琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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聖なる光

2【完】

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「ねえ、ミア。どうして僕が君をトーマに迎えに行けたと思う? 妖獣のルズになってさ」
「……」

 その時、カタリと音がした。窓を開ける音だった。
「あの人がいなければ、僕は変身できないよ。僕は魔法使いじゃないからね」
 ミアは顔を上げ、ルズとサキの顔を交互に見やる。
「本当に……?」
 震え声で問うミアに、二人ともしっかりと頷いた。

「ミア」

 低く、優しい声。あの人の声が聞こえる。
 ミアは立ち上がり、花畑の中に走り出ると、屋敷を振り仰いだ。
 寝室の窓から、白いスーツを着て、白いマントを羽織った、あの人が見下ろしている。

「ラルフ!!」

 夢かと思った。
 本当に現実なの? あなたなの?
 夢なら覚めないで。お願い。
 そう望んだ時、彼の姿が消えた。

「!」

 再び絶望が襲いかかる。だけど――
「ミア、そこで待っていて」
「すぐに来るよ!」
 サキとルズの励ましに支えられ、何とかこらえる。
 そして数秒後。
 玄関のドアが開き、彼が現れた。
「ラルフさま……」
 柔らかく包むような眼差しでミアを捉え、真直ぐに近付いて来る。

 消えないで。もう消えたりしないで。
 ミアは瞬きすら恐れた。一瞬で、またいなくなってしまう気がして。
 ラルフは胸を広げた。
「おいで」
 ミアは駆け出した。足がもつれてうまく走れない。転びそうになりながら、ラルフの胸に飛び込んだ。
「……っ」
 何も言えなかった。
 声を発したら、顔を上げたら、今度こそ消えてしまうのではないか。
 だけど腕の中は温かく、押し付けた耳には、彼の鼓動が聞こえていた。

 ラルフはミアの頬を両手に包み込む。愛しそうに微笑むと、涙に濡れた唇を優しく塞いだ。
「どうして……?」
 やっと笑顔になって、ミアは愛する人に尋ねた。
「赦されたのだ。ミア、お前のおかげで」
「私の?」
「ベルが生きていただろう」
「は……はい」
「誰も彼もが救われたのだ。私の呪われた1000年は、霧消した。生命の海が、すべてを救ってくれたのだ」

 ラルフの父、初代ゴアドア王の魔法。
 情愛という名の魔法が、何もかもを闇の世界から救い出した。
 聖なる光は、偉大なる魔法使いが全身全霊を捧げた、最後の希望だった。

「ゴアは光、ドアは聖。私は赦されたのだ。ミアの願い、愛する者とともに生きたいという、その願いのために、赦されて、お前のもとへ帰って来ることができた」
「ラルフ様……ラルフ!」
 二人は抱き合い、キスをした。
 運命のあの日――
 二人が出会った暗黒の森ではなく、明るい陽射しが降り注ぐ幸福の森で、花達に囲まれて、愛する者達に見守られて。

 もう離れない。どこにも行かないで。
 ミアの脳裏に、さまざまな光景が浮かんでは消えた。
 ラルフとの日々……彼の強さ、寂しさ、激しさ、優しさ、温かさ、子どものようにわがままで、純粋な心。何もかもが愛おしい。

「愛している……ミア。お前だけを、心から愛している」

 輝く空が、森が、どこまでも広がっていく。
 聖なる光が二人を照らし、限りない祝福を贈っていた。



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