27 / 120
旅の終わり
3
しおりを挟む
(そっか……由比さんは私を置いて、東京に行ってしまった。仕事ができたからと言って、あっさりと立ち去った)
認めたくなくて、思い出すのをためらっていたこと。
だけど、いくら現実逃避しようと、事実は変わってくれない。認めないわけにいかないのだ。
夢の終わりを。
「関根さん。少し、お話ししてもいいですか?」
「も、もちろんでございます」
私が椅子をすすめると、彼女は遠慮しながらも腰掛け、向き合ってくれた。
「昨日のことでございますね?」
「ええ。詳細は省きますが、お伝えしておきます。昨夜は私、ぼうっとして、何も話せなかったから。すみません」
「とんでもございません! どうぞ、お気になさらず」
恐縮する彼女に、私は報告した。
由比さんと観光地巡りをしたこと。とても親切にしてもらい、楽しかったこと。それから、最後にスキー場のゴンドラで山に上り、未公開の展望風呂を見せてもらったことまで。
もちろん、詳細は省いたけれど……良い思い出ができて感謝していると、伝えた。
「そうなんですね。大月様にご満足いただけて、良かったです」
関根さんが嬉しそうにする。
だけど、何かを察しているようでもあった。
「実は、お帰りが遅かったので心配しておりました。CEOは基本的に紳士な方ですが、少々、エキセントリックな面がありまして、失礼があったのではないかと。大月様が随分疲れたご様子だったので……その、なんと申しますか……」
「……」
(もしかしたら、由比さんは……)
そもそも関根さんは、由比さんと私が食事する時点で、あまりいい顔をしなかった。
考えたくないけれど、考えてしまう。
もしかしたら由比さんは、女性に対して親切すぎるのかもしれない。本人に悪気はないが、結果的に問題行動とみなされるため、関根さんも総支配人も、過剰に心配したのではないか。
つまり、私を食事に誘ったり、デートしたのも、甘い言葉までも、彼にとっては日常茶飯事。単なる親切。
そう考えると、辻褄が合う。
(……もしそうなら、とんだ道化者だ、私)
よく考えれば、いや、考えるまでもなく、あれほどハイスペックで素敵な男性が、私なんかを相手にするわけがない。
それなのに、愛しいとか言われて、舞い上がって、キスされて、うっとりして、バカみたい。
(なんだ……そうだったのね)
今、魔法が解けた気がする。
でも、どうしてか由比さんを恨む気になれない。だって彼は、私の願いを叶えてくれたのだから。
(あれ?)
ふと、違和感を覚える。そういえば彼も、それらしいことを口にしたような……??
――『あなたが愛しくて、あなたの望みを叶えたいと思ったのです』
――『あなたの望みです。王子様と恋を……』
(えっ、どうして?)
私の願いは、王子様と恋をすること。
なぜ彼がそれを知っているの?
「大月様? どうかなさいましたか」
「いえっ、なんでも」
分からない。由比さんがなぜ、私の望みを知っていたのか。
どこかでぽろっと漏らした? それとも、彼を見る目つきが、もの欲しげだったとか?
いずれにしろ、願望がバレバレだったのは確かだ。
恥ずかしくてたまらなくなるが、でも、なぜかやっぱり由比さんを悪く思えなかった。
単なる親切心でも、彼は私の望みを叶えてくれたのだ。デートもキスも、私にとって十分すぎる出来事だし、後にも先にも、あんなにときめくことはないだろう。
突然抱擁を打ち切られたのはショックだったけど、仕方ない。
彼が言ったように、よほど大事な仕事を思い出したのだろう。私の相手をしている場合ではないほどの。
だけどもう、細かいことはどうでもいい。由比さんは、私の望みを叶えてくれた。それは、彼にしかできないことであり、奇跡のような巡り合わせだと感じるから。
認めたくなくて、思い出すのをためらっていたこと。
だけど、いくら現実逃避しようと、事実は変わってくれない。認めないわけにいかないのだ。
夢の終わりを。
「関根さん。少し、お話ししてもいいですか?」
「も、もちろんでございます」
私が椅子をすすめると、彼女は遠慮しながらも腰掛け、向き合ってくれた。
「昨日のことでございますね?」
「ええ。詳細は省きますが、お伝えしておきます。昨夜は私、ぼうっとして、何も話せなかったから。すみません」
「とんでもございません! どうぞ、お気になさらず」
恐縮する彼女に、私は報告した。
由比さんと観光地巡りをしたこと。とても親切にしてもらい、楽しかったこと。それから、最後にスキー場のゴンドラで山に上り、未公開の展望風呂を見せてもらったことまで。
もちろん、詳細は省いたけれど……良い思い出ができて感謝していると、伝えた。
「そうなんですね。大月様にご満足いただけて、良かったです」
関根さんが嬉しそうにする。
だけど、何かを察しているようでもあった。
「実は、お帰りが遅かったので心配しておりました。CEOは基本的に紳士な方ですが、少々、エキセントリックな面がありまして、失礼があったのではないかと。大月様が随分疲れたご様子だったので……その、なんと申しますか……」
「……」
(もしかしたら、由比さんは……)
そもそも関根さんは、由比さんと私が食事する時点で、あまりいい顔をしなかった。
考えたくないけれど、考えてしまう。
もしかしたら由比さんは、女性に対して親切すぎるのかもしれない。本人に悪気はないが、結果的に問題行動とみなされるため、関根さんも総支配人も、過剰に心配したのではないか。
つまり、私を食事に誘ったり、デートしたのも、甘い言葉までも、彼にとっては日常茶飯事。単なる親切。
そう考えると、辻褄が合う。
(……もしそうなら、とんだ道化者だ、私)
よく考えれば、いや、考えるまでもなく、あれほどハイスペックで素敵な男性が、私なんかを相手にするわけがない。
それなのに、愛しいとか言われて、舞い上がって、キスされて、うっとりして、バカみたい。
(なんだ……そうだったのね)
今、魔法が解けた気がする。
でも、どうしてか由比さんを恨む気になれない。だって彼は、私の願いを叶えてくれたのだから。
(あれ?)
ふと、違和感を覚える。そういえば彼も、それらしいことを口にしたような……??
――『あなたが愛しくて、あなたの望みを叶えたいと思ったのです』
――『あなたの望みです。王子様と恋を……』
(えっ、どうして?)
私の願いは、王子様と恋をすること。
なぜ彼がそれを知っているの?
「大月様? どうかなさいましたか」
「いえっ、なんでも」
分からない。由比さんがなぜ、私の望みを知っていたのか。
どこかでぽろっと漏らした? それとも、彼を見る目つきが、もの欲しげだったとか?
いずれにしろ、願望がバレバレだったのは確かだ。
恥ずかしくてたまらなくなるが、でも、なぜかやっぱり由比さんを悪く思えなかった。
単なる親切心でも、彼は私の望みを叶えてくれたのだ。デートもキスも、私にとって十分すぎる出来事だし、後にも先にも、あんなにときめくことはないだろう。
突然抱擁を打ち切られたのはショックだったけど、仕方ない。
彼が言ったように、よほど大事な仕事を思い出したのだろう。私の相手をしている場合ではないほどの。
だけどもう、細かいことはどうでもいい。由比さんは、私の望みを叶えてくれた。それは、彼にしかできないことであり、奇跡のような巡り合わせだと感じるから。
4
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様


君の秘密
朝陽七彩
恋愛
「フン‼」
「うるせぇ‼」
「黙れ‼」
そんなことを言って周りから恐れられている、君。
……でも。
私は知ってしまった、君の秘密を。
**⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆*
佐伯 杏樹(さえき あんじゅ)
市野瀬大翔(いちのせ ひろと)
**⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆***⋆*

甘い支配の始まり~愛に従え 愛に身を委ねろ~【完結】
まぁ
恋愛
【失恋は甘い支配の始まり】
花園紫乃 Hanazono Shino 24歳
町田瑠璃子 Machida Ruriko 24歳
水戸征二 Mito Seiji 28歳
長谷川壱 Hasegawa Ichi 31歳
大垣誠 Ogaki Makoto 31歳
※作品中の個人、団体、街…全て架空のフィクションです

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
夫のつとめ
藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。
29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。
「あなた、私と結婚しなさい!」
しかし彼の返事は……
口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。
※エブリスタさまにも投稿

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる