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正義の使者〈3〉
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古池逮捕で解散となるはずだった捜査本部は新たな戒名を掲げ、引き続き緑署内に設置されることとなった。
近隣の署に応援を頼むなど捜査員の補充があったが、仕事が減るわけではない。
皆、疲れ果てていた。それなのに誰も俺を責めず、それどころか腫れ物に触るように扱われて、堪らなかった。
かつてない居心地の悪さだが、捜査本部に戻された俺の役目は犯人逮捕に全力を尽くすこと。一刻でも早く事件を解決するのだ。
「すみません瀬戸さん、お待たせしました」
「よし、行くよ」
上層部は再び俺と瀬戸さんを組ませた。彼女は「東松が暴走するようならすぐに報告しろ」と厳命されている。
「これから鑑取り班と連携しつつ、水樹の過去と人間関係を洗う。まずは高崎だけど、群馬県警の望月警部補が調査に協力してくれるわ。あんたがヘマしたら私も望月さんも巻き添えで処分されるんだからね。ちゃんと仕事すんのよ!」
「はいっ」
車に乗り込むと同時に電話が鳴った。瀬戸さんが応答して、短くやり取りする。
「高崎の前にR病院に寄って。山賀さんの面会許可が出た」
「分かりました」
ということは、面会できるまで回復したのだ。
俺はほっとすると同時に緊張を覚える。山賀さんは水樹に利用されて重傷を負った、いわば被害者。
いよいよ本格的に、水樹の人間性に迫る調査が始まるのだ。
俺はアクセルを踏み、公道に出た。はやる気持ちを抑えて慎重に運転する。
「それにしても、水樹はどこに消えたのかなあ。大学で見失ったあと、キャンパスを即座に封鎖したのよね?」
「はい。校舎はもちろん敷地内を全部調べました。防犯カメラにも映っていません。大学に潜伏という可能性は低いです」
城田町は防犯カメラが少ない。大学のほうがセキュリティ強固だと判断し、あえて住宅街を選んだのかもしれない。しかしまさか、人目に付きやすい方向へ逃げるとは思わなかった。
要するに、俺は読みを外した。しかも間違えて学生を追いかけ、水樹に逃走猶予を与えてしまったのだ。
「やっぱり住宅街へ逃げ込んだわけか。でも、あんたが大学へ走ったあと応援のパトカーが来て、すぐに住宅地も探したのよ。なのに見つからないってことは、すぐにまた別のどこかに逃げたってこと。裏道を知っていたとしか思えないわ」
だが水樹は城田町に土地鑑がないはず。防犯カメラが少ないのは、古池の事件で知っただろうが。
「住宅街に潜伏するのは無理だし。うーん……」
古池の例を踏まえ、警察は周辺住宅のみならずアパートまで一部屋ずつ丁寧に調べた。だが水樹は見つからず、既に逃亡したとして全国に指名手配されている。
「遠くに逃げるにしても、鉄道その他交通機関は手配済みだし、車を盗んだってNシステムや検問をすり抜けるのは簡単じゃない。煙のように消えちゃったのかしらね」
瀬戸さんは冗談めかすが、声がイラついている。目の前で逃げられたのは俺だが、彼女はその俺と奴を追っていた相棒なのだ。
悔しくて仕方ない気持ちがビリビリと伝わってくる。
「行方を探るには、彼の人間関係を調べるほかない。でも、ドゥマンの関係者に聴いても、水樹とプライベートで付き合いのある人はいないし、一条さんも……」
瀬戸さんがこちらをチラリと見て、小さく息をつく。
「一条さんも、水樹についてほとんど何も知らない。生まれ育ち、友人、元カノ、過去のこと……智哉さんを信じてる、知らなくてもいいと彼女は言ったけれど、一途な思いを都合よく利用された感じ。結局は、山賀さんと同じく身代わりだったのかもね。斎藤陽向の」
「……」
水樹が事件を起こした時、一条さんは本町のマンションに戻っていた。
水樹は車を店に返してくると言って、彼女を引越し会社のトラックに乗せて、別々にアパートを出たのだ。
一条さんは、警察が家に来て初めて水樹の所業を知った。水樹に電話しても電源が切られている。
わけが分からず、混乱した状態のまま事情聴取に応じ、家宅捜索に立ち会うこととなった。
近隣の署に応援を頼むなど捜査員の補充があったが、仕事が減るわけではない。
皆、疲れ果てていた。それなのに誰も俺を責めず、それどころか腫れ物に触るように扱われて、堪らなかった。
かつてない居心地の悪さだが、捜査本部に戻された俺の役目は犯人逮捕に全力を尽くすこと。一刻でも早く事件を解決するのだ。
「すみません瀬戸さん、お待たせしました」
「よし、行くよ」
上層部は再び俺と瀬戸さんを組ませた。彼女は「東松が暴走するようならすぐに報告しろ」と厳命されている。
「これから鑑取り班と連携しつつ、水樹の過去と人間関係を洗う。まずは高崎だけど、群馬県警の望月警部補が調査に協力してくれるわ。あんたがヘマしたら私も望月さんも巻き添えで処分されるんだからね。ちゃんと仕事すんのよ!」
「はいっ」
車に乗り込むと同時に電話が鳴った。瀬戸さんが応答して、短くやり取りする。
「高崎の前にR病院に寄って。山賀さんの面会許可が出た」
「分かりました」
ということは、面会できるまで回復したのだ。
俺はほっとすると同時に緊張を覚える。山賀さんは水樹に利用されて重傷を負った、いわば被害者。
いよいよ本格的に、水樹の人間性に迫る調査が始まるのだ。
俺はアクセルを踏み、公道に出た。はやる気持ちを抑えて慎重に運転する。
「それにしても、水樹はどこに消えたのかなあ。大学で見失ったあと、キャンパスを即座に封鎖したのよね?」
「はい。校舎はもちろん敷地内を全部調べました。防犯カメラにも映っていません。大学に潜伏という可能性は低いです」
城田町は防犯カメラが少ない。大学のほうがセキュリティ強固だと判断し、あえて住宅街を選んだのかもしれない。しかしまさか、人目に付きやすい方向へ逃げるとは思わなかった。
要するに、俺は読みを外した。しかも間違えて学生を追いかけ、水樹に逃走猶予を与えてしまったのだ。
「やっぱり住宅街へ逃げ込んだわけか。でも、あんたが大学へ走ったあと応援のパトカーが来て、すぐに住宅地も探したのよ。なのに見つからないってことは、すぐにまた別のどこかに逃げたってこと。裏道を知っていたとしか思えないわ」
だが水樹は城田町に土地鑑がないはず。防犯カメラが少ないのは、古池の事件で知っただろうが。
「住宅街に潜伏するのは無理だし。うーん……」
古池の例を踏まえ、警察は周辺住宅のみならずアパートまで一部屋ずつ丁寧に調べた。だが水樹は見つからず、既に逃亡したとして全国に指名手配されている。
「遠くに逃げるにしても、鉄道その他交通機関は手配済みだし、車を盗んだってNシステムや検問をすり抜けるのは簡単じゃない。煙のように消えちゃったのかしらね」
瀬戸さんは冗談めかすが、声がイラついている。目の前で逃げられたのは俺だが、彼女はその俺と奴を追っていた相棒なのだ。
悔しくて仕方ない気持ちがビリビリと伝わってくる。
「行方を探るには、彼の人間関係を調べるほかない。でも、ドゥマンの関係者に聴いても、水樹とプライベートで付き合いのある人はいないし、一条さんも……」
瀬戸さんがこちらをチラリと見て、小さく息をつく。
「一条さんも、水樹についてほとんど何も知らない。生まれ育ち、友人、元カノ、過去のこと……智哉さんを信じてる、知らなくてもいいと彼女は言ったけれど、一途な思いを都合よく利用された感じ。結局は、山賀さんと同じく身代わりだったのかもね。斎藤陽向の」
「……」
水樹が事件を起こした時、一条さんは本町のマンションに戻っていた。
水樹は車を店に返してくると言って、彼女を引越し会社のトラックに乗せて、別々にアパートを出たのだ。
一条さんは、警察が家に来て初めて水樹の所業を知った。水樹に電話しても電源が切られている。
わけが分からず、混乱した状態のまま事情聴取に応じ、家宅捜索に立ち会うこととなった。
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