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正義の使者〈3〉
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「水樹の私物を、証拠としていくつか差押えたんですよね」
「押収したノートパソコンを鑑識が調べて、今は科捜研が解析してる。スマホと同期してるかもって期待したけど、仕事のメールとか書類とか、あまり役立たないデータがほとんどだった。でも、一つだけ参考になりそうなものが出たの」
それは俺も聞いている。
「鍵付きのファイルだとか」
「そう。ロックを解いてみると、日記のような、レポートのような文章が保存されていた。ファイル名は、【恋の記録】」
小説のようなタイトルだが、おそらく日記だという。
「解析が済んだら連絡が来る。それまでに、こっちはこっちで、できるだけのことをしましょう」
「はい」
一条さんの気持ちを考えると不憫だが、だからこそ早く水樹を捕まえる。真実を語らせるために。
R病院が見えてきた。街は車が少なく、早く到着した。今日は平日だが、GWなので連休中の会社が多いのだろう。
「まずは山賀さんの聴取から。一条さんが知らないことを知ってるとは思えないけど、彼女から見て二人の関係がどうだったのか、それを聴くことに意味がある。女の直感力は、あなどれないからね」
駐車場で車を降りるやいなや、瀬戸さんは早足で俺を先導した。
山賀さんはベッドに横たわっていた。
意識ははっきりしているが、まだ起きられず、言葉も上手く話せない。普通に生活するには、さらなる治療とリハビリが必要だ。
(回復したとはいえ、かなりの重症だ。後遺症が出るかもしれない)
痛々しい姿を見るうち、俺の中で水樹への怒りが再燃する。しかし山賀さんの発言に、あの男への恨み言は一切なかった。それどころか庇っているようにすら聞こえた。
「一条さんは、無事、だったのです、ね……よかった」
水樹が古池を殺害し、現在逃走中であることは伏せておいた。水樹が一条さんと幸せになることが彼女の望みなのだ。
こんな目に遭いながらなぜ、と、俺は理解に苦しむ。この人にとって水樹は、それほどまでに魅力的な存在なのか。
「山賀さん、最後に聞かせてください。一条さんに関する水樹さんの発言で、何か気づいたことはありませんか。どんなことでもいい。言葉や仕草、気になることがあったら」
瀬戸さんの問いに、山賀さんはよく分からないという顔になる。そしてしばらく、ぼんやりと瀬戸さんを見つめた。
「ど……して、そんなことを」
「真実を知るためです。一条さんのために」
「……一条、さん……」
山賀さんはつぶやき、ハッと目を見開く。
「山賀さん?」
「でも、まさか……あれは……」
迷っている。水樹について何か気づいているのだ。
瀬戸さんが前のめりになった。
「山賀さん、教えてください。お願いします」
「……」
「もうよろしいですか。あまり長引くと、患者さんに負担がかかります」
医師がストップをかけた。
瀬戸さんが時計を確かめ、唇を噛む。約束の15分を過ぎていた。
「山賀さん、ご協力をありがとうございました。お大事になさってください」
俺も挨拶をして、瀬戸さんと一緒に病室を出ようとした。
「ま、待っ……て」
か細い声に呼び止められた。見ると、山賀さんがこちらに視線を向けている。
「えっ、何ですか?」
山賀さんの枕元に瀬戸さんがしゃがんで、顔を近づけた。医師が渋い顔をするが、ほんの少しだけと待ってもらう。
「気の、せいかも……しれません。聞き間違い、かも」
「大丈夫ですよ。どうぞ、お話しください」
「私に、身代わりを頼んだ……とき、水樹さん、が……」
山賀さんは迷い、それでも教えてくれた。その言葉を。
「押収したノートパソコンを鑑識が調べて、今は科捜研が解析してる。スマホと同期してるかもって期待したけど、仕事のメールとか書類とか、あまり役立たないデータがほとんどだった。でも、一つだけ参考になりそうなものが出たの」
それは俺も聞いている。
「鍵付きのファイルだとか」
「そう。ロックを解いてみると、日記のような、レポートのような文章が保存されていた。ファイル名は、【恋の記録】」
小説のようなタイトルだが、おそらく日記だという。
「解析が済んだら連絡が来る。それまでに、こっちはこっちで、できるだけのことをしましょう」
「はい」
一条さんの気持ちを考えると不憫だが、だからこそ早く水樹を捕まえる。真実を語らせるために。
R病院が見えてきた。街は車が少なく、早く到着した。今日は平日だが、GWなので連休中の会社が多いのだろう。
「まずは山賀さんの聴取から。一条さんが知らないことを知ってるとは思えないけど、彼女から見て二人の関係がどうだったのか、それを聴くことに意味がある。女の直感力は、あなどれないからね」
駐車場で車を降りるやいなや、瀬戸さんは早足で俺を先導した。
山賀さんはベッドに横たわっていた。
意識ははっきりしているが、まだ起きられず、言葉も上手く話せない。普通に生活するには、さらなる治療とリハビリが必要だ。
(回復したとはいえ、かなりの重症だ。後遺症が出るかもしれない)
痛々しい姿を見るうち、俺の中で水樹への怒りが再燃する。しかし山賀さんの発言に、あの男への恨み言は一切なかった。それどころか庇っているようにすら聞こえた。
「一条さんは、無事、だったのです、ね……よかった」
水樹が古池を殺害し、現在逃走中であることは伏せておいた。水樹が一条さんと幸せになることが彼女の望みなのだ。
こんな目に遭いながらなぜ、と、俺は理解に苦しむ。この人にとって水樹は、それほどまでに魅力的な存在なのか。
「山賀さん、最後に聞かせてください。一条さんに関する水樹さんの発言で、何か気づいたことはありませんか。どんなことでもいい。言葉や仕草、気になることがあったら」
瀬戸さんの問いに、山賀さんはよく分からないという顔になる。そしてしばらく、ぼんやりと瀬戸さんを見つめた。
「ど……して、そんなことを」
「真実を知るためです。一条さんのために」
「……一条、さん……」
山賀さんはつぶやき、ハッと目を見開く。
「山賀さん?」
「でも、まさか……あれは……」
迷っている。水樹について何か気づいているのだ。
瀬戸さんが前のめりになった。
「山賀さん、教えてください。お願いします」
「……」
「もうよろしいですか。あまり長引くと、患者さんに負担がかかります」
医師がストップをかけた。
瀬戸さんが時計を確かめ、唇を噛む。約束の15分を過ぎていた。
「山賀さん、ご協力をありがとうございました。お大事になさってください」
俺も挨拶をして、瀬戸さんと一緒に病室を出ようとした。
「ま、待っ……て」
か細い声に呼び止められた。見ると、山賀さんがこちらに視線を向けている。
「えっ、何ですか?」
山賀さんの枕元に瀬戸さんがしゃがんで、顔を近づけた。医師が渋い顔をするが、ほんの少しだけと待ってもらう。
「気の、せいかも……しれません。聞き間違い、かも」
「大丈夫ですよ。どうぞ、お話しください」
「私に、身代わりを頼んだ……とき、水樹さん、が……」
山賀さんは迷い、それでも教えてくれた。その言葉を。
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