恋の記録

藤谷 郁

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正義の使者〈Last Report〉

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水樹を逃亡させるために、三国仁志は何人かの協力者を使っていた。

清掃業者の老人はそのうちの一人で、一条さんを病院から脱出させている。ちなみに彼は、サービスエリアで彼女を降ろしたあと車を乗り換えて港に向かったが、追跡してきた警察に確保されている。

他にも、業務用トラックの荷台に三国をのせて移動を手伝った男がいた。

さらに、鉱山跡地を貸した者、偽造パスポートや旅券を手配した者、逃亡先での生活を援助する者など、協力者が複数存在する。

しかし不思議なことに、犯罪に利用されたというのに、彼らは三国を恨んでいない。これは恩返しだと口を揃えるのだ。

清掃業者の老人などは、救われたとまで言う。

その三国が出頭してきた。


『俺ではどうにもならん。あんたたちに頼むほかない』


突然、警察の前に現れた三国は、水樹を助けてほしいと懇願した。元警察官ゆえに、プロの仕事を必要としたのだ。

順番に話すと、こういうことになる。


三国は崖崩れの時、一条さんが車を乗り換えたサービスエリアにいた。搬入車を装ったトラックを裏手に停めて、荷台にひそんでいたのだ。

トラックを提供し運転したのは、先に記した協力者である。警察がノーマークの人間と車のため、Nシステムや検問に引っかかることなく移動できた。


「三国は外の様子をうかがいつつ、山に向かう一条さんを、遠隔操作ができるドラレコで追跡していましたが……」


途中で水樹に通信を断たれた。その後、崖崩れが起きて二人が行方不明になったとニュースで知り、プランBに作戦を切り替えた。


「何かあった場合、別ルートから脱出すると打ち合わせてあったんです。三国は、水樹と一条さんが生きていると分かってたので、急いでその場所へ移動しました」


坑道の入り口は二カ所あり、一つは崖崩れで潰れてしまった。もう一カ所は、坑道内の分岐点から別方向へ行った先にある。

三国は夜中から翌朝にかけて、そこで待っていた。しかし、いつまで経っても水樹が出てこない。

仕方なくこちらから迎えにいくことにして、奥へ入ってみると、崖崩れの影響で土砂が流れ込み、通れなくなっていた。


「一方の水樹は、翌朝、一条さんの回復を待って坑道に向かいました。しかし別ルートが通れないと分かり、管理棟に引き返した。プランBがダメなら、あとはもう、自力で山を下りるしかない。その時、水樹は逃亡をあきらめたそうです」


山を下りれば、十中八九警察に捕まる。三国の助けなしで、一条さんを連れて逃げるのは不可能だ。

三国は、もしプランBも失敗したらどうすると、水樹に確認していた。その時の水樹の言葉を覚えていて、彼は警察に告げた。


――警察に捕まるくらいなら死んだほうがましだ。いざとなったらハルと一緒に飛ぶよ。ほら、あの星がよく見える崖……一緒に飛べば、生まれ変わってもまた会えると思わないか?


夢見るような目をしていた……と、三国は刑事たちに縋りついた。


『水樹はまだ生きてる。だが、すぐ死のうとしている。助けてくれ!』


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