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強引なお誘い
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とにかく、私が気を失ったあと、誰かが助けてくれたのだ。
彼はさっき、私どもがお運びしたと言った。ということは、変質者に気づいて私を救い、ここまで運んでくれたのはホテルの従業員だ。
警備の人とか、雪かきのスタッフとか。
それなら、お詫びするのはこちらである。
「私こそ、皆さんにご迷惑をかけてしまい、すみません。それで、変質者はどうなりましたか? 警察に通報は」
「えっ?」
二人とも目を丸くした。
なぜか、ずいぶんと狼狽した様子。
「へ、変質者については、大丈夫でございます。こちらで処理しましたので、どうかご安心を」
総支配人が微笑みを浮かべる。なんだかぎこちなく見えるのは、気のせいだろうか。
だが、処理というからには警察に通報、あるいは既に逮捕されたということ。変質者については、もう心配しなくていいのだ。
「分かりました。いろいろと、ありがとうございます」
ホッとしたら、急に力が抜けて身体がふらついた。関根さんが慌てて私を支え、ベッドに横たわらせる。
「私を助けてくださったのは、従業員の方ですよね。ありがとうとお伝えください」
「は、はい。あの、大月様。実は……」
「?」
まだなにか問題が?
関根さんの緊張した顔つきを見て、私は不安になる。
しかし彼女が口にしたのは、変質者についてではなく……
「実は本日、三保コンフォートのCEOが来館しております。大月様の件を報告したところ、直接お詫びをしたいとのことで、できればご夕食をともにしたいと申しておりますが、いかがいたしましょう」
「はい……?」
三保コンフォートのCEO。
つまり、ホテルの経営者であり最高責任者だ。
突然の申し出に、私は再びがばりと起き上がった。
「いえいえいえ、と、とんでもないです。私ごときにそんな、偉い方がお詫びされるなんて。お気持ちだけで十分ですとお伝えください」
本当に、心から遠慮した。迷惑をかけたのは私……というか、あの変態男なのに、偉い方に謝罪されては困ってしまう。
「左様でございますか。残念ですが、無理をされてはお体に障りますし、ひとまずそのようにお伝えいたします」
関根さんは、なぜか安堵の表情になった。横で見守る総支配人はハンカチを持ち、しきりと汗を拭いている。
どうやら彼らは、CEOと私が食事するのを望んでいない。
なぜなのかは、よく分からないけれど。
「ご夕食については、後ほどご相談させていただきますので、とにかく今は、ごゆっくりとお休みください」
関根さんが申しわけなさそうに言い置き、総支配人とともに部屋を出ていった。
私は息をついて、ベッドにゆっくりと倒れる。
なんてことだろう。
最高の旅になるはずが、とんだ災難に見舞われた。私はつくづく運のない女なのだ。
「頭にくる。もう、あの変態男め!」
ともあれ、無事だったのだから良しとしよう。少し休めば調子が戻るだろうし、旅をリスタートできる。予定どおり、憧れのスイートルームと自由を満喫するのだ。
瞼を閉じて、休むことに専念した。
彼はさっき、私どもがお運びしたと言った。ということは、変質者に気づいて私を救い、ここまで運んでくれたのはホテルの従業員だ。
警備の人とか、雪かきのスタッフとか。
それなら、お詫びするのはこちらである。
「私こそ、皆さんにご迷惑をかけてしまい、すみません。それで、変質者はどうなりましたか? 警察に通報は」
「えっ?」
二人とも目を丸くした。
なぜか、ずいぶんと狼狽した様子。
「へ、変質者については、大丈夫でございます。こちらで処理しましたので、どうかご安心を」
総支配人が微笑みを浮かべる。なんだかぎこちなく見えるのは、気のせいだろうか。
だが、処理というからには警察に通報、あるいは既に逮捕されたということ。変質者については、もう心配しなくていいのだ。
「分かりました。いろいろと、ありがとうございます」
ホッとしたら、急に力が抜けて身体がふらついた。関根さんが慌てて私を支え、ベッドに横たわらせる。
「私を助けてくださったのは、従業員の方ですよね。ありがとうとお伝えください」
「は、はい。あの、大月様。実は……」
「?」
まだなにか問題が?
関根さんの緊張した顔つきを見て、私は不安になる。
しかし彼女が口にしたのは、変質者についてではなく……
「実は本日、三保コンフォートのCEOが来館しております。大月様の件を報告したところ、直接お詫びをしたいとのことで、できればご夕食をともにしたいと申しておりますが、いかがいたしましょう」
「はい……?」
三保コンフォートのCEO。
つまり、ホテルの経営者であり最高責任者だ。
突然の申し出に、私は再びがばりと起き上がった。
「いえいえいえ、と、とんでもないです。私ごときにそんな、偉い方がお詫びされるなんて。お気持ちだけで十分ですとお伝えください」
本当に、心から遠慮した。迷惑をかけたのは私……というか、あの変態男なのに、偉い方に謝罪されては困ってしまう。
「左様でございますか。残念ですが、無理をされてはお体に障りますし、ひとまずそのようにお伝えいたします」
関根さんは、なぜか安堵の表情になった。横で見守る総支配人はハンカチを持ち、しきりと汗を拭いている。
どうやら彼らは、CEOと私が食事するのを望んでいない。
なぜなのかは、よく分からないけれど。
「ご夕食については、後ほどご相談させていただきますので、とにかく今は、ごゆっくりとお休みください」
関根さんが申しわけなさそうに言い置き、総支配人とともに部屋を出ていった。
私は息をついて、ベッドにゆっくりと倒れる。
なんてことだろう。
最高の旅になるはずが、とんだ災難に見舞われた。私はつくづく運のない女なのだ。
「頭にくる。もう、あの変態男め!」
ともあれ、無事だったのだから良しとしよう。少し休めば調子が戻るだろうし、旅をリスタートできる。予定どおり、憧れのスイートルームと自由を満喫するのだ。
瞼を閉じて、休むことに専念した。
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