一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
68 / 110
14歳の頃

しおりを挟む
 公立小学校を卒業後、私は私立中学に進学した。中高一貫の大学付属校である。
 
 幼なじみの花ちゃんなど、同じ小学校の友達が何人かいたが、数えるほど。
 親の見栄のために選ばされた進路だった。
 知り合いがほとんどおらず、しかも『お金持ち学校』と呼ばれるほど、裕福な家庭の子女が通う学校である。

 姉も同じ進路だったが、彼女はむしろアウェーな環境にファイトを燃やすタイプで、勉強もスポーツも好成績を納め、交友関係も活発だった。
 
 だけど私は違う。
 最初から、居心地の悪さを感じていた。


 一年生のうちはまだ良かった。同じクラスに花ちゃんがいたから。

 花ちゃんは文武両道な上にコミュ力が高く、すぐにリーダー的存在になった。クラスだけでなく剣道部にも友達がたくさんいて、羨ましいほど学校に馴染んでいる。

 新しい環境に順応できずにいた私は、かなり助けてもらった。花ちゃんのおかげで最初の一年をスムーズに送れたと言って良い。

 だが二年生になると、状況が一変する。

 花ちゃんはスポーツ進学コースなのでクラスが分かれ、別棟の教室に行ってしまった。彼女繋がりで出来た数少ない友人も同様である。

 私は再び、新しい環境に一人で通うこととなった。



 二年生の春。始業式の日。

 私はうつむきかげんで、普通科クラスの校舎へと歩いた。
 教室に入ると、既にあちこちでグループが出来上がっていて、絶望的な気分になる。しかもなんだか、華やかな人が多い。
 女子が7割を占めているため、そう感じたのかもしれないけれど。

 私の席は窓際の最後列にあった。席順シールが貼られた机に座り、賑やかな教室をあらためて眺める。
 やはり、ほとんど知らない顔。しかもお洒落で活発そうな人ばかりだ。

(私、やっていけるのかな)

「あのう、あなたも知り合いゼロだったりする?」
「えっ?」

 隣の席から、声を掛けられた。
 小柄で、メガネの奥の丸っこい目が印象的な女の子。
 突然のことに私は動揺するが、嬉しくもあった。彼女が、とても親しみの持てる空気を纏っていたから。

「う、うん。ゼロではないけど、ほとんど知らない人ばかりで、圧倒されてた」
「同じ同じ! 知り合いがいても、ほとんど喋ったことのない男子とかでさー、ゼロとおんなじ。この先どうすんのって感じ」

 おどけた口調に、思わず笑みがこぼれる。彼女も笑顔になり、椅子ごと近づいてきた。

「はじめまして。私、加納莉央といいます。末長く、よろしくお願いします!」

 それが、莉央との出会いだった。

 そして、その5分後。
 予鈴とともに二人の女子が教室に入ってきて、私たちの前列に座った。
 莉央の前には、ショートカットの似合うボーイッシュ系女子。そして私の前に座るのは、ハッとするほど可愛い、アイドルみたいな女の子だ。

「わぁっ……めちゃくちゃ可愛いよね!」

 莉央が耳打ちするのに、うんうんとうなずく。
 長く艶やかな髪をサイドで結び、襟から覗くうなじの白さは、まるで雪のよう。
 それにスタイルも、同じ人間とは思えない完璧な比率だった。グレイの野暮ったい制服を、これほど美しく着こなせるなんて!

 クラスじゅうの、特に男子の注目がすごい。彼女はそれほどまでに魅惑的で、目立っていた。

「また注目されてる。今回も人気者になりそうだね、お嬢様」
「やめてよ」

 ボーイッシュな彼女とは友達のようだ。楽しげにおしゃべりしていたが、教師が来たので中断する。私も前を向き、莉央も慌てて椅子を戻した。


 オリエンテーションの前に行われた自己紹介で、彼女の名前が西野綾華であることを知った。そして、父親がニシノ製薬の社長だという情報は、教室のあちこちから聞こえる噂話から得られた。
 ニシノ製薬といえば、製薬会社の中でも上位の老舗企業である。

(すごい。本物のお嬢様だ……)

 正真正銘の社長令嬢を前に、私は緊張した。本物を見たと思った。

 だから、予想もしなかったのだ。
 その日のうちに、彼女と友達になるなんて。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...