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事務所に入ると、遅番の土屋さんが出勤していた。アルバイトの山賀さんと談笑していたが、私と古池店長が一緒にいるのを見て、不満そうに口を尖らせる。
「店長と副店長、二人きりでランチですか。密談でもしてたんですかあ?」
まったく、なぜそんなバカげたことを言うのか。冗談にしてもたちが悪い。
私はしかし、冷静になるよう努める。土屋さんに歩み寄り、上手くやっていくと決めたばかりだ。
「いやあ、実はそうなんですよ。再来月のフェアについて、私からお願いすることがありましてね」
さすが店長、余裕で切り返した。
「再来月のフェアって、ライトノベルのですか?」
土屋さんが大きな目を見開き、裏切られたという表情で店長に詰め寄る。
「一条さんに、何をお願いするんです? チーフの私に断りもなく、余計な世話を焼かないでください!」
遠慮のない物言いと感情的な態度に、居合わせた社員が面食らう。今のは上司に対する口の利き方ではない。
しかし店長は落ち着き払っている。
「もちろん、あくまでもリーダーは土屋さんです。ただ、あなたが企画するフェアの売上げは、最近いかがでしょう。実績ある一条さんに協力してもらうのは、現状を考えれば当然だと思いますが」
土屋さんは言葉を詰まらせる。企画がマンネリ気味なのは、本人も分かっているらしい。
「……承知しました。あくまでもリーダーは私なんですね?」
「そうです。リーダーとして、頑張ってください」
山賀さんが、ハラハラした様子で二人を見守っている。彼女もライトノベル担当だから、心配なのだ。
「では、一条さん。あとはよろしく」
「は、はい」
店長はエプロンを着けてフロアに出て行く。社員達も、釣られるように仕事を再開した。
「というわけで、フェアに協力させていただきます」
私が近付くと、土屋さんはそっぽを向いた。あからさまな態度にムッとするが、何とか堪える。
「つっちー。ほら、ちゃんと話さないと」
山賀さんに促され、仕方ないようにこちらを向いた。彼女の双眸は、対抗心に燃えている。
なぜこの人は、こんなにも私を敵視するのか。少し不思議に思えた。
「分かりましたよ。でも、まずは私のやり方を勉強してくださいね。その上で、口出ししてください」
土屋さんはデスクからファイルを取り出し、私の前に投げるように置いた。
いちいち癪にさわる人だ。
「過去の企画書です。それをちゃんと理解してから、アイデアなり企画なり提出をお願いします。締め切りは来週の水曜日。店を閉めてから企画会議しますので、予定空けといてくださいね」
私がスケジュール帳に予定を書き込むうちに、土屋さんはさっさとフロアに行ってしまった。
残された私と山賀さんは顔を見合わせ、思わず苦笑する。
「ほんと、すごいライバル心だよね、彼女」
「ええ……」
山賀さんはちらりとドアに目をやり、ため息をつく。
「つっちー……土屋さんは、優秀な社員なんです。でも、ここのところ成績が伸び悩んでるし、いろいろあって、焦ってるんです」
「いろいろって、もしかしてプライベートで?」
私が訊くと山賀さんは目を逸らし、顔を横に振った。
「すみません。私、急ぎの仕事があるので失礼します!」
「え、ちょっと……?」
山賀さんまでいなくなってしまった。
私はスケジュール帳を閉じて、ファイルと一緒にバッグにしまう。とても難しい宿題を持たされた気分だ。
「土屋さん、プライベートで悩みでもあるのかしら」
だけど、仕事に持ち込まれては困る。私だっていろいろあるけど、仕事に差し障りがないようコントロールしている。
土屋さんに歩み寄ろうとしても、あの調子では、まともに話すらできない。
優秀な社員らしく、もう少し大人になってくれることを願った。
「店長と副店長、二人きりでランチですか。密談でもしてたんですかあ?」
まったく、なぜそんなバカげたことを言うのか。冗談にしてもたちが悪い。
私はしかし、冷静になるよう努める。土屋さんに歩み寄り、上手くやっていくと決めたばかりだ。
「いやあ、実はそうなんですよ。再来月のフェアについて、私からお願いすることがありましてね」
さすが店長、余裕で切り返した。
「再来月のフェアって、ライトノベルのですか?」
土屋さんが大きな目を見開き、裏切られたという表情で店長に詰め寄る。
「一条さんに、何をお願いするんです? チーフの私に断りもなく、余計な世話を焼かないでください!」
遠慮のない物言いと感情的な態度に、居合わせた社員が面食らう。今のは上司に対する口の利き方ではない。
しかし店長は落ち着き払っている。
「もちろん、あくまでもリーダーは土屋さんです。ただ、あなたが企画するフェアの売上げは、最近いかがでしょう。実績ある一条さんに協力してもらうのは、現状を考えれば当然だと思いますが」
土屋さんは言葉を詰まらせる。企画がマンネリ気味なのは、本人も分かっているらしい。
「……承知しました。あくまでもリーダーは私なんですね?」
「そうです。リーダーとして、頑張ってください」
山賀さんが、ハラハラした様子で二人を見守っている。彼女もライトノベル担当だから、心配なのだ。
「では、一条さん。あとはよろしく」
「は、はい」
店長はエプロンを着けてフロアに出て行く。社員達も、釣られるように仕事を再開した。
「というわけで、フェアに協力させていただきます」
私が近付くと、土屋さんはそっぽを向いた。あからさまな態度にムッとするが、何とか堪える。
「つっちー。ほら、ちゃんと話さないと」
山賀さんに促され、仕方ないようにこちらを向いた。彼女の双眸は、対抗心に燃えている。
なぜこの人は、こんなにも私を敵視するのか。少し不思議に思えた。
「分かりましたよ。でも、まずは私のやり方を勉強してくださいね。その上で、口出ししてください」
土屋さんはデスクからファイルを取り出し、私の前に投げるように置いた。
いちいち癪にさわる人だ。
「過去の企画書です。それをちゃんと理解してから、アイデアなり企画なり提出をお願いします。締め切りは来週の水曜日。店を閉めてから企画会議しますので、予定空けといてくださいね」
私がスケジュール帳に予定を書き込むうちに、土屋さんはさっさとフロアに行ってしまった。
残された私と山賀さんは顔を見合わせ、思わず苦笑する。
「ほんと、すごいライバル心だよね、彼女」
「ええ……」
山賀さんはちらりとドアに目をやり、ため息をつく。
「つっちー……土屋さんは、優秀な社員なんです。でも、ここのところ成績が伸び悩んでるし、いろいろあって、焦ってるんです」
「いろいろって、もしかしてプライベートで?」
私が訊くと山賀さんは目を逸らし、顔を横に振った。
「すみません。私、急ぎの仕事があるので失礼します!」
「え、ちょっと……?」
山賀さんまでいなくなってしまった。
私はスケジュール帳を閉じて、ファイルと一緒にバッグにしまう。とても難しい宿題を持たされた気分だ。
「土屋さん、プライベートで悩みでもあるのかしら」
だけど、仕事に持ち込まれては困る。私だっていろいろあるけど、仕事に差し障りがないようコントロールしている。
土屋さんに歩み寄ろうとしても、あの調子では、まともに話すらできない。
優秀な社員らしく、もう少し大人になってくれることを願った。
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