恋の記録

藤谷 郁

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Crime Story

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次の日、予想どおり春菜から電話がかかってきた。

不安げな声音から、鳥宮がうまくやってくれたのだと確信するが、なぜか彼女はそのことについて相談しなかった。

なぜ苦情について言わないのだと、焦れったくなる。

しかし、僕を頼ってきたのは間違いない。優しく受け入れ、世間話など交えつつ、なぐさめておいた。


――君のことは、放っておけない。


甘く囁くだけで彼女の声音は明るくなり、食事の約束については、またメールしますと言って通話を終えた。

陽向の時と多少違うが、大丈夫。記録に沿うよう、都合よく解釈すればいいのだ。



さらに次の日の夜。

仕事のあと、僕は電車ではなく、タクシーに乗って城田町に向かった。そして、直接公園に行くのではなく、駅と反対方向の大学付近で降ろしてもらう。会社帰りの春菜と鉢合わせるのを避けるためだ。

計画は完璧だが、用心するに越したことはない。

前回と同じように、防犯カメラに注意しながら歩いた。しかし、この辺りもカメラがほとんど見当たらず、住宅街より大学構内のほうがセキュリティが厳しそうだと考える。

城田町はかなりの田舎町で、区画整理された住宅街を外れると、田畑の中に古い民家があったりする。ああいった家には独居老人が多いと、営業担当者が言っていた。若い世代は街に住み、時々様子を見にくるという形である。

それにしても、田舎の夜はどこも似たようなもので、気分が暗くなる。目にするだけで、憂鬱だった。



午後10時少し前に公園に着くと、じきに鳥宮がやってきた。

今夜は晴れているので、公園内が明るく感じられる。できるだけ短時間で終わらせたくて、現金50万を剥き出しのまま鳥宮に渡したあと、さっさと本題に入った。


『この前はちゃんと仕事してくれたみたいだな』

『あ、はい。言われたとおり、集合ポストに紙を入れました』


現金をジャンパーのポケットに押し込みながら、僕に報告する。


『妹さんはすぐに気づいたみたいで、朝には回収してありましたよ』

『知ってる。早速、僕に相談してきた』

『そうですか。やっぱり、怖がってましたか?』

『ああ』


実はまだ相談されていない。だが、頼ってきたのだから同じである。


『大丈夫かな。大家さんに通報されないかな』

『心配するな。それは止めておいた』


我ながら、よくもこうスラスラとでまかせが言えたものだ。感心する。


『あ、そういえば昨日の夜、コンビニで妹さんを見かけました』

『何?』


鳥宮の弾んだ声を聞き、僕は眉をひそめた。


『顔を合わせないほうがいいと思って、棚の陰に隠れてたんです。でも、なぜか彼女のほうがじっと見てくるから、ドキドキしちゃいました。なんか、ボクを誰かと間違えたみたいで、頭を下げてたけど』


誰と間違えると言うのだ。ストーカーにありがちな自意識過剰である。


『まさか、あとをつけたりしなかったろうな』

『えっ? いや……そんなことしません。妹さんに、そんなことは……』


嘘だと丸わかりだ。やはり、覗きなどする奴は信用ならない。

感情を押し込め、話を戻す。


『とにかく、君のおかげでうまくいきそうだ。妹はかなり怖がっていて、実家に戻ると言ってる』

『え、本当ですか』

『たぶん、今月末には退去するだろう。で、その前に、二人で食事することになったんだ。17日の夜に』

『はあ、そうなんですね』


食事の約束はこれからする。しかし、ほぼ決定事項だ。天気によっては前後するかもしれないが。


『それで、食事のあと妹をタクシーで送ってくるから、その時に、君に成功報酬を渡そうと思う。夜の9時半くらいになる予定だけど、いいかな』

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