琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ティナの愛

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 ディエゴはうつらうつらとしてきた。薬がさらに効いてきたのかと、ラルフは先を急がせた。
「それで? ティナはそれからどうしたのだ」
「ラルフと結ばれるよう願いたかったのだろうが、望みは絶たれた。ティナはショックのためか、一切の記憶を失くしてしまったよ。わしはこれ幸いに巻紙とゴアを取り上げた。ティナは絶望したが、わしは違う。必ず謎を解くために、解くまで生きる執念を持った。そして、このような姿となった……」
 子々孫々、己の血筋の者の体に憑りつき、今に至っている。本物の化け物はディエゴであった。

「黒のゴアはどうしたの? その時は持っていたのでしょう」
 サキが訊くと、ディエゴは怨念を含む口調になる。
「すりかえられた」
「何ですって!?」
「わしはある日、秘密の隠し場所に保管してある二つのゴアを確かめた。魔法の鍵をかけ、厳重に管理していた隠し場所だ。だが、そこにある黒のゴアが、青のゴアよりもほんの僅か、軽かったのだ……信じられん」
 ラルフが冷静に訊く。
「誰が、すりかえたのだ」
「わからん。何もかも、わからん……ティナに訊いても、知らぬと。当然だ。あれは完全に記憶を失っていた。わしは狂いそうだった。だが、あきらめん……あきらめんぞ」

 ラルフには雲が晴れたように、すべて見えてきた。
 すべてが明らかになった。
 ティナは最初にディエゴに見つかった時点で、既に本を火にくべていた。そして、適当な『巻物』を書だと偽ってディエゴに渡し、『本』は隠したのだ。
 そして黒のゴア。それも最初から本物ではない。『暖炉の火の前で黒と青のゴアを並べて』とディエゴは言ったが、それは違う。黒のゴアはペンダントになっている。おそらくディエゴが部屋に入ってきたその時、ティナの胸もとにあったのだろう。

「黒のゴアの贋物を……お前は作ることができるか?」
 ラルフに訊かれ、ミアはハッと目を見開く。
「はい。私達は、模造の技術を受け継いでいます。コスモスやデイジーもその技術でこしらえました。もし……本当にティナさんが私のご先祖様なら、ゴアの贋物を作るのは簡単だったはずです。そして、材料によっては、いずれ乾燥して……軽くなります」
 ミアの声は震えている。
 ティナは予測していたのだ。必ずディエゴに王からの贈り物を盗られると。

 どんな望みも叶うだろう――そんな危険な魔法を、強欲で性質の悪い養父に万が一でも渡したら……

 トーマはどうなる? ゴアドアは……そして最愛の人、ラルフは。
 ティナは自分の望みを叶えるよりも、その危険から世界を守ることを優先させた。ディエゴは必ず盗りに来る。しかも早急に。
 急がねばならない状況の中、彼女は知恵を絞り、そしてディエゴを煙に巻いたのだ。
 王からの贈り物を完全には隠さず、だが煙に巻いて、ディエゴを見当違いな方向へと導いた。記憶を失くした振りまでして。



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