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Crime Story
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『協力してくれたら、覗きのことは黙っておいてやる。あと、報酬も払うよ。そうだな……50万でどうだい?』
『ご、50万……!?』
鳥宮の目の色が変わった。50万ぽっちで反応するとは、よほど金に困っているのだろう。
『上手くいったら、成功報酬として200万払おう』
『……まじですか?』
覗きの罪を免れる上に、金を貰えるのだ。鳥宮は完全に前のめりになった。
『頼むよ。人助けだと思って、協力してくれ』
『人助け……』
鳥宮ははっとした様子になる。僕の顔や姿を遠慮がちに見回し、しばらく迷っていたが……
『嫌がらせって、何をすればいいのでしょう』
前向きな返事を聞いて、僕は心から感謝した。鳥宮ではなく、幸運へと導いてくれた神に。
『僕の言うとおりにしてもらう。ただ、その前に一つだけ、条件があるんだ。この件については他言無用。家族、友達、どんなに親しい人にも漏らさないように。つまり、僕と君だけの秘密だ』
怪しげな条件だが、鳥宮はなぜか嬉しそうに承諾した。
『じゃあ、具体的に言うぞ』
『はい』
まずは始まりのエピソードから。指示を仰ぐ鳥宮に、今夜やってもらうことを伝えた。
『ええと……レポート用紙に、赤色のペンで「うるさいぞ」と書いて、ポストに入れるんですね』
『そう、字は乱暴な感じで。あと、紙を入れるのはドアポストではなく、集合ポストだ。間違えないでくれよ』
『は、はい』
細かすぎる指示に首を傾げながらも、鳥宮は素直に受け入れた。従順な態度に満足した僕は、財布にあるだけの札を彼に手渡す。
『とりあえず、仕事を引き受けてくれたお礼だ。50万は明日……いや、明後日の夜10時に、この公園で渡す』
明日の夜あたり、春菜が電話してくるだろう。いつでも応じられるよう、家で待機していたい。
『えっ、50万とは別に、こんなに?』
『いいから取っておけ。それより、明後日の夜10時だ。必ず時間どおりに来てくれよ』
『わ、分かりました。あは……なんか、スパイ映画みたいですね』
鳥宮は楽しそうに笑った。どうしてか、僕を見る目が輝いている。
『あのう、黒騎士さんは……』
『ん?』
声が小さくて、よく聞こえなかった。しかし鳥宮は顔を振り、
『なんでもありません。あなたの名前を、まだ聞いてなかったと思って。ボクは鳥宮優一朗といいます』
『ああ……名前か。好きなように呼んでいいよ』
『え、はあ……』
鳥宮はガッカリした様子になるが、僕は偽名すら教えなかった。名前など、最後にはどうでもよくなるのだから。
『とにかく、頼みを聞いてくれてありがとう。君にしかできない仕事だから、頑張ってくれ』
今度は嬉しそうに笑う。変な男だ。
それから2、3分ほど指示について再確認したあと、解散した。
駅に戻って電車を待つ間、僕は実験再開の喜びに浸った。同時に、今後気をつける点を頭でまとめる。
もっとも大切なのは、鳥宮と接触した証拠を残さないことだ。
(公園に防犯カメラはなかった。アパートと駅の間も注意しながら歩いたし、大丈夫だ。まあ、カメラに映ったところで、絶対的な証拠にはならないだろうが)
金のやり取りや指示の内容を、鳥宮が誰かに漏らさない限り、どうってことない。僕が直接手をかけるわけではなく、あいつが勝手に落ちるんだから。陽向を殺した犯人が、落ちたように。
駅のホームに設置されたカメラを横目で見やる。
(計画どおりにいけば、高崎の事件を再現するのは10日後。自殺と判断されるだろうし、警察に怪しまれるとしても、かなり先の話だ。その頃には、今日の録画データは消えている)
正義などなんの役にも立たない。僕は、幸せな未来を生きるんだ。
そのためには、彼女を実験に使い、成功させなければ。大丈夫、彼女が助けを求めてきたら、相談に乗り、デートの約束をして、それから……
必ず守り抜く。
今度こそ、きっと。
『ご、50万……!?』
鳥宮の目の色が変わった。50万ぽっちで反応するとは、よほど金に困っているのだろう。
『上手くいったら、成功報酬として200万払おう』
『……まじですか?』
覗きの罪を免れる上に、金を貰えるのだ。鳥宮は完全に前のめりになった。
『頼むよ。人助けだと思って、協力してくれ』
『人助け……』
鳥宮ははっとした様子になる。僕の顔や姿を遠慮がちに見回し、しばらく迷っていたが……
『嫌がらせって、何をすればいいのでしょう』
前向きな返事を聞いて、僕は心から感謝した。鳥宮ではなく、幸運へと導いてくれた神に。
『僕の言うとおりにしてもらう。ただ、その前に一つだけ、条件があるんだ。この件については他言無用。家族、友達、どんなに親しい人にも漏らさないように。つまり、僕と君だけの秘密だ』
怪しげな条件だが、鳥宮はなぜか嬉しそうに承諾した。
『じゃあ、具体的に言うぞ』
『はい』
まずは始まりのエピソードから。指示を仰ぐ鳥宮に、今夜やってもらうことを伝えた。
『ええと……レポート用紙に、赤色のペンで「うるさいぞ」と書いて、ポストに入れるんですね』
『そう、字は乱暴な感じで。あと、紙を入れるのはドアポストではなく、集合ポストだ。間違えないでくれよ』
『は、はい』
細かすぎる指示に首を傾げながらも、鳥宮は素直に受け入れた。従順な態度に満足した僕は、財布にあるだけの札を彼に手渡す。
『とりあえず、仕事を引き受けてくれたお礼だ。50万は明日……いや、明後日の夜10時に、この公園で渡す』
明日の夜あたり、春菜が電話してくるだろう。いつでも応じられるよう、家で待機していたい。
『えっ、50万とは別に、こんなに?』
『いいから取っておけ。それより、明後日の夜10時だ。必ず時間どおりに来てくれよ』
『わ、分かりました。あは……なんか、スパイ映画みたいですね』
鳥宮は楽しそうに笑った。どうしてか、僕を見る目が輝いている。
『あのう、黒騎士さんは……』
『ん?』
声が小さくて、よく聞こえなかった。しかし鳥宮は顔を振り、
『なんでもありません。あなたの名前を、まだ聞いてなかったと思って。ボクは鳥宮優一朗といいます』
『ああ……名前か。好きなように呼んでいいよ』
『え、はあ……』
鳥宮はガッカリした様子になるが、僕は偽名すら教えなかった。名前など、最後にはどうでもよくなるのだから。
『とにかく、頼みを聞いてくれてありがとう。君にしかできない仕事だから、頑張ってくれ』
今度は嬉しそうに笑う。変な男だ。
それから2、3分ほど指示について再確認したあと、解散した。
駅に戻って電車を待つ間、僕は実験再開の喜びに浸った。同時に、今後気をつける点を頭でまとめる。
もっとも大切なのは、鳥宮と接触した証拠を残さないことだ。
(公園に防犯カメラはなかった。アパートと駅の間も注意しながら歩いたし、大丈夫だ。まあ、カメラに映ったところで、絶対的な証拠にはならないだろうが)
金のやり取りや指示の内容を、鳥宮が誰かに漏らさない限り、どうってことない。僕が直接手をかけるわけではなく、あいつが勝手に落ちるんだから。陽向を殺した犯人が、落ちたように。
駅のホームに設置されたカメラを横目で見やる。
(計画どおりにいけば、高崎の事件を再現するのは10日後。自殺と判断されるだろうし、警察に怪しまれるとしても、かなり先の話だ。その頃には、今日の録画データは消えている)
正義などなんの役にも立たない。僕は、幸せな未来を生きるんだ。
そのためには、彼女を実験に使い、成功させなければ。大丈夫、彼女が助けを求めてきたら、相談に乗り、デートの約束をして、それから……
必ず守り抜く。
今度こそ、きっと。
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