一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
102 / 120
三人のその後

しおりを挟む
とりあえずハッピー先生は後回しにして山小屋へ向かう。

すっかり忘れていたがあの眠り姫がようやく目を覚ましたらしい。

今どうしてることやら。少々気になる。


「いらっしゃい。あれ珍しいお客さんだ。何の用? 」

いつも料理でお世話になってる管理人の女性。

それだけでなく人手が足りないと駆り出されるのでほぼ毎日顔を合わせている。

決して自分から積極的に関わろうとせずサポート役に徹している。

だからなのか名前を知らない。

勝手に管理人さんだとか。山小屋のおばさんと呼んでいる。

本名を知らないから適当に。だからこういう場面では困る。

まあここは素直に奥さんでいいか。


「お邪魔します。ちょっと用事が。二階に上がらせてもらいますね奥さん」

「奥さんって言わないの。二人は夫婦じゃないんだから」

照れながら訂正する。

もちろん知ってるんだけどな……

「二階って? ああそうか。君も見たか。ぜひ見舞ってやってくれ」

謎の少女の存在を隠す訳でもなく会わせない訳でもない。

お見舞いの許しを得る。

「はい、ではお言葉に甘えまして」

「お客さんが一人先に来てる。それと私はちょっと出かけるから留守を頼むよ」

そう言うと女は走って行ってしまった。

これはチャンス? それとも俺は嵌められた?

俺を試すつもりかもしれない。

留守を頼むか…… シードクターもお出かけか。

相談したいことがあったのに。次の機会だな。


二階に上がろうとしたその時声が……

気付かれないように足音を立てずに上へ。

「お名前は? 」

「あーちゃん」

「もう一度。お名前は? 」

「アリー」

「年齢は? 」

「十六歳」

「もう一度」

「十六歳と数ヶ月」

「家族は? 」

「いないよ」

「家族は? 」

「家族なんかじゃない。あいつらは家族なんかじゃない」

さっきまで天使のような少女が声を荒げる。

やはり彼女にも何かしらの過去があるのだろう。

ここに来た者は皆そうだ。トラウマ級の思い出。

何かしら重いのを抱えてる。俺も含めて……


「ここに来た目的は? 」

「連れて来られた」

「目的は? 」

「マウントシーで暮らすこと」

「はいもういいよ。頑張ったね」

聞き取りを終える。

「ねえ一緒に遊ぼう? 」

「ダメダメ! 今日は忙しいの」

甘えん坊のあーちゃんとつれないエレン。

甘える妹とそれを咎める姉。

まるで本当の姉妹のよう。


「彼女の容態はどうだ? 」

ノックもせず入るのは俺の主義じゃないがドアが開いていたら仕方がない。

尋問が終わるまで大人しくしていたのだから文句ないだろ?

「ちょとあなた…… 」

俺の顔を見て怯えている。何かあるのか?

「君の名は確か深海さんだっけ? 俺は大河だ」

知ってるだろうがあーちゃんにも自己紹介しなくてはな。

「知ってますよ。ですが勝手に入るあまりの非礼。この子だって怯えてるじゃない」

よく見ると確かに震えている。これはまずかったかな。

「俺も用があってな。お見舞いに来た」

「彼女が嫌がってます。それ以上近づきにならないで」

あーちゃんの前に立つ。弱いものを守ろうと必死だ。


「君はあーちゃんて言うのか? 」

「聞き耳を立ててたんですね? まったく困った人」

受け入れる気配が無い。

「あーちゃん俺だ。初めてじゃないはずだ」

そう俺もこの子も一緒にベットに寝かされていた。

そう言う意味では深い関係にあると言っても過言ではない。

彼女も俺をうっすら覚えてるかもしれない。

あの時は眠り姫に興味を示さなかった。

なぜなら俺には彼女たちがいたから。

マウントシー攻略が俺の使命。

間違ってもこんな小さな女の子をターゲットにしない。

見た目は十歳前後だが二人の会話から十六歳だと分かりビックリしている。

幼過ぎる見た目。かわいい女の子は嫌いじゃない。

いや俺は変態じゃない。


「あーちゃん。俺だ忘れたか? 」

手を差し出し歩き出す。

「近づかないでと言ったでしょう」

えらい剣幕で顔を紅潮させる。

「ハイハイ。分かったよ。それで彼女の容態はどうなんだ? 」

なおも近づこうとすると無理矢理止められる。

「なぜあなたにお答えしなければならないんですか? 」

確かによく考えればそうだ。まさしく正論。

俺もそれが聞きたいくらいだ。

「ここの管理人にはお世話になってる。ここに来れたのは彼らに認められた証拠さ」

「分かりました」

結局折れるエレン。

警戒するエレンを無視してあーちゃんを見舞うことに。



                 続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

君の秘密

朝陽七彩
恋愛
「フン‼」 「うるせぇ‼」 「黙れ‼」 そんなことを言って周りから恐れられている、君。 ……でも。 私は知ってしまった、君の秘密を。 **⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆* 佐伯 杏樹(さえき あんじゅ) 市野瀬大翔(いちのせ ひろと) **⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆*

甘い支配の始まり~愛に従え 愛に身を委ねろ~【完結】

まぁ
恋愛
【失恋は甘い支配の始まり】 花園紫乃 Hanazono Shino 24歳 町田瑠璃子 Machida Ruriko 24歳 水戸征二 Mito Seiji 28歳 長谷川壱 Hasegawa Ichi 31歳 大垣誠 Ogaki Makoto 31歳 ※作品中の個人、団体、街…全て架空のフィクションです

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫のつとめ

藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。 29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。 「あなた、私と結婚しなさい!」 しかし彼の返事は…… 口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。 ※エブリスタさまにも投稿

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...