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再会
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この状況は、一体……
わけが分からず震えるばかりの私を、由比さんが立ち上がらせ、じっと見つめた。
忘れようとしても忘れられない、憧れの王子様。間違いなく、この人は三保コンフォートのCEOである由比織人さんだ。
だけど、だけど……
「悪かった。スーツ姿なら大丈夫と思ったんだけど、甘かったな。って言うより、インパクトが強すぎたか」
床に転がるマスクを、由比さんが見やった。
「ど、どうしてあなたが、このマスクを……」
まさか、私を驚かせるためのドッキリ?
いや、そんなたちの悪い冗談を、彼が仕掛けるとは思えない。
それに、さっき感じた妖気は、確かに『鵺』のものだった。そういえば、体格の良いところも似ている。身長の高さも、同じくらい。
だとしたら、可能性は一つだけ。
「わ、私が湖で会った変質……猿のマスクを被った人は、由比さんだったのですか?」
状況を理解するため、勇気を出して確認した。信じられないし、信じたくないけれど、そう解釈するほかなくて。
「ああ、そうだよ」
はっきりと答えた。
さらなる衝撃に襲われ、めまいがしそうになる。まさかそんな、大好きな由比さんが、憧れの王子様が、あの変質者だったなんて!
「な、なぜ、どうして? だって、あなたはそんなこと、まったく言わなかった。最初から最後まで、全然……」
「それは、君が誤解してるみたいだから言わないほうがいいかなと思って。それに、隠さなきゃならない理由もあるし」
「わけが、わかりません」
感情がごちゃごちゃになり、涙声になる。由比さんを前にして、嬉しいのか、怖いのか、切ないのか……とにかく、衝撃を受けたのは確かだった。
こんなの、予測不可能な事態だ。
「奈々子、聞いてくれ」
由比さんが真顔になり、私を支える手に力をこめた。頼もしいけれど、怖くもある男性の力。
私は衝撃に耐えながら、彼を見返す。
「湖でのこと……素っ裸だったのは、ショックだったと思う。だが、あんな格好でも俺はもちろん正気だったし、君を怖がらせたことを、後で猛省したよ。正体を隠してデートしたのは、俺の事情もあるが……一番は、奈々子の夢を叶えたかったからだ」
「私の、夢……」
由比さんは真剣そのもの。澄んだ瞳には、嘘も誤魔化しも見当たらない。
私は混乱しながらも、彼が真面目であるのを感じた。
「織人様!」
突然、甲高い声が割り込んだ。
見ると、エレベーターホール脇の階段から、誰かが飛び出してくる。
「あっ!」
思わず目をみはった。
黒のパンツスーツを着た、若い女性。制服姿とは印象が違うが、キリッとした姿勢に見覚えがある。
「せ、関根さん!?」
まゆきの接客係、関根さんだ。ホテルの滞在時に、とてもお世話になった。
彼女はこちらに近づくと、由比さんではなく、私に深々と頭を下げた。
「大月様。お久しぶりでございます。このたびは、大変ご迷惑をおかけして、申し訳ございません。重ね重ねのご無礼を、お許しください!」
「えっ、あ、あの……?」
突然現れたことにも、謝罪されたことにも驚き、たじろいでしまう。
どうしてここに、関根さんが?
「関根さん、お疲れ。わざわざ迎えに来たのか」
横から声をかけた由比さんを、関根さんがキッと睨みつけた。
「ラウンジから、CEOが大月様を驚かせたと、報告がありました。あまりにも遅いので、心配になったのです」
「大げさだよ。見てのとおり、奈々子は落ち着いてるし、ちゃーんと話を聞いてくれてる。まったく、関根さんは心配性だなあ」
「なっ……!」
関根さんがすごい形相になる。よく分からないが、かなり怒っているようだ。
「誰かに見られたら、どうするつもりです。貸し切りとはいえ、ホテルのスタッフは出入りするんですよ? 油断しないでください!」
床に転がるマスクを関根さんが拾い、由比さんに押し付けた。
「はいはい、承知してますよ。うるさいやつめ」
「何ですって?」
「別に。独り言だ」
二人のやり取りを見て、私は戸惑いを覚える。何だか、まゆきでの彼らとは、関係性が違っているような……
「じゃあ奈々子、行こうか」
カリカリする関根さんをよそに、由比さんがにっこりと微笑み、エレベーターのボタンを押す。
「えっ? い、行くって、どこにですか?」
戸惑うばかりの私に、彼は明るく答えた。
「もちろん、食事の席だよ。今日は、俺と奈々子の、お見合いなんだから」
わけが分からず震えるばかりの私を、由比さんが立ち上がらせ、じっと見つめた。
忘れようとしても忘れられない、憧れの王子様。間違いなく、この人は三保コンフォートのCEOである由比織人さんだ。
だけど、だけど……
「悪かった。スーツ姿なら大丈夫と思ったんだけど、甘かったな。って言うより、インパクトが強すぎたか」
床に転がるマスクを、由比さんが見やった。
「ど、どうしてあなたが、このマスクを……」
まさか、私を驚かせるためのドッキリ?
いや、そんなたちの悪い冗談を、彼が仕掛けるとは思えない。
それに、さっき感じた妖気は、確かに『鵺』のものだった。そういえば、体格の良いところも似ている。身長の高さも、同じくらい。
だとしたら、可能性は一つだけ。
「わ、私が湖で会った変質……猿のマスクを被った人は、由比さんだったのですか?」
状況を理解するため、勇気を出して確認した。信じられないし、信じたくないけれど、そう解釈するほかなくて。
「ああ、そうだよ」
はっきりと答えた。
さらなる衝撃に襲われ、めまいがしそうになる。まさかそんな、大好きな由比さんが、憧れの王子様が、あの変質者だったなんて!
「な、なぜ、どうして? だって、あなたはそんなこと、まったく言わなかった。最初から最後まで、全然……」
「それは、君が誤解してるみたいだから言わないほうがいいかなと思って。それに、隠さなきゃならない理由もあるし」
「わけが、わかりません」
感情がごちゃごちゃになり、涙声になる。由比さんを前にして、嬉しいのか、怖いのか、切ないのか……とにかく、衝撃を受けたのは確かだった。
こんなの、予測不可能な事態だ。
「奈々子、聞いてくれ」
由比さんが真顔になり、私を支える手に力をこめた。頼もしいけれど、怖くもある男性の力。
私は衝撃に耐えながら、彼を見返す。
「湖でのこと……素っ裸だったのは、ショックだったと思う。だが、あんな格好でも俺はもちろん正気だったし、君を怖がらせたことを、後で猛省したよ。正体を隠してデートしたのは、俺の事情もあるが……一番は、奈々子の夢を叶えたかったからだ」
「私の、夢……」
由比さんは真剣そのもの。澄んだ瞳には、嘘も誤魔化しも見当たらない。
私は混乱しながらも、彼が真面目であるのを感じた。
「織人様!」
突然、甲高い声が割り込んだ。
見ると、エレベーターホール脇の階段から、誰かが飛び出してくる。
「あっ!」
思わず目をみはった。
黒のパンツスーツを着た、若い女性。制服姿とは印象が違うが、キリッとした姿勢に見覚えがある。
「せ、関根さん!?」
まゆきの接客係、関根さんだ。ホテルの滞在時に、とてもお世話になった。
彼女はこちらに近づくと、由比さんではなく、私に深々と頭を下げた。
「大月様。お久しぶりでございます。このたびは、大変ご迷惑をおかけして、申し訳ございません。重ね重ねのご無礼を、お許しください!」
「えっ、あ、あの……?」
突然現れたことにも、謝罪されたことにも驚き、たじろいでしまう。
どうしてここに、関根さんが?
「関根さん、お疲れ。わざわざ迎えに来たのか」
横から声をかけた由比さんを、関根さんがキッと睨みつけた。
「ラウンジから、CEOが大月様を驚かせたと、報告がありました。あまりにも遅いので、心配になったのです」
「大げさだよ。見てのとおり、奈々子は落ち着いてるし、ちゃーんと話を聞いてくれてる。まったく、関根さんは心配性だなあ」
「なっ……!」
関根さんがすごい形相になる。よく分からないが、かなり怒っているようだ。
「誰かに見られたら、どうするつもりです。貸し切りとはいえ、ホテルのスタッフは出入りするんですよ? 油断しないでください!」
床に転がるマスクを関根さんが拾い、由比さんに押し付けた。
「はいはい、承知してますよ。うるさいやつめ」
「何ですって?」
「別に。独り言だ」
二人のやり取りを見て、私は戸惑いを覚える。何だか、まゆきでの彼らとは、関係性が違っているような……
「じゃあ奈々子、行こうか」
カリカリする関根さんをよそに、由比さんがにっこりと微笑み、エレベーターのボタンを押す。
「えっ? い、行くって、どこにですか?」
戸惑うばかりの私に、彼は明るく答えた。
「もちろん、食事の席だよ。今日は、俺と奈々子の、お見合いなんだから」
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