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アクションスター
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しおりを挟む「ああ、はい。そのことですが……」
関根さんが少し言いにくそうにして、わけを教えた。
「あの場所は、『立入禁止区域』でした。雪のせいで、看板が見辛かったのだと思います」
「……えっ?」
そういえば、私は顔を伏せて走っていた。雪がすごく降っていたから、周りがよく見えない状態で。
つまり、ホテルに戻る道を逸れていたということ?
立ち入り禁止区域の看板を見落として。
「す、すみません! 私……全然気づかなかったです。なのに……」
こんなところで全裸でいるなんてと、由比さんを責めてしまった。だから彼は、こんなところ? と、変な反応をしたのだ。
己のドジが招いた災難だっだと知り、今さら恥ずかしさで赤面する。
「いえ、違います。すべてこちらのミスであり、大月様のせいではありません。看板をもっと大きく掲げるか、ロープを張っておくべきだったと反省しております」
うろたえる私を、関根さんが擁護する。余計に恥じ入るが、もう、どうしようもなかった。
「とにかくも、我々はごまかすつもりでした。猿の男は変質者ということにして、話を収めようと……ところが、織人様が大月様を気に入って、どうしても食事に誘うのだと駄々をこねるもので、あのような展開になったわけです」
「……そうだったんですね」
関根さんも総支配人も大変だったのだ。私は何も知らず、由比さんと食事を共にし、ドキドキしていた。
「で、でも、なぜでしょうか。私を、気に入るなんて……あんな出会い方をしたのに」
状況は理解できた。だけど、その辺りについては、謎が残る。
「そもそも由比さんほどの人が、どうして私を? こんな風に、お見合いの段取りまでして」
「大月様。その答えは、織人様しか分かりません。あなたを選んだ理由を、彼は誰にも話さないのです。ただ、なんというか、女性に対してあれほどの執着を見せるのは初めてのことだと、大野も驚いていました」
「大野さん……あ、総支配人の」
由比さんをお坊ちゃまと呼んでいた、『まゆき』の総支配人である。
「大野三四郎は、由比家に代々つかえる大野家の家長です。現在は総支配人としてホテル業についておりますが、以前は由比家に住み込み、織人様のお守りと、世話役を務めていました。なので大野は、織人様の性格からなにから、よくご存じなのです。もちろん、女性関係も」
ドキッとした。
つまり、由比さんをよく知る人が、私に対する彼の『執着』を証言している、ということ。
「大月様への気持ちが本気であるのは、間違いございません」
「……」
返事のしようがない。
いろんな意味で、動悸が激しくなる。
「と、とにかく、動画を見てみますね」
冷静にならなければ。
だって由比さんは、私が考えていたような、王子様ではないのだから。現実を直視する必要がある。
「そうですね。最新の動画だけでも、ご覧になってください。本人と話をされる前に」
レストランで由比さんが待っている。
時計を気にする関根さんの前で、私は動画に集中した。
「……」
「大月様、いかがでしたか?」
スマートフォンから顔を上げた私に、関根さんが遠慮がちに訊ねる。10分弱の長さなので、すぐに見終わることができた。
だけど、その短い時間で、私は由比さん……『キング』という配信者を判断するに至った。
まさに、百聞は一見に如かず。
「あの、正直に言っても、いいでしょうか」
「も、もちろんです。どうぞ、ご遠慮なくお聞かせください!」
「私の、彼に対する感想は……」
前のめりになる彼女に、私は曖昧な笑みを浮かべた。少し、こわばっているかもしれない。
「すみません……絶対に、関わりたくないタイプです」
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