恋の記録

藤谷 郁

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正義の使者〈4〉

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「つまり、この人は智哉さんの味方ってことですか?」

「なぜ水樹に協力するのかは分かりませんが、そう考えて差し支えないかと……」


一条さんの身体がぐらりと揺れた。倒れそうになるのを見て、瀬戸さんが慌てて支える。


「大丈夫ですか?」

「すみません。ちょっと、めまいがしました」


瀬戸さんが寄り添い、彼女の顔をそっと覗いた。


「顔色が良くありませんね」

「体調は悪くないです。寝不足なだけなので。ただ、私……すごく情けなくて」

「えっ?」


瀬戸さんと俺は顔を見合わせる。一条さんらしからぬ弱音だった。


「智哉さんが行方不明になって、今日で五日目ですよね。それなのに、私はまったくの役立たず。自分にできることなんてほとんどないのだと思い知るばかりで、歯がゆくて仕方ないんです」

「一条さん……」


そんなことはないと、俺は言いたかった。一条さんが警察こちら側にいてくれるだけで、ありがたいのだ。

しかし、涙を浮かべる彼女をどう励ませばいいのか分からず、瀬戸さんに任せるほかなかった。


「役立たずだなんて、らしくないですよ。少しずつですが捜査は進んでいます。元気を出して、これまでどおりのやり方で協力してください」

「これまでどおり……」

「そうです。あなたらしくいてくれたら、それでじゅうぶん。一条さんにしかできないことなんですよ?」


特別なことをしない――

我々が一条さんに依頼した協力方法だ。いつものように買い物したり、散歩したり、普通に過ごしてほしい。そして、水樹から連絡が来たら、すぐに報告してくださいと頼んだ。

水樹は必ず一条さんにコンタクトを取ろうとする。あるいは三国を使うかもしれない。不自然な動きをすれば警戒されるだろう。奴を捕まえるために、一条さんの協力がこれからも不可欠なのだ。


「そうでしたね。すみません、弱音を吐いてしまって」

「とんでもない。辛くなったら、いつでも相談してください。私たちが全力であなたをお守りします」


一条さんがうなずき、瞼を拭う。気丈な人だが、さすがに参っている。やつれて見えたのは、気のせいではなかった。


「ちょっと休憩しましょうか」


瀬戸さんに命じられ、廊下の突き当りにある自販機で缶コーヒーを買ってきた。一条さんに渡すと、少しほっとした様子になる。ホテルの部屋は乾燥するので、俺にとっても、ちょうどいい一服だった。


一条さんが落ち着くのを待ち、今度は鳥宮の件について、話せる範囲で伝えた。彼女は黙って耳を傾け、やがて複雑な表情を浮かべる。


「鳥宮さんは、悪い人じゃなかったんですね。むしろ、智哉さんに利用された被害者で……お母さんも、辛い思いをされたのですね」


一条さんが顔を上げて、俺たちを見る。いつもの強い眼差しに戻っていた。


「山賀さんもです。彼女も利用されて、大変な目に遭いました」


一条さんは昨日、R病院に入院中の彼女を見舞っている。


「山賀さんは今でも、智哉さんを責めようとしません。だけど、彼女が許しても私は許さない。必ず償ってもらいます。私にも、大きな責任があるから」


一条さんらしい言葉だと感じる。だから俺は、この人を信じていられるのだ。迷いや葛藤を乗り越え、最後は自分の正義に従う。ある意味、俺なんかよりずっと強い。


「山賀さんのことは、私たちもずっと気になっています」


瀬戸さんが、山賀さんの今の状態について訊ねた。捜査の進展によっては、もう一度彼女を聴取しなければならない。


「まだ個室にいますが、家族以外とも普通に面会できるようになりました。看護師さんの話では、医師が驚くほどの回復ぶりで、来週からリハビリが始まるそうです」

「それはすごい。リハビリは根気がいるでしょうけど、頑張ってほしいですね」


一条さんはうなずき、少し考える風にしてから続けた。


「実は、今日も病院に行くつもりなんです。山賀さんと約束したので」

「約束?」

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