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正義の使者〈2〉
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「被疑者が自殺したことで事件は片付いたが、水樹の受けた傷は深い。ちゃんと生きていけるのか心配になるほどだったが……最後に会った日、俺はびっくりしたんだ」
「書類送検のあとですか?」
「ああ、一カ月ほどあとの話だ。と言っても、わざわざ会いに行ったわけじゃなくて、水樹の職場を通りかかったとき、ばったり出くわしたんだけど」
「職場というのは、ドゥマン高崎店ですね」
望月さんは頷き、そのときの様子を話す。
「ずいぶん前向きな態度だった。事件については触れず、『転勤が決まったので、もうすぐ引っ越しです』なんて明るく言うんだ。だから逆に心配になって、思わず訊いたよ。大丈夫ですかって」
「水樹は何て?」
「『大丈夫、イチからやり直します』と答えた。えらく吹っきれた表情でね」
イチからやり直します――
「事件のことは忘れて、前に進むってことですか?」
「俺はあのとき、そう解釈した。まっすぐな視線も力強い口調も、事件直後とはまるで別人だったからな」
事件後一カ月の間に、水樹の中で変化が起きたのだろうか。
しかし望月さんは首を横に振る。
「水樹が言うには、斎藤陽向とは付き合い始めたばかりで、さほど深い関係ではなかったそうだ。しかし、あんな風に恋人を殺されてすぐに立ち直るなんて薄情すぎるだろ。水樹の態度には違和感があった」
「疑問を持ったのですね」
「ああ。だから、瀬戸ちゃんに『ともや』という名前を問い合わされたとき、俺は確信した。やっぱり、ショックを引きずっていたのだなと。明るく前向きな態度は現実逃避であり、生きていくための自己防衛だ。今になってようやく分かったよ」
水樹は前向きになるどころか、事件の後遺症に苦しみ続けていた。
忘れようとしても忘れられず、そして過去の記憶を上書きするという突飛もないやり方で、苦しみを乗り越えようとしたのだ。
やはりそれが犯行の動機である。水野さんも同じ意見だった。
「鳥宮は田村、そして一条さんは斎藤陽向の身代わりといえる。いくら辛い過去があろうと、水樹に同情はできんな」
「はい、水野さん」
もしもそれが真相なら、残酷な話だ。一条さんの幸せそうな笑顔を思い出し、暗澹たる気持ちになる。
最後に望月さんが結論づけた。
「鳥宮の件、水樹はクロだ。やつはこれから先も、『恋人』を守るためなら人を平気で殺す。何をしでかすか分からねえぞ」
できるだけ早く水樹に話を聞こう。逃げられないよう、慎重に。
捜査の段取りが決まってから、俺たちは鳥宮の部屋を出た。時刻は午後八時二十分。
外は雨が降り続いていた。
「書類送検のあとですか?」
「ああ、一カ月ほどあとの話だ。と言っても、わざわざ会いに行ったわけじゃなくて、水樹の職場を通りかかったとき、ばったり出くわしたんだけど」
「職場というのは、ドゥマン高崎店ですね」
望月さんは頷き、そのときの様子を話す。
「ずいぶん前向きな態度だった。事件については触れず、『転勤が決まったので、もうすぐ引っ越しです』なんて明るく言うんだ。だから逆に心配になって、思わず訊いたよ。大丈夫ですかって」
「水樹は何て?」
「『大丈夫、イチからやり直します』と答えた。えらく吹っきれた表情でね」
イチからやり直します――
「事件のことは忘れて、前に進むってことですか?」
「俺はあのとき、そう解釈した。まっすぐな視線も力強い口調も、事件直後とはまるで別人だったからな」
事件後一カ月の間に、水樹の中で変化が起きたのだろうか。
しかし望月さんは首を横に振る。
「水樹が言うには、斎藤陽向とは付き合い始めたばかりで、さほど深い関係ではなかったそうだ。しかし、あんな風に恋人を殺されてすぐに立ち直るなんて薄情すぎるだろ。水樹の態度には違和感があった」
「疑問を持ったのですね」
「ああ。だから、瀬戸ちゃんに『ともや』という名前を問い合わされたとき、俺は確信した。やっぱり、ショックを引きずっていたのだなと。明るく前向きな態度は現実逃避であり、生きていくための自己防衛だ。今になってようやく分かったよ」
水樹は前向きになるどころか、事件の後遺症に苦しみ続けていた。
忘れようとしても忘れられず、そして過去の記憶を上書きするという突飛もないやり方で、苦しみを乗り越えようとしたのだ。
やはりそれが犯行の動機である。水野さんも同じ意見だった。
「鳥宮は田村、そして一条さんは斎藤陽向の身代わりといえる。いくら辛い過去があろうと、水樹に同情はできんな」
「はい、水野さん」
もしもそれが真相なら、残酷な話だ。一条さんの幸せそうな笑顔を思い出し、暗澹たる気持ちになる。
最後に望月さんが結論づけた。
「鳥宮の件、水樹はクロだ。やつはこれから先も、『恋人』を守るためなら人を平気で殺す。何をしでかすか分からねえぞ」
できるだけ早く水樹に話を聞こう。逃げられないよう、慎重に。
捜査の段取りが決まってから、俺たちは鳥宮の部屋を出た。時刻は午後八時二十分。
外は雨が降り続いていた。
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