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三人のその後
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「私はといえば、正直ホッとしたんだ。奈々子が地獄から抜け出すのを、ずっと望んでたから。莉央もたぶん同じ気持ちだったと思う。綾華に加担した私らが、勝手な話だけど……傷ついた奈々子がこの先どうなるのか、責任も持てないくせに」
「夏樹……」
そして三人は中学を卒業し、系列高校へと内部進学した。
「私は特進コースに入ったから綾華と離れられたけど、莉央はまた同じクラスで、大変だったみたいで。まあ私も結局、家がらみの付き合いが続いて縁が切れなかったけどね。夏休みには旅行のお供をさせられたし、もちろん莉央もだよ」
一生、このままなんだろうか。綾華の思い通りにされて、振り回されるのか……
高校生になった夏樹と莉央は、限界を感じ始めたと言う。
また、その頃には莉央も、夏樹が綾華と不本意な関係であることを察していたそうだ。
「高校を出たあと、それからどうなるんだろう。莉央も私も、お互い口には出さなかったけど、同じ思いだった。冗談じゃない、もう無理……ってね」
卒業を前に、二人は同じ結論に辿り着いていた。
綾華と決別する、と。
それがどれだけ強い決意だったのかは、夏樹の輝く目を見れば分かった。
「私の場合、奈々子のおかげなんだよ」
「え?」
夏樹がちょっと照れたように打ち明けた。あの時の心境を。
「莉央を仲間外れにするのを奈々子は断っただろ? 綾華に逆らう子を見たのは初めてで心底びっくりしたけど、真剣な態度に胸を打たれた。今思えば、あの時に芽生えた気がする。綾華と決別するための勇気が、無意識のうちに」
「そ、そうなの?」
「うん」
あの日あの時、平穏な学校生活が崩壊した瞬間だった。人の頼みを断るのが怖くなった出来事である。
でも私は、間違っていなかったのだ。
後悔する必要なんてどこにもない。ぜんぶ自分の意思なんだから。
(そういうことだったんですね……)
ーー否定されても、突っぱねろ。理不尽な要求は拒否すればいい。自分を信じて、まずは何でもやってみることだ。俺のようにな!ーー
明るい笑顔が胸に浮かんだ。
「興奮して喋ってたら喉が渇いちゃった。もう一杯頼もうかな。奈々子は?」
「あ、うん。私も」
織人さんを思い出して、一瞬ぽーっとなってしまった。
二杯目の紅茶を飲み、頭をしゃんとさせてから話の続きを聞く。夏樹、そして莉央が、どうやって綾華と決別したのか。
「綾華だけでなく、両親とも縁を切るぐらいの気持ちだったね。とにかくもう、お嬢さんのお守りはこりごり。会社のために娘を犠牲にしないでくれって大げんかして、半ば脅すみたいに海外留学を決めたんだ」
「そうだったの……」
留学先はカナダで、その冬に出願。大学は9月からだったが、入学前に英語スクールに通うという名目で、卒業後すぐ向こうに渡った。一刻も早く綾華から逃れたかったのだ。
「綾華はもちろん、系列の大学に上がったよ。父親の庇護なしではワガママできないからね。日本を出る間際まで執拗に連絡が来たけど、全部無視して、スマホも変えて縁を切った。そこまでされたら、女王様もプライドがあるし、さすがに追いかけて来なかったな。ただ、親同士の交流があるから、こっちの様子は伝わってしまうし、就職先とかも。あと、SNSを監視されてたのが、今回のことではっきりした。プロフィールや記事を見て特定したんだろうけど……奈々子のお姉さんが言ったとおり、ホラーだよね」
気味悪さを感じてか、夏樹は寒そうに腕をさすった。
「でも、私はまだマシなほうで、莉央はもっと大変だった。卒業前に話してくれたんだけど……」
加納莉央。
忘れられない、中学時代の友達。花ちゃん以外にできた、初めての親友だった。
明るくて、素直で、お人好しで。家のために綾華の言いなりになったという彼女のその後は、どんな心情だったのか。
想像するだけで辛くなる。
だけど、彼女は綾華と決別したのだ。たぶん、ものすごい勇気だったと思う。
聞くのが怖いけれど、夏樹の話に耳を傾けた。
「夏樹……」
そして三人は中学を卒業し、系列高校へと内部進学した。
「私は特進コースに入ったから綾華と離れられたけど、莉央はまた同じクラスで、大変だったみたいで。まあ私も結局、家がらみの付き合いが続いて縁が切れなかったけどね。夏休みには旅行のお供をさせられたし、もちろん莉央もだよ」
一生、このままなんだろうか。綾華の思い通りにされて、振り回されるのか……
高校生になった夏樹と莉央は、限界を感じ始めたと言う。
また、その頃には莉央も、夏樹が綾華と不本意な関係であることを察していたそうだ。
「高校を出たあと、それからどうなるんだろう。莉央も私も、お互い口には出さなかったけど、同じ思いだった。冗談じゃない、もう無理……ってね」
卒業を前に、二人は同じ結論に辿り着いていた。
綾華と決別する、と。
それがどれだけ強い決意だったのかは、夏樹の輝く目を見れば分かった。
「私の場合、奈々子のおかげなんだよ」
「え?」
夏樹がちょっと照れたように打ち明けた。あの時の心境を。
「莉央を仲間外れにするのを奈々子は断っただろ? 綾華に逆らう子を見たのは初めてで心底びっくりしたけど、真剣な態度に胸を打たれた。今思えば、あの時に芽生えた気がする。綾華と決別するための勇気が、無意識のうちに」
「そ、そうなの?」
「うん」
あの日あの時、平穏な学校生活が崩壊した瞬間だった。人の頼みを断るのが怖くなった出来事である。
でも私は、間違っていなかったのだ。
後悔する必要なんてどこにもない。ぜんぶ自分の意思なんだから。
(そういうことだったんですね……)
ーー否定されても、突っぱねろ。理不尽な要求は拒否すればいい。自分を信じて、まずは何でもやってみることだ。俺のようにな!ーー
明るい笑顔が胸に浮かんだ。
「興奮して喋ってたら喉が渇いちゃった。もう一杯頼もうかな。奈々子は?」
「あ、うん。私も」
織人さんを思い出して、一瞬ぽーっとなってしまった。
二杯目の紅茶を飲み、頭をしゃんとさせてから話の続きを聞く。夏樹、そして莉央が、どうやって綾華と決別したのか。
「綾華だけでなく、両親とも縁を切るぐらいの気持ちだったね。とにかくもう、お嬢さんのお守りはこりごり。会社のために娘を犠牲にしないでくれって大げんかして、半ば脅すみたいに海外留学を決めたんだ」
「そうだったの……」
留学先はカナダで、その冬に出願。大学は9月からだったが、入学前に英語スクールに通うという名目で、卒業後すぐ向こうに渡った。一刻も早く綾華から逃れたかったのだ。
「綾華はもちろん、系列の大学に上がったよ。父親の庇護なしではワガママできないからね。日本を出る間際まで執拗に連絡が来たけど、全部無視して、スマホも変えて縁を切った。そこまでされたら、女王様もプライドがあるし、さすがに追いかけて来なかったな。ただ、親同士の交流があるから、こっちの様子は伝わってしまうし、就職先とかも。あと、SNSを監視されてたのが、今回のことではっきりした。プロフィールや記事を見て特定したんだろうけど……奈々子のお姉さんが言ったとおり、ホラーだよね」
気味悪さを感じてか、夏樹は寒そうに腕をさすった。
「でも、私はまだマシなほうで、莉央はもっと大変だった。卒業前に話してくれたんだけど……」
加納莉央。
忘れられない、中学時代の友達。花ちゃん以外にできた、初めての親友だった。
明るくて、素直で、お人好しで。家のために綾華の言いなりになったという彼女のその後は、どんな心情だったのか。
想像するだけで辛くなる。
だけど、彼女は綾華と決別したのだ。たぶん、ものすごい勇気だったと思う。
聞くのが怖いけれど、夏樹の話に耳を傾けた。
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