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正義の使者〈4〉
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「重要……ですか?」
「もう一度、よく考えてみろ。なぜ『うさぎ』なのか」
「はあ」
水野さんに促され、考えることに集中した。
うさぎの絆創膏……うさぎ……うさぎ。謎かけを解くヒント。重要なメッセージ。
頭で言葉を繰り返すうちに、ふと、閃くものがあった。
「水樹は子どもの頃、うさぎを飼っていましたよね」
「祖母が亡くなったあと世話していたという、うさぎだな」
「そうです。やつの日記にも出てきました」
俺は資料をめくり、該当する箇所を拾い出した。
『……震える彼女を想像する。僕は昔飼っていたうさぎを思い出し、ほんの少し可愛いという感情を覚えた……』
『……賢く、優しく、神経質で怖がりな性格は、まるでうさぎだ。可愛い――と、この前よりも強く、はっきりと感じた……』
これだ!
なぜピンとこなかったのだろう。
「水樹にとって、斎藤陽向は、うさぎのような存在だった。つまり、『うさぎ』は『ハル』。『ハル』は『一条春菜』ってことです」
一条さんは言った。絆創膏は、俺が一番必要とするものだと。今、一番必要とするものは何だ。
「水野さん。彼女はスマホの電源を切っています。連絡がつきません」
「ああ。病院を脱け出す時に切ったようだ。あるいは三国が切らせたか。GPSで追跡されるからな」
スマホの位置情報は使えない。その場合、『ハル』の行方を知るために必要なものとは……
「一条さんは、俺に託したんです。ホテルの部屋のどこかにあるはず。俺……というより、警察にとって一番必要な情報が!」
「それが、うさぎの絆創膏か」
水野さんが捜査本部へとすっ飛んでいく。俺が管理官に呼び戻されたのは、それから間もなくだった。
「洗面台の引き出しから見つかったそうだ。中にメモが入っていた」
管理官がデスクに置いたのは、うさぎ柄の絆創膏セットと、一枚のメモ用紙。証拠品としてビニール袋に入れてある。
「話は水野係長から聞いた。これは、お前宛てのメッセージのようだな」
「はい」
メモ用紙には、メールアドレスと、アルファベットと数字を組み合わせた文字が記されていた。
「意味が分かるか?」
「はい……おそらく、追跡アプリのIDとパスワードです」
俺の推測に管理官はふんと鼻息を吹いて、もう一つの証拠品をデスクに並べた。
「こいつも一緒に出てきた。通販会社の納品書だ。一条はオーディオプレイヤーの他に、GPS発信機も購入している」
推測が当たった。俺は心の中で、歓喜の声を上げた。
「一条春菜は、GPS発信機を持って、水樹のもとへ向かったようだな」
「そういうことになります」
気持ちが昂り、声が震えた。まったく、彼女には驚かされる。
水野さんが進み出て意見を述べた。
「一条春菜は昨日、病院内のどこかで三国と接触したのでしょう。水樹のもとへ行くよう説得されて、おそらく、それに乗った振りで脱走したんです。我々には一切、報告せずに」
管理官がうなずく。
「敵を欺くには、まず味方から。警察に下手に動かれては相手に気取られると、用心したんだろう」
捜査員たちがざわめく。皆、複雑な表情だが、反応は悪くない。本部の空気が変わるのを実感した。
「脱走を手引きしたのは、三国に違いありません。急いで病院の防犯カメラを解析すべきです」
「もうやってる。あと、山賀小百合にも事情聴取してるところだ」
「もう一度、よく考えてみろ。なぜ『うさぎ』なのか」
「はあ」
水野さんに促され、考えることに集中した。
うさぎの絆創膏……うさぎ……うさぎ。謎かけを解くヒント。重要なメッセージ。
頭で言葉を繰り返すうちに、ふと、閃くものがあった。
「水樹は子どもの頃、うさぎを飼っていましたよね」
「祖母が亡くなったあと世話していたという、うさぎだな」
「そうです。やつの日記にも出てきました」
俺は資料をめくり、該当する箇所を拾い出した。
『……震える彼女を想像する。僕は昔飼っていたうさぎを思い出し、ほんの少し可愛いという感情を覚えた……』
『……賢く、優しく、神経質で怖がりな性格は、まるでうさぎだ。可愛い――と、この前よりも強く、はっきりと感じた……』
これだ!
なぜピンとこなかったのだろう。
「水樹にとって、斎藤陽向は、うさぎのような存在だった。つまり、『うさぎ』は『ハル』。『ハル』は『一条春菜』ってことです」
一条さんは言った。絆創膏は、俺が一番必要とするものだと。今、一番必要とするものは何だ。
「水野さん。彼女はスマホの電源を切っています。連絡がつきません」
「ああ。病院を脱け出す時に切ったようだ。あるいは三国が切らせたか。GPSで追跡されるからな」
スマホの位置情報は使えない。その場合、『ハル』の行方を知るために必要なものとは……
「一条さんは、俺に託したんです。ホテルの部屋のどこかにあるはず。俺……というより、警察にとって一番必要な情報が!」
「それが、うさぎの絆創膏か」
水野さんが捜査本部へとすっ飛んでいく。俺が管理官に呼び戻されたのは、それから間もなくだった。
「洗面台の引き出しから見つかったそうだ。中にメモが入っていた」
管理官がデスクに置いたのは、うさぎ柄の絆創膏セットと、一枚のメモ用紙。証拠品としてビニール袋に入れてある。
「話は水野係長から聞いた。これは、お前宛てのメッセージのようだな」
「はい」
メモ用紙には、メールアドレスと、アルファベットと数字を組み合わせた文字が記されていた。
「意味が分かるか?」
「はい……おそらく、追跡アプリのIDとパスワードです」
俺の推測に管理官はふんと鼻息を吹いて、もう一つの証拠品をデスクに並べた。
「こいつも一緒に出てきた。通販会社の納品書だ。一条はオーディオプレイヤーの他に、GPS発信機も購入している」
推測が当たった。俺は心の中で、歓喜の声を上げた。
「一条春菜は、GPS発信機を持って、水樹のもとへ向かったようだな」
「そういうことになります」
気持ちが昂り、声が震えた。まったく、彼女には驚かされる。
水野さんが進み出て意見を述べた。
「一条春菜は昨日、病院内のどこかで三国と接触したのでしょう。水樹のもとへ行くよう説得されて、おそらく、それに乗った振りで脱走したんです。我々には一切、報告せずに」
管理官がうなずく。
「敵を欺くには、まず味方から。警察に下手に動かれては相手に気取られると、用心したんだろう」
捜査員たちがざわめく。皆、複雑な表情だが、反応は悪くない。本部の空気が変わるのを実感した。
「脱走を手引きしたのは、三国に違いありません。急いで病院の防犯カメラを解析すべきです」
「もうやってる。あと、山賀小百合にも事情聴取してるところだ」
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