一億円の花嫁

藤谷 郁

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14歳の頃

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 公立小学校を卒業後、私は私立中学に進学した。中高一貫の大学付属校である。
 
 幼なじみの花ちゃんなど、同じ小学校の友達が何人かいたが、数えるほど。
 親の見栄のために選ばされた進路だった。
 知り合いがほとんどおらず、しかも『お金持ち学校』と呼ばれるほど、裕福な家庭の子女が通う学校である。

 姉も同じ進路だったが、彼女はむしろアウェーな環境にファイトを燃やすタイプで、勉強もスポーツも好成績を納め、交友関係も活発だった。
 
 だけど私は違う。
 最初から、居心地の悪さを感じていた。


 一年生のうちはまだ良かった。同じクラスに花ちゃんがいたから。

 花ちゃんは文武両道な上にコミュ力が高く、すぐにリーダー的存在になった。クラスだけでなく剣道部にも友達がたくさんいて、羨ましいほど学校に馴染んでいる。

 新しい環境に順応できずにいた私は、かなり助けてもらった。花ちゃんのおかげで最初の一年をスムーズに送れたと言って良い。

 だが二年生になると、状況が一変する。

 花ちゃんはスポーツ進学コースなのでクラスが分かれ、別棟の教室に行ってしまった。彼女繋がりで出来た数少ない友人も同様である。

 私は再び、新しい環境に一人で通うこととなった。



 二年生の春。始業式の日。

 私はうつむきかげんで、普通科クラスの校舎へと歩いた。
 教室に入ると、既にあちこちでグループが出来上がっていて、絶望的な気分になる。しかもなんだか、華やかな人が多い。
 女子が7割を占めているため、そう感じたのかもしれないけれど。

 私の席は窓際の最後列にあった。席順シールが貼られた机に座り、賑やかな教室をあらためて眺める。
 やはり、ほとんど知らない顔。しかもお洒落で活発そうな人ばかりだ。

(私、やっていけるのかな)

「あのう、あなたも知り合いゼロだったりする?」
「えっ?」

 隣の席から、声を掛けられた。
 小柄で、メガネの奥の丸っこい目が印象的な女の子。
 突然のことに私は動揺するが、嬉しくもあった。彼女が、とても親しみの持てる空気を纏っていたから。

「う、うん。ゼロではないけど、ほとんど知らない人ばかりで、圧倒されてた」
「同じ同じ! 知り合いがいても、ほとんど喋ったことのない男子とかでさー、ゼロとおんなじ。この先どうすんのって感じ」

 おどけた口調に、思わず笑みがこぼれる。彼女も笑顔になり、椅子ごと近づいてきた。

「はじめまして。私、加納莉央といいます。末長く、よろしくお願いします!」

 それが、莉央との出会いだった。

 そして、その5分後。
 予鈴とともに二人の女子が教室に入ってきて、私たちの前列に座った。
 莉央の前には、ショートカットの似合うボーイッシュ系女子。そして私の前に座るのは、ハッとするほど可愛い、アイドルみたいな女の子だ。

「わぁっ……めちゃくちゃ可愛いよね!」

 莉央が耳打ちするのに、うんうんとうなずく。
 長く艶やかな髪をサイドで結び、襟から覗くうなじの白さは、まるで雪のよう。
 それにスタイルも、同じ人間とは思えない完璧な比率だった。グレイの野暮ったい制服を、これほど美しく着こなせるなんて!

 クラスじゅうの、特に男子の注目がすごい。彼女はそれほどまでに魅惑的で、目立っていた。

「また注目されてる。今回も人気者になりそうだね、お嬢様」
「やめてよ」

 ボーイッシュな彼女とは友達のようだ。楽しげにおしゃべりしていたが、教師が来たので中断する。私も前を向き、莉央も慌てて椅子を戻した。


 オリエンテーションの前に行われた自己紹介で、彼女の名前が西野綾華であることを知った。そして、父親がニシノ製薬の社長だという情報は、教室のあちこちから聞こえる噂話から得られた。
 ニシノ製薬といえば、製薬会社の中でも上位の老舗企業である。

(すごい。本物のお嬢様だ……)

 正真正銘の社長令嬢を前に、私は緊張した。本物を見たと思った。

 だから、予想もしなかったのだ。
 その日のうちに、彼女と友達になるなんて。

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