恋の記録

藤谷 郁

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正義の使者〈Last Report〉

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なんとなくばつが悪くて、俺は黙った。瀬戸さんは察したのか、励ますように俺の肩をぽんとたたく。


「今回の事件、いろんな意味で勉強になったんじゃない?」

「まあ、確かに……」


含みのある言い方だが、間違ってはいない。

水野さんや瀬戸さん、埼玉県警の望月さんと行動をともにして、様々な捜査手法や考え方を学んだ。仕事以外でも、かつて経験のない感情を味わい、成長した気がする。


「それにしても、水樹はどうするつもりかしらね」


瀬戸さんが話題を戻す。


「どんな判決でも受け入れるとか、言ってるんでしょ?」

「取調べの段階では、そうでした。でも、裁判まで間がありますし、弁護士と相談して、考え直すかもしれません」

「うん……よく考えてほしいわ。一条さんのためにも」


そのとおり。水樹はもう、独りぼっちではない。どんな結果になっても、彼女はついていくだろう。


「本当に、強い女性よね」

「ええ。融通が利かないくらい、まっすぐな人です」


意志の強い顔。揺らぎのない眼差しを思い出す。やわらかな微笑みも。


「何にせよ、これから大変だ」

「そうですね。水樹も、一条さんも」


裁判が始まれば、一条さんは何度も証言台に立つことになる。想像以上のプレッシャーがかかるだろう。

遠くから見守るしかできないが、俺は毎日、心で応援する。彼女が少しでも救われるよう、祈りながら。


「ついに失恋か。かわいそうに……」


瀬戸さんがボソッとつぶやく。見ると、横目で俺を睨んでいた。


「なんですか?」

「私、同情なんかしないからね」

「はあ……誰にですか?」


とぼけた返事が気に入らないのか、思いきりむくれた。


「別に。飲みに行くなら付き合うから、いつでも言いなさいってこと!」


勢いよく背中を叩かれ、全身が痺れた。


「ちょ……手かげんしてくださいよ」

「なに言ってんの。鍛え方が足りないんじゃない? ほら、私が相手してあげるから、かかってらっしゃい!」


ベンチを立ち、空手の構えをする。この人はまったく、どうしてこうハイテンションなのか。

人目を気にせず挑んでくる姿が可笑しくて、思わず噴き出した。


「ありがとうございます……なんか、元気になった」

「えっ、なんですって?」


俺も立ち上がり、大きく伸びをした。


「じゃあ、今度行きますか。大食いの瀬戸さんにぴったりの店があるんです」

「へっ?」


『突き』の格好で、ぽかんとする。なぜか顔が赤くなり、ソワソワし始めた。


「瀬戸さん?」

「あ、ああ、一緒にご飯ってことね。行ってもいいわよ。ていうか、大食いは余計だっての!」

「うおっ、突きはやめてください、突きは」


素早くガードすると、瀬戸さんが楽しそうに笑った。


本当は聞こえていた。

そのとおり、俺は完全に失恋した。でも、彼女に出会えて良かったと、心の底から思っている。

心底惚れて良かった。そのぶん辛くはあるが、大丈夫だ。


「さあ、午後も頑張るわよ。ファイト!」


明るい先輩に引っ張られ、俺は街へと駆けだした。
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