5 / 24
5.生理現象!?
しおりを挟む
真崎は部屋に入ると、興味深そうにキョロキョロ見回した。そして、ひび割れたテーブルを発見して目を丸くする。
「これはもしや、あなたが?」
「ええ……さっき夕子と電話で話してる時、つい……」
「なるほど、大体状況は分かります。しかし、すごいパワーだなあ」
驚くよりも感心している。科学者らしい反応だが、変人ぽくもあった。
(ほんと、おかしな人だ)
春花はキッチンでお茶を淹れると、盆に乗せて真崎にすすめた。
真崎は胡坐をかいて座り、片手でいただきますの仕草をしてから湯のみを取り上げる。
「やっぱり、あの錠剤を飲んだんですね」
「先生がただのビタミン剤だと言ったからです」
春花が恨めしげに言うと、真崎はばつの悪い表情になる。
「ビタミン剤だというのは、嘘ではありません。私もゼミの学生らも、吉川博士……例の工学博士ですが、彼から同じ錠剤をもらいました。製薬会社と共同開発したサプリメントだそうです。ただ彼は夕子君にだけ『男になる薬』だと、でたらめを吹き込んだんですねえ」
「ええっ?」
「彼は夕子君をからかうのが好きで、あんな封筒に入れて彼女に渡したのです。……だけど、中身は私や学生も飲んだビタミン剤と同じものですよ。このことは先ほど吉川君に確認しておきました」
「先生達も飲んだんですか?」
「はい。でもこのとおり、何の変化もありません。学生も男女を問わず同じくです」
「そんな……だったら、なぜ私だけこんなことに」
わけが分からない。
分かったことといえば一つだけだ。
今回のことは夕子や真崎というより、謎のビタミン剤を開発した吉川博士が主犯だということ。春花は見も知らぬその科学者を憎々しく思った。
「先生、吉川博士に連絡して、何とかしてください!」
「元に戻りたいですか」
「当たり前でしょう! 嫌ですよ、こんなの」
「しかし薬の効果は一週間だけですよ。封筒に書いてあったでしょう」
「あ……」
「不思議な現象でも、その期限は信じていいような気がします。根拠のほどは、吉川君に直接訊いてみなければ分かりませんが」
そういえばそうだ。
一週間だけ男になる――と、薬が入っていた封筒に明記されていた。
「だとしても、一週間も身動きが取れないのは困ります」
春花の苦情に、真崎は意外そうな顔をする。
「何も家に閉じこもっていることはない。楽しんだらいいですよ。なかなか体験できることではありませんからね」
「楽しむ?」
どういう意味だろう。
春花は眉根を寄せるが、彼は至極真面目な様子である。
「一週間ですよ、たったのね。その間、男という性を体験するのです。あなたにとって、忘れられない、貴重な7日間になるに違いありません。どうでしょう」
穏やかで丁寧な真崎の話し方には、理屈以前の説得力があった。
あまり深くものを考えない春花は、もしかしたらそうなのかな――と思い始めている。
「例えば、男にしか出来ないことってあるでしょう」
「はあ」
「そういうのにチャレンジしてごらんなさい。いずれ女性に戻るのですから。ねっ?」
「……」
そうか、一週間の期限付きか。
改めて口の中で呟く。
春花は、何だか急にラクになり、真崎の言葉に耳を傾ける余裕が出てきた。
「でも、何でしょうね、男にしか出来ないことって」
前向きになった春花に、真崎はにんまり笑って膝を詰めてくる。
「ともかく、まずは着替えてください。女物の服を着て街へ出るわけにいかないでしょう」
そう言って、先程の紙袋を指差した。
「えっ、もしかして……着替えを持って来てくれたんですか?」
「はい。私の手持ちから適当にかき集めてきました。サイズはLからXLです。少し大きめかもしれませんが、何とか間に合いそうですね」
春花は驚くとともに、真崎がなぜこんなにすぐやって来たのか分かった気がした。
こんな事態になるとは予測できなかったとはいえ、春花に謎のビタミン剤をすすめてしまった。そのことで、彼は彼なりに責任を感じているのだ。
「先生……」
真崎は大きく頷いた。
どっしりと構えるその姿には、年上らしい頼もしさが感じられる。この人が傍にいてくれたら、何とかなるような気がする。
春花は大きく息をつくと、膝を叩いて立ち上がった。
こうなったら、覚悟を決めるしかない。
(私は、男として一週間を過ごす)
「では、遠慮なくお借りします」
「どうぞ、どうぞ。あ、下着類は新品ですから安心してくださいね」
「なっ……」
一瞬狼狽するが、今の春花は男性体である。これは男同士としての親切なのだ。
「私と同じメーカーのトランクスです」
「あ、ありがとうございます……」
(うう、調子が狂う。まったく、おかしなことになっちゃったな……)
「さて、そろそろ帰ります。大学に行かねばなりません」
「あ……」
先生も忙しいのに、こうして飛んできてくれたのだ。この人が悪いわけじゃないのに。
春花は居住まいを正し、ぺこりと頭を下げた。
「すみません。お世話になりました!」
「どういたしまして」
立ち上がった真崎は春花より背が高い。
玄関に向かう後ろ姿を見上げながら、春花は認識を新たにする。
彼のことを変人だと思い、ドアの鍵をかけないでおいたことを心で詫びた。
真崎は駐車場のすみに停めてあるアウディに乗り込んだ。
窓を下げると、春花に笑いかける。
「夕方、またおじゃまします。今後のこともありますし、相談しましょう。日中も何かあったら遠慮なく連絡してください」
スマートフォンを掲げる彼に促され、春花は連絡先を交換した。
「よろしくお願いします。あの、いろいろとありがとうございました」
「いえいえ。では、グッドラックです」
彼は片手を上げると、意外なほどスマートな運転で県道のむこうに消えて行った。
「さてと……どうしようかな」
真崎を見送るためアパートの外に出て来た春花は、まだちんちくりんのパジャマを着ている。このなりを大家さんにでも見られたら面倒だと思いつき、慌てて部屋に戻った。
しかし姿見に映る自分を眺め、考え直す。
仮に見られても、男物の服を着て『僕は神田春花の弟です』と自己紹介すれば、通用しそうだ。顔がそっくりだし、普通に納得してもらえるだろう。
(それにしても、夕方まで何をして過ごそう。まさか女子大に行って講義を受けるわけにもいかないし)
女性の春花はいなくなり、その代わり男性の春花が存在している。
とりあえず、真崎が貸してくれた男物のシャツとスラックスに着替えた。しばしぼんやりしているとチャイムが鳴った。
このせせこましい鳴らし方は夕子である。
「すご~い、本物の男だ!」
夕子は部屋に上がると男性化した春花をしげしげと眺め、深いため息をついた。
「誰のせいだと思ってんのよ」
「吉川博士」
「夕子もでしょ!」
ここまできてとぼける夕子に、春花は呆れた。
「しかし、私より真崎先生が先に来てたなんて。さすが先生、行動力あるなあ」
「感心してる場合? あんたはね、先生に尻拭いさせてるんだよ」
「うーん。まあ、そうなるかなあ」
この呑気な態度は何なんだろう。
もしかしたら、真崎先生のほうが日頃夕子に迷惑をかけられているのでは……
春花はそんな気がしてきた。
「それにしても、やっぱり春花が私のリュックから封筒を抜き取ってたのね。研究室に戻ってから、落としたのかもしれないって真崎先生に言ったら、いやそれは神田春花さんだって言い当てて、急に会いに行くとか言い出してさ。びっくりするよね、先生自ら春花に興味津々で近付くなんて」
「夕子が常日頃、私のことを先生に吹き込んでたんでしょ」
「えへへ……だって春花ってば実験体としていい身体してるし、面白いもん」
「お、面白い?」
夕子の思考回路は理解不能だ。
もう問答するのも面倒になって、春花はベッドに仰向けに寝そべった。
寝そべりながら夕子を何気なく見やった。
今日は天気もよく気温が高いからか、夕子はブラ付きのタンクトップに膝丈のデニムスカートという軽装だ。
(ん……?)
彼女の姿をしばらく眺めるうち、春花の身体の真ん中辺りに違和感があった。
それに何だか動悸がして、下腹の奥から突き上げるような衝動を感じる。
春花は目を剥き、がばりと起き上がった。
全身から汗が噴き出している。
「わっ、どうしたの?」
春花の尋常ではない様子に、さすがの夕子も動揺している。
彼女がこちらに近付いて腕に触ろうとした時、この違和感と衝動が何なのか春花は気付いた。
「夕子、外に出て! 今すぐ部屋から出て行って!!」
突然叫んだ春花に、夕子は困惑している。
「ど、どこか痛いの? どうしたのさ、春花」
「あとで説明するから……とにかく、早く出てって!」
ベッドのすみに後退りする春花に夕子は頷き、転げるように部屋を飛び出した。
「はあ、はあ……落ち着け、私」
春花は荒れた息を整えつつとトイレに駆け込むと、そっと下半身を確認する。
男性の生理現象――
それを初めて体感した彼女は、呆然と立ち尽くすのみであった。
夕子を外に待たせたまま、春花は真崎に電話した。指先が小刻みに震えている。
『そうですか、大変ですねえ』
落ち着き払った返事に拍子抜けするが、興奮は収まらない。
春花はしかし、つとめて冷静に相談した。
彼しか相談できる相手がいないのだ。
『朝起きた時はどうでした』
「どうってことなかったです。普通でした」
『ふ~む。では、いまいま完全に男性化したのかもしれませんね。そうですか、それは大変ですねえ』
真崎は落ち着きすぎている。春花はもうぶち切れそうだ。
「そうですよ、大変なんです。どうすればいいんですか!!」
春花は真崎のレクチャーを受けた。
恥ずかしいとか、気まずいとか、そんなしおらしい感情は吹き飛んでいる。
ただただ、必死だった。
男性の……いやヒトの身体には、何とさまざまなプログラムがなされているのか。
真崎の言葉をメモしながら、気が遠くなる思いだった。
生理現象の処理を終えると、春花は身だしなみを整えてから玄関に向かった。
何が起きるかわからない恐怖感はあったが、部屋で悶々としているよりは外の方がましである。
「一週間の我慢だ。一週間、一週間……」
自分を励ますように、何度も繰り返した。
「これはもしや、あなたが?」
「ええ……さっき夕子と電話で話してる時、つい……」
「なるほど、大体状況は分かります。しかし、すごいパワーだなあ」
驚くよりも感心している。科学者らしい反応だが、変人ぽくもあった。
(ほんと、おかしな人だ)
春花はキッチンでお茶を淹れると、盆に乗せて真崎にすすめた。
真崎は胡坐をかいて座り、片手でいただきますの仕草をしてから湯のみを取り上げる。
「やっぱり、あの錠剤を飲んだんですね」
「先生がただのビタミン剤だと言ったからです」
春花が恨めしげに言うと、真崎はばつの悪い表情になる。
「ビタミン剤だというのは、嘘ではありません。私もゼミの学生らも、吉川博士……例の工学博士ですが、彼から同じ錠剤をもらいました。製薬会社と共同開発したサプリメントだそうです。ただ彼は夕子君にだけ『男になる薬』だと、でたらめを吹き込んだんですねえ」
「ええっ?」
「彼は夕子君をからかうのが好きで、あんな封筒に入れて彼女に渡したのです。……だけど、中身は私や学生も飲んだビタミン剤と同じものですよ。このことは先ほど吉川君に確認しておきました」
「先生達も飲んだんですか?」
「はい。でもこのとおり、何の変化もありません。学生も男女を問わず同じくです」
「そんな……だったら、なぜ私だけこんなことに」
わけが分からない。
分かったことといえば一つだけだ。
今回のことは夕子や真崎というより、謎のビタミン剤を開発した吉川博士が主犯だということ。春花は見も知らぬその科学者を憎々しく思った。
「先生、吉川博士に連絡して、何とかしてください!」
「元に戻りたいですか」
「当たり前でしょう! 嫌ですよ、こんなの」
「しかし薬の効果は一週間だけですよ。封筒に書いてあったでしょう」
「あ……」
「不思議な現象でも、その期限は信じていいような気がします。根拠のほどは、吉川君に直接訊いてみなければ分かりませんが」
そういえばそうだ。
一週間だけ男になる――と、薬が入っていた封筒に明記されていた。
「だとしても、一週間も身動きが取れないのは困ります」
春花の苦情に、真崎は意外そうな顔をする。
「何も家に閉じこもっていることはない。楽しんだらいいですよ。なかなか体験できることではありませんからね」
「楽しむ?」
どういう意味だろう。
春花は眉根を寄せるが、彼は至極真面目な様子である。
「一週間ですよ、たったのね。その間、男という性を体験するのです。あなたにとって、忘れられない、貴重な7日間になるに違いありません。どうでしょう」
穏やかで丁寧な真崎の話し方には、理屈以前の説得力があった。
あまり深くものを考えない春花は、もしかしたらそうなのかな――と思い始めている。
「例えば、男にしか出来ないことってあるでしょう」
「はあ」
「そういうのにチャレンジしてごらんなさい。いずれ女性に戻るのですから。ねっ?」
「……」
そうか、一週間の期限付きか。
改めて口の中で呟く。
春花は、何だか急にラクになり、真崎の言葉に耳を傾ける余裕が出てきた。
「でも、何でしょうね、男にしか出来ないことって」
前向きになった春花に、真崎はにんまり笑って膝を詰めてくる。
「ともかく、まずは着替えてください。女物の服を着て街へ出るわけにいかないでしょう」
そう言って、先程の紙袋を指差した。
「えっ、もしかして……着替えを持って来てくれたんですか?」
「はい。私の手持ちから適当にかき集めてきました。サイズはLからXLです。少し大きめかもしれませんが、何とか間に合いそうですね」
春花は驚くとともに、真崎がなぜこんなにすぐやって来たのか分かった気がした。
こんな事態になるとは予測できなかったとはいえ、春花に謎のビタミン剤をすすめてしまった。そのことで、彼は彼なりに責任を感じているのだ。
「先生……」
真崎は大きく頷いた。
どっしりと構えるその姿には、年上らしい頼もしさが感じられる。この人が傍にいてくれたら、何とかなるような気がする。
春花は大きく息をつくと、膝を叩いて立ち上がった。
こうなったら、覚悟を決めるしかない。
(私は、男として一週間を過ごす)
「では、遠慮なくお借りします」
「どうぞ、どうぞ。あ、下着類は新品ですから安心してくださいね」
「なっ……」
一瞬狼狽するが、今の春花は男性体である。これは男同士としての親切なのだ。
「私と同じメーカーのトランクスです」
「あ、ありがとうございます……」
(うう、調子が狂う。まったく、おかしなことになっちゃったな……)
「さて、そろそろ帰ります。大学に行かねばなりません」
「あ……」
先生も忙しいのに、こうして飛んできてくれたのだ。この人が悪いわけじゃないのに。
春花は居住まいを正し、ぺこりと頭を下げた。
「すみません。お世話になりました!」
「どういたしまして」
立ち上がった真崎は春花より背が高い。
玄関に向かう後ろ姿を見上げながら、春花は認識を新たにする。
彼のことを変人だと思い、ドアの鍵をかけないでおいたことを心で詫びた。
真崎は駐車場のすみに停めてあるアウディに乗り込んだ。
窓を下げると、春花に笑いかける。
「夕方、またおじゃまします。今後のこともありますし、相談しましょう。日中も何かあったら遠慮なく連絡してください」
スマートフォンを掲げる彼に促され、春花は連絡先を交換した。
「よろしくお願いします。あの、いろいろとありがとうございました」
「いえいえ。では、グッドラックです」
彼は片手を上げると、意外なほどスマートな運転で県道のむこうに消えて行った。
「さてと……どうしようかな」
真崎を見送るためアパートの外に出て来た春花は、まだちんちくりんのパジャマを着ている。このなりを大家さんにでも見られたら面倒だと思いつき、慌てて部屋に戻った。
しかし姿見に映る自分を眺め、考え直す。
仮に見られても、男物の服を着て『僕は神田春花の弟です』と自己紹介すれば、通用しそうだ。顔がそっくりだし、普通に納得してもらえるだろう。
(それにしても、夕方まで何をして過ごそう。まさか女子大に行って講義を受けるわけにもいかないし)
女性の春花はいなくなり、その代わり男性の春花が存在している。
とりあえず、真崎が貸してくれた男物のシャツとスラックスに着替えた。しばしぼんやりしているとチャイムが鳴った。
このせせこましい鳴らし方は夕子である。
「すご~い、本物の男だ!」
夕子は部屋に上がると男性化した春花をしげしげと眺め、深いため息をついた。
「誰のせいだと思ってんのよ」
「吉川博士」
「夕子もでしょ!」
ここまできてとぼける夕子に、春花は呆れた。
「しかし、私より真崎先生が先に来てたなんて。さすが先生、行動力あるなあ」
「感心してる場合? あんたはね、先生に尻拭いさせてるんだよ」
「うーん。まあ、そうなるかなあ」
この呑気な態度は何なんだろう。
もしかしたら、真崎先生のほうが日頃夕子に迷惑をかけられているのでは……
春花はそんな気がしてきた。
「それにしても、やっぱり春花が私のリュックから封筒を抜き取ってたのね。研究室に戻ってから、落としたのかもしれないって真崎先生に言ったら、いやそれは神田春花さんだって言い当てて、急に会いに行くとか言い出してさ。びっくりするよね、先生自ら春花に興味津々で近付くなんて」
「夕子が常日頃、私のことを先生に吹き込んでたんでしょ」
「えへへ……だって春花ってば実験体としていい身体してるし、面白いもん」
「お、面白い?」
夕子の思考回路は理解不能だ。
もう問答するのも面倒になって、春花はベッドに仰向けに寝そべった。
寝そべりながら夕子を何気なく見やった。
今日は天気もよく気温が高いからか、夕子はブラ付きのタンクトップに膝丈のデニムスカートという軽装だ。
(ん……?)
彼女の姿をしばらく眺めるうち、春花の身体の真ん中辺りに違和感があった。
それに何だか動悸がして、下腹の奥から突き上げるような衝動を感じる。
春花は目を剥き、がばりと起き上がった。
全身から汗が噴き出している。
「わっ、どうしたの?」
春花の尋常ではない様子に、さすがの夕子も動揺している。
彼女がこちらに近付いて腕に触ろうとした時、この違和感と衝動が何なのか春花は気付いた。
「夕子、外に出て! 今すぐ部屋から出て行って!!」
突然叫んだ春花に、夕子は困惑している。
「ど、どこか痛いの? どうしたのさ、春花」
「あとで説明するから……とにかく、早く出てって!」
ベッドのすみに後退りする春花に夕子は頷き、転げるように部屋を飛び出した。
「はあ、はあ……落ち着け、私」
春花は荒れた息を整えつつとトイレに駆け込むと、そっと下半身を確認する。
男性の生理現象――
それを初めて体感した彼女は、呆然と立ち尽くすのみであった。
夕子を外に待たせたまま、春花は真崎に電話した。指先が小刻みに震えている。
『そうですか、大変ですねえ』
落ち着き払った返事に拍子抜けするが、興奮は収まらない。
春花はしかし、つとめて冷静に相談した。
彼しか相談できる相手がいないのだ。
『朝起きた時はどうでした』
「どうってことなかったです。普通でした」
『ふ~む。では、いまいま完全に男性化したのかもしれませんね。そうですか、それは大変ですねえ』
真崎は落ち着きすぎている。春花はもうぶち切れそうだ。
「そうですよ、大変なんです。どうすればいいんですか!!」
春花は真崎のレクチャーを受けた。
恥ずかしいとか、気まずいとか、そんなしおらしい感情は吹き飛んでいる。
ただただ、必死だった。
男性の……いやヒトの身体には、何とさまざまなプログラムがなされているのか。
真崎の言葉をメモしながら、気が遠くなる思いだった。
生理現象の処理を終えると、春花は身だしなみを整えてから玄関に向かった。
何が起きるかわからない恐怖感はあったが、部屋で悶々としているよりは外の方がましである。
「一週間の我慢だ。一週間、一週間……」
自分を励ますように、何度も繰り返した。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【R18】私の可愛いペット~イケメン女子が金髪ヤリチン男子をペットにするが彼の夜の行為の激しさに驚いた~
黒夜須(くろやす)
恋愛
基本は女性優位の襲い受けですが、中盤男性が暴走する場面があります。最終的には男性がペットとなります。
凪りおん学校から妙な視線を感じていた。学校帰りによったジムからでると以前関係を持った金髪男子の星史郎がぼこされている現場に遭遇。彼を助け家に招くと、好意を寄せている伝えられる。嬉しかったが彼が以前関係を持った女子に嫉妬をして拘束していたずらをするが、逆に激しく抱かれてしまう。
以下の続きですが、これだけでも読めます。
甘えたい~ヤリチン男がイケメン女子に好きにされる~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/916924299/710772620
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる