38 / 120
ロマンス小説!?
2
しおりを挟む
由比さんは、三保コンフォート創業家一族の御曹司。彼と繋がりができるとしたら、不動産業を営む父にとって、大いなる幸運である。坂崎社長との縁談とは比べ物にならないほどの、良い話だ。
電車を降りて自宅へと歩きながら、私はまだ考えている。考えれば考えるほど、そうであるような気がして、仕方なかった。
だけどやっぱり、都合の良い妄想にも思える。
ロマンス小説みたいなストーリーが、平凡な自分の人生に展開されるなんて、本当に信じてるの?
「お父さんに確かめてみようか……でも、万が一、違ってたら」
きっと、これまで以上の絶望感に苛まれる。舞い上がったぶんだけ、叩き落された時の衝撃は、大きいだろう。
というより、そもそも見合い相手については機密であり、絶対に教えてもらえない。
私は、頭が混乱してきた。
由比さんが再び目の前に現れる可能性など、これっぽちも、まったく、考えもしなかったのだ。父があんなに分かりやすいヒントをくれたというのに。
――長野だったかな。お前にしては遠出したじゃないか。まあ、一人旅っていうのが良かったのかな。
私と面識がある人。
旅先で出会った人。
父が『良い話』と、喜ぶような相手。
そうとも。由比さん以外、誰が当てはまる?
だけど、だけど、もしも違っていたら……
「ああ、どうにかなりそう」
今の状況を冷静に、客観的に、分析してくれる人の意見がほしい。
私はいつの間にか、回れ右をしていた。
「それで、わしのところに来たわけか」
花ちゃんは心底呆れた様子だった。
無理もない。私自身、身勝手だと思うから。
「この前は、本当にごめんなさい。花ちゃんは、私のためを思って言ってくれたのに」
「……あれからずっと、気になっていたのだ。わしも、少し言い過ぎたかもしれぬと。だからまあ、お互い様じゃ」
「花ちゃん……」
「わしも謝る。きついことを言って、すまなかった」
突然訪ねてきた私を、彼女はいつものように迎えてくれた。
暖かい部屋で、温かいお茶と大福をいただきながら、心からありがたく思う。幼い頃から何度も喧嘩して、何度も仲直りしてきた。気まずくなっても、大らかに受け入れてくれる彼女は、本当に本当に、かけがえのない友達だ。
「それで、花ちゃん。どう思う?」
「うむ」
新たな見合い話と、お相手の可能性について、花ちゃんに説明した。由比さんを『不埒な男』と決めてかかっていた花ちゃんだが、最後まで黙って聞いてくれた。
「父君のヒントがまことであれば、大いにありうる話じゃ」
「そ、そうだよね」
花ちゃんの答えを聞き、私の心は喜びでいっぱいになる。
「不埒な男と思いきや、意外な展開じゃ。本気で奈々子を気に入り、手筈を整えていたというわけか……しかし、相手が由比殿だとして、なぜ秘密にするのだ。遠回しなやり方をせず、奈々子に直接求婚すれば良いだろう」
求婚という言葉にドキッとする。見合いを申し込むのは、その意思があるからだ。
でも、もしも相手が由比さんで、その意思を持っているとすれば、花ちゃんの疑問はもっともなこと。
「彼一人の問題じゃないから、慎重に進めたいのかも……あっ、それに、秘密にするのは、お見合いの情報が漏れたら株価に影響するからだって、お父さんが言ってたけど」
「株価? 芸能人じゃあるまいし」
花ちゃんがタブレットを持ってきて、何やら操作した。
「ほう、この男か。なるほど、そなた好みの西洋面じゃ」
「えっ?」
テーブルを回って花ちゃんの隣に座り、タブレットを覗いた。なんとそこには、由比さんの写真が大きく載っている。
「えっ、どうして?」
「三保コンフォートの公式サイトだ。代表挨拶のページがあると思ってな。そなた、惚れた腫れたと騒ぎながら、サイトもチェックしておらんのか?」
「ぜ、全然思いつかなかったよ……ていうか、そんなに騒いでないし」
大げさな花ちゃんに言い返しながら、写真をまじまじと見つめた。
由比さんがスーツを着て、オフィスらしき部屋で微笑みを浮かべている。実物も素敵だけれど、画面越しの彼もすごくカッコいい。
あふれるような魅力に、うっとりしてしまう。
電車を降りて自宅へと歩きながら、私はまだ考えている。考えれば考えるほど、そうであるような気がして、仕方なかった。
だけどやっぱり、都合の良い妄想にも思える。
ロマンス小説みたいなストーリーが、平凡な自分の人生に展開されるなんて、本当に信じてるの?
「お父さんに確かめてみようか……でも、万が一、違ってたら」
きっと、これまで以上の絶望感に苛まれる。舞い上がったぶんだけ、叩き落された時の衝撃は、大きいだろう。
というより、そもそも見合い相手については機密であり、絶対に教えてもらえない。
私は、頭が混乱してきた。
由比さんが再び目の前に現れる可能性など、これっぽちも、まったく、考えもしなかったのだ。父があんなに分かりやすいヒントをくれたというのに。
――長野だったかな。お前にしては遠出したじゃないか。まあ、一人旅っていうのが良かったのかな。
私と面識がある人。
旅先で出会った人。
父が『良い話』と、喜ぶような相手。
そうとも。由比さん以外、誰が当てはまる?
だけど、だけど、もしも違っていたら……
「ああ、どうにかなりそう」
今の状況を冷静に、客観的に、分析してくれる人の意見がほしい。
私はいつの間にか、回れ右をしていた。
「それで、わしのところに来たわけか」
花ちゃんは心底呆れた様子だった。
無理もない。私自身、身勝手だと思うから。
「この前は、本当にごめんなさい。花ちゃんは、私のためを思って言ってくれたのに」
「……あれからずっと、気になっていたのだ。わしも、少し言い過ぎたかもしれぬと。だからまあ、お互い様じゃ」
「花ちゃん……」
「わしも謝る。きついことを言って、すまなかった」
突然訪ねてきた私を、彼女はいつものように迎えてくれた。
暖かい部屋で、温かいお茶と大福をいただきながら、心からありがたく思う。幼い頃から何度も喧嘩して、何度も仲直りしてきた。気まずくなっても、大らかに受け入れてくれる彼女は、本当に本当に、かけがえのない友達だ。
「それで、花ちゃん。どう思う?」
「うむ」
新たな見合い話と、お相手の可能性について、花ちゃんに説明した。由比さんを『不埒な男』と決めてかかっていた花ちゃんだが、最後まで黙って聞いてくれた。
「父君のヒントがまことであれば、大いにありうる話じゃ」
「そ、そうだよね」
花ちゃんの答えを聞き、私の心は喜びでいっぱいになる。
「不埒な男と思いきや、意外な展開じゃ。本気で奈々子を気に入り、手筈を整えていたというわけか……しかし、相手が由比殿だとして、なぜ秘密にするのだ。遠回しなやり方をせず、奈々子に直接求婚すれば良いだろう」
求婚という言葉にドキッとする。見合いを申し込むのは、その意思があるからだ。
でも、もしも相手が由比さんで、その意思を持っているとすれば、花ちゃんの疑問はもっともなこと。
「彼一人の問題じゃないから、慎重に進めたいのかも……あっ、それに、秘密にするのは、お見合いの情報が漏れたら株価に影響するからだって、お父さんが言ってたけど」
「株価? 芸能人じゃあるまいし」
花ちゃんがタブレットを持ってきて、何やら操作した。
「ほう、この男か。なるほど、そなた好みの西洋面じゃ」
「えっ?」
テーブルを回って花ちゃんの隣に座り、タブレットを覗いた。なんとそこには、由比さんの写真が大きく載っている。
「えっ、どうして?」
「三保コンフォートの公式サイトだ。代表挨拶のページがあると思ってな。そなた、惚れた腫れたと騒ぎながら、サイトもチェックしておらんのか?」
「ぜ、全然思いつかなかったよ……ていうか、そんなに騒いでないし」
大げさな花ちゃんに言い返しながら、写真をまじまじと見つめた。
由比さんがスーツを着て、オフィスらしき部屋で微笑みを浮かべている。実物も素敵だけれど、画面越しの彼もすごくカッコいい。
あふれるような魅力に、うっとりしてしまう。
4
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様


君の秘密
朝陽七彩
恋愛
「フン‼」
「うるせぇ‼」
「黙れ‼」
そんなことを言って周りから恐れられている、君。
……でも。
私は知ってしまった、君の秘密を。
**⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆*
佐伯 杏樹(さえき あんじゅ)
市野瀬大翔(いちのせ ひろと)
**⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆*

甘い支配の始まり~愛に従え 愛に身を委ねろ~【完結】
まぁ
恋愛
【失恋は甘い支配の始まり】
花園紫乃 Hanazono Shino 24歳
町田瑠璃子 Machida Ruriko 24歳
水戸征二 Mito Seiji 28歳
長谷川壱 Hasegawa Ichi 31歳
大垣誠 Ogaki Makoto 31歳
※作品中の個人、団体、街…全て架空のフィクションです

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる