231 / 236
正義の使者〈Last Report〉
3
しおりを挟む
捜査本部は岐阜県警と合同で、すぐさま救出作戦を開始した。
『今夜は快晴。星がよく見えるだろう。崖の上に水樹が現れるはずだ。一条春菜を連れて、飛ぶために』
慎重な対応が必要だと、指揮官が各員に注意する。俺と瀬戸さん、他の捜査員も情報を共有し、役割分担した。日が暮れるまでに、その場所で待機しなければならない。水樹に気取られないよう、ひそかに。
「焦って管理棟に突入しなかったのは、正解だったわね」
「二人がどうしているのか状況が分からないし、水樹を刺激すれば、取り返しのつかないことになりますから」
しかし、俺はずっと不安だった。
三国は二人が生きていると言ったが、崖崩れから逃れたとしても、無事であるとは限らない。というより、やはり逃げそびれて、とうに死んでいるのではないか。
だから、崖の上に二人が現れた時は心から安堵し、同時に緊張した。俺だけでなく、警察官全員がこれ以上ないほどの緊張状態で、地面に伏せていたのだ。
あまりにも静かな場所であり、恐ろしくなるほど星がきれいだった。
「それにしても、すっかり騙されたわ。管理官と打ち合わせ済みだったなんて」
「……すみません」
俺が拳銃を構えたことだ。
「敵を欺くにはまず味方から。周りが驚いてくれると、水樹の注意を引けるので」
「まあいいわよ。でも、撃ったのが子安さんだと聞いて納得したなあ。彼なら、あの状況でも間違いなく狙えるもの」
子安というのは、以前、一条さんのことで俺を責めた本部の捜査員だ。しかし、彼女が警察に協力するためGPSを仕込んだと分かると、『俺にできることがあれば、何でも言ってくれ』と、謝ってくれた。
「子安さんが機動隊出身で、狙撃の名手と聞いてたから頼んだんです。いよいよとなったら、俺の合図で水樹を撃って、止めてくださいって」
「そして、見事にやってくれたってわけか。本当に、びっくりさせられたわよ」
俺が水樹を引きつける間に、子安さんが脇に回り、狙撃の体勢をとった。タイミングは俺に任され、合図は「伏せろ」だった。
「俺だって、あんなことはしたくなかった。水樹が本気で飛び降りる気なのが分かったから、本気で止めなければと思ったんです」
「そうね。皆、ギリギリの状態だった。一条さんは特に」
発砲音がしてすぐ、彼女は崩れ落ちた。まるで、彼女が撃たれたかのように、気を失ってしまったのだ。
「ショック死したのかと思って、焦ったわ」
「限界だったんですよ。無理もないです」
一条さんの必死な顔。叫び声。あれはまるで、死に瀕した我が子を救わんとする母親だった。変なたとえかもしれないが、俺の心に、実感として残っている。
『今夜は快晴。星がよく見えるだろう。崖の上に水樹が現れるはずだ。一条春菜を連れて、飛ぶために』
慎重な対応が必要だと、指揮官が各員に注意する。俺と瀬戸さん、他の捜査員も情報を共有し、役割分担した。日が暮れるまでに、その場所で待機しなければならない。水樹に気取られないよう、ひそかに。
「焦って管理棟に突入しなかったのは、正解だったわね」
「二人がどうしているのか状況が分からないし、水樹を刺激すれば、取り返しのつかないことになりますから」
しかし、俺はずっと不安だった。
三国は二人が生きていると言ったが、崖崩れから逃れたとしても、無事であるとは限らない。というより、やはり逃げそびれて、とうに死んでいるのではないか。
だから、崖の上に二人が現れた時は心から安堵し、同時に緊張した。俺だけでなく、警察官全員がこれ以上ないほどの緊張状態で、地面に伏せていたのだ。
あまりにも静かな場所であり、恐ろしくなるほど星がきれいだった。
「それにしても、すっかり騙されたわ。管理官と打ち合わせ済みだったなんて」
「……すみません」
俺が拳銃を構えたことだ。
「敵を欺くにはまず味方から。周りが驚いてくれると、水樹の注意を引けるので」
「まあいいわよ。でも、撃ったのが子安さんだと聞いて納得したなあ。彼なら、あの状況でも間違いなく狙えるもの」
子安というのは、以前、一条さんのことで俺を責めた本部の捜査員だ。しかし、彼女が警察に協力するためGPSを仕込んだと分かると、『俺にできることがあれば、何でも言ってくれ』と、謝ってくれた。
「子安さんが機動隊出身で、狙撃の名手と聞いてたから頼んだんです。いよいよとなったら、俺の合図で水樹を撃って、止めてくださいって」
「そして、見事にやってくれたってわけか。本当に、びっくりさせられたわよ」
俺が水樹を引きつける間に、子安さんが脇に回り、狙撃の体勢をとった。タイミングは俺に任され、合図は「伏せろ」だった。
「俺だって、あんなことはしたくなかった。水樹が本気で飛び降りる気なのが分かったから、本気で止めなければと思ったんです」
「そうね。皆、ギリギリの状態だった。一条さんは特に」
発砲音がしてすぐ、彼女は崩れ落ちた。まるで、彼女が撃たれたかのように、気を失ってしまったのだ。
「ショック死したのかと思って、焦ったわ」
「限界だったんですよ。無理もないです」
一条さんの必死な顔。叫び声。あれはまるで、死に瀕した我が子を救わんとする母親だった。変なたとえかもしれないが、俺の心に、実感として残っている。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クアドロフォニアは突然に
七星満実
ミステリー
過疎化の進む山奥の小さな集落、忍足(おしたり)村。
廃校寸前の地元中学校に通う有沢祐樹は、卒業を間近に控え、県を出るか、県に留まるか、同級生たちと同じく進路に迷っていた。
そんな時、東京から忍足中学へ転入生がやってくる。
どうしてこの時期に?そんな疑問をよそにやってきた彼は、祐樹達が想像していた東京人とは似ても似つかない、不気味な風貌の少年だった。
時を同じくして、耳を疑うニュースが忍足村に飛び込んでくる。そしてこの事をきっかけにして、かつてない凄惨な事件が次々と巻き起こり、忍足の村民達を恐怖と絶望に陥れるのであった。
自分たちの生まれ育った村で起こる数々の恐ろしく残忍な事件に対し、祐樹達は知恵を絞って懸命に立ち向かおうとするが、禁忌とされていた忍足村の過去を偶然知ってしまったことで、事件は思いもよらぬ展開を見せ始める……。
青春と戦慄が交錯する、プライマリーユースサスペンス。
どうぞ、ご期待ください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
量子迷宮の探偵譚
葉羽
ミステリー
天才高校生の神藤葉羽は、ある日突然、量子力学によって生み出された並行世界の迷宮に閉じ込められてしまう。幼馴染の望月彩由美と共に、彼らは迷宮からの脱出を目指すが、そこには恐ろしい謎と危険が待ち受けていた。葉羽の推理力と彩由美の直感が試される中、二人の関係も徐々に変化していく。果たして彼らは迷宮を脱出し、現実世界に戻ることができるのか?そして、この迷宮の真の目的とは?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる