恋の記録

藤谷 郁

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レザーソール

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エレベーターに乗り、早速六階に下りた。

靴やバッグなど服飾雑貨の売り場を抜けると、カフェ『フローライト』に着いた。ビルの角に位置するガラス張りの店内は明るく、爽やかな印象だ。

思ったとおりさほどこんでおらず、窓際の二人掛けの席に座ることができた。

外を見れば、晴れた青空のもと、街並みが白く光っている。


「ランチメニューもあるんだ。わあ、美味しそう」


がっつり肉料理とはいかないが、オムライスやスパゲティなど、適度なボリュームのカフェメニューが揃っている。

値段は高めの設定だが、ゆったりとした空間で食事ができるのだからよしとしよう。

注文を取りに来た店員に、一番人気だという日替わりプレートランチを頼んだ。ビーフシチューとデザートも付いているので、お腹を満たせるだろう。 


「いいお店だなあ。お昼はバックヤードでお弁当って思ってたけど、たまにはここで食事しようかな」


明日からの仕事生活がまた楽しみになった。

私は一人にやにやしながら店の中を見回し、ふと、顔を前に戻す。

気のせいか、視線を感じたのだ。

前のテーブル席に、男性が二人座っている。
一人はこちらに背中を向け、もう一人はその向かい側にいる。姿は隠れているが、さっき、その人が私を見ていたような気がした。


(まさかね……)


この土地に知り合いはいない。いるとしたら、書店の店長くらいのもの。
それに私は男性に注目されるような、気の利いた容姿でもない。

自虐的な思考に苦笑いし、窓の外に目をやる。

お気に入りの店を見つけるように、心から夢中になれるような、理想の男性と出会えたらいいのに。 

これまでの、数少ない恋愛経験を思い浮かべてみる。

彼らとはどんなふうに出会っただろう。

中学時代に好きだった男子は同じクラスだった。高校時代は同じ部活で、大学時代に付き合っていた彼は、同じサークルだった。

ありふれた出会いである。

友達が自然に恋人になったみたいな、激しいときめきや情熱とは無縁の、静かで平凡な関係。

いや、それが普通だと思う。

そういった関係が一番幸せだし、結婚してからも安泰だと、既婚の友人も口を揃えている。でも……


「結婚かあ」


いずれにしろ、仕事と同じか、それ以上に好きな人でないと無理。大学時代の彼氏のような、淡々とした関係では、やがて自然解消するだろう。

だけど、仕事以上に夢中になれる相手がこの世にいるかしら。

私という人間は、男性に対して冷静すぎるのかもしれない。 

軽く落ち込んだところに、料理が運ばれてきた。


「わっ、素敵!」


ボリュームたっぷり。しかもきれいに盛り付けられたカフェごはんを見て、憂鬱な気分はたちまち吹き飛ぶ。


「いただきまーす」


オムライスを一口含み、あまりの美味しさに頬を押さえた。

素敵なカフェと出会えて幸せ。こうなったらひたすら食事を楽しもう。そう、私は色気より食い気。そして、仕事大好き人間。

でも、意外にロマンチストでもある。

やっぱり彼氏がほしいなあ……

さっき感じた視線などすっかり忘れ、ぐるぐる考えるのだった。 


デザートを食べ終えた私は、スマートフォンで街の施設や、おすすめスポットを検索した。せっかくだから、職場周辺を散策してから帰ろうと思う。


「ええと、ここは緑《みどり》市本町一丁目……図書館が近いから寄ってみようかな。あっ、美術館もあるんだ」


新しい環境に慣れるには、好きな場所を増やすのが一番。地図アプリに、お気に入りのチェックを入れた。


「よし、早速行ってみよう」


伝票を持ち、席を立った。

ランチタイムも終盤のためか、店内に残る客は少ない。
前の席の男性二人は、まだ座っている。

ずいぶんゆっくり食事するのだなと、何となく思いながら、彼らのテーブルの横を通り過ぎ、レジに向かおうとした。

その時――




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