こそ本当に湯気を上げている。打たれたところをさすりながら、慧一は苦笑を浮かべた。
「怒るなよ。ちゃんと調べてるんだから」
「まったく!」
「それにしてもお前、"犯人"が分かったらどうするつもりだ」
「決まってる。訴えてやる」
「出るとこに出て、"俺達と思われる二人の濡れ場"を読み上げるのか?」
「ぐっ……」
「犯人殿に、あれは俺達とは一切無関係だとか、フィクションだとか返されたら?」
「ううっ」
苦しげにうめく真介に、慧一は噴き出しそうになる。自分と違って、芯から真面目な男なのだ。
「とにかく、何か分かったら教えるよ。しっかりしろ、じゃな」
帽子を被り直して工場へ入る慧一の背中に、真介の慌てた声が飛んだ。
「三原さんに手出すなよ!」
慧一は背中のまま肩をすくめると、
「それは約束できない」
聞こえない声で言い、扉を閉めた。
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