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招かれざる客
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「お母さんが言ってたでしょ? お父さんはああ見えて、奈々子の幸せを誰より願ってるって」
「で、でも、ピンとこないと言うか……中学の頃なんてすごく厳しかったよ?」
落ちこぼれた私に追い打ちをかけるような厳しさだった。
「あー、それは……たぶん、私と同じかな」
「?」
どういう意味だろうと目で問うと、姉が苦笑まじりに答えた。
「あの人、奈々子に期待してたのよ。確かに私のほうが優秀だけど、父親に似て短気だし、他人の扱いが雑だからね。その点あんたは子どもの頃から優しくて、周りの人を大事にする。気弱なくせに、いざという時は意思を通す強さもあった。厳しく教育すれば、優れた経営者に化けるかもしれない。そう思って、会社を継がせるつもりだったんじゃない?」
「ええっ?」
そんなの初耳である。
これっぽっちも聞いたことがない。
「期待が強い分、失望も大きかったわけよ。お父さんと私は似たもの同士だからよく分かるんだけど、厳しさは自分自身への苛立ちでもあったのよ、きっと。愛情がないってわけではなく」
うまく理解できない。
私には、冷たいとしか思えない態度だった。
「厄介な性格でしょ。お母さんが言うには、昔はそんな風じゃなかったけど、若い頃に仕事で騙されたり裏切られることが多くて、割り切った考え方が身についちゃったんだとか。だけど本質的には、情が深くて単純な人なんだってさ」
「はあ……」
「奈々子には迷惑な話よね。お父さんと私はこんなだし、お母さんも、あれでも精一杯のフォローだったと思う。お父さんと私があんたを責めようとするたび、さりげなく止めてたからね」
「知らなかった。ぜんぜん」
今日はもう、初めて聞く話ばかりでわけがわからない。私の家族って、一体……
「でも、お姉ちゃん。どうして今、それを?」
「ん? ああ……」
姉は少し考える風にして、
「織人さんだね。彼が奈々子を引き取ってくれて、肩の力が抜けたっていうか」
私はぽかんとした。
引き取って……というのは、一人前の大人に対する表現ではない。
「だって彼、スケールが桁違いだもん。色々びっくりさせられても、なんだかんだ頼りがいのある旦那様でしょうが」
「う……」
否定できない。
確かに織人さんは常識のスケールでははかりきれない男性である。
だからこそ、私の家族が影響されたのだろうが。
「さっきの話もそうよ。西野綾華と遭遇した時、織人さんがいたからあんたは耐えられた。そうでしょ?」
姉の言葉は、胸にしっくりきた。
パニックになった私は、彼に抱きしめられて、たとえようもなく安堵したのだ。
「ほんと、クソ女にはムカつくけど……考えてみれば、私の出る幕じゃないね。奈々子がそいつらと関わらないと決めてるなら、それでよし。それに、何があろうと今のあんたには織人さんがついてるもの。キングが用心棒なんて、最強でしょ?」
姉が袖をまくり、筋肉を見せつけるポーズをした。
「お姉ちゃんたら」
私たちは笑い合う。
何年ぶりかのあたたかな気持ち。幸せな気持ちをくれたのは、織人さんだったのだ。
(織人さんと、キングも……?)
ふと手元を見て、いつしかメモが滑り落ちていたことに気づく。
捨ててしまおう。彼女たちとはもう、関係ない。囚われない。これからは……
床に落ちたそれを拾い、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放る。
インターホンが鳴ったのは、その瞬間だった。
「で、でも、ピンとこないと言うか……中学の頃なんてすごく厳しかったよ?」
落ちこぼれた私に追い打ちをかけるような厳しさだった。
「あー、それは……たぶん、私と同じかな」
「?」
どういう意味だろうと目で問うと、姉が苦笑まじりに答えた。
「あの人、奈々子に期待してたのよ。確かに私のほうが優秀だけど、父親に似て短気だし、他人の扱いが雑だからね。その点あんたは子どもの頃から優しくて、周りの人を大事にする。気弱なくせに、いざという時は意思を通す強さもあった。厳しく教育すれば、優れた経営者に化けるかもしれない。そう思って、会社を継がせるつもりだったんじゃない?」
「ええっ?」
そんなの初耳である。
これっぽっちも聞いたことがない。
「期待が強い分、失望も大きかったわけよ。お父さんと私は似たもの同士だからよく分かるんだけど、厳しさは自分自身への苛立ちでもあったのよ、きっと。愛情がないってわけではなく」
うまく理解できない。
私には、冷たいとしか思えない態度だった。
「厄介な性格でしょ。お母さんが言うには、昔はそんな風じゃなかったけど、若い頃に仕事で騙されたり裏切られることが多くて、割り切った考え方が身についちゃったんだとか。だけど本質的には、情が深くて単純な人なんだってさ」
「はあ……」
「奈々子には迷惑な話よね。お父さんと私はこんなだし、お母さんも、あれでも精一杯のフォローだったと思う。お父さんと私があんたを責めようとするたび、さりげなく止めてたからね」
「知らなかった。ぜんぜん」
今日はもう、初めて聞く話ばかりでわけがわからない。私の家族って、一体……
「でも、お姉ちゃん。どうして今、それを?」
「ん? ああ……」
姉は少し考える風にして、
「織人さんだね。彼が奈々子を引き取ってくれて、肩の力が抜けたっていうか」
私はぽかんとした。
引き取って……というのは、一人前の大人に対する表現ではない。
「だって彼、スケールが桁違いだもん。色々びっくりさせられても、なんだかんだ頼りがいのある旦那様でしょうが」
「う……」
否定できない。
確かに織人さんは常識のスケールでははかりきれない男性である。
だからこそ、私の家族が影響されたのだろうが。
「さっきの話もそうよ。西野綾華と遭遇した時、織人さんがいたからあんたは耐えられた。そうでしょ?」
姉の言葉は、胸にしっくりきた。
パニックになった私は、彼に抱きしめられて、たとえようもなく安堵したのだ。
「ほんと、クソ女にはムカつくけど……考えてみれば、私の出る幕じゃないね。奈々子がそいつらと関わらないと決めてるなら、それでよし。それに、何があろうと今のあんたには織人さんがついてるもの。キングが用心棒なんて、最強でしょ?」
姉が袖をまくり、筋肉を見せつけるポーズをした。
「お姉ちゃんたら」
私たちは笑い合う。
何年ぶりかのあたたかな気持ち。幸せな気持ちをくれたのは、織人さんだったのだ。
(織人さんと、キングも……?)
ふと手元を見て、いつしかメモが滑り落ちていたことに気づく。
捨ててしまおう。彼女たちとはもう、関係ない。囚われない。これからは……
床に落ちたそれを拾い、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放る。
インターホンが鳴ったのは、その瞬間だった。
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