琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ティナの愛

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 サキとルズが、天窓から部屋の中に飛び下りた。ルズは魔法を解かれ、人間の姿になっている。
 四人揃ったところで、ラルフは訊問を始めた。
「ディエゴ。お前は青のゴアをどうやって手に入れた」
 先ほどと同じ質問を繰り返す。
 ディエゴは薄ら笑いを浮かべている。だが受け答えはしっかりしていた。

「あの日……トーマを棄ててゴアドアへ国を遷す旅立ちの日。王がティナに何かを渡したのに、わしは気付いていた。ただの贈り物じゃあない。自分を裏切ったとはいえ、あれほど愛した女への『形見』の品だ。相当なものだと、わしは睨んでいた」
 薬の効果は絶大だった。焦げたボロ雑巾のような老体が話す内容は、実際の話だと信じられる。それほどディエゴの口調は淡々として、よどみがない。

「王はわしにティナを託した。元々は親子なのだから情愛はあるだろうと。あれほどの王としての資質に恵まれ、その気になれば世界全土を統一するのも不可能ではない、武力知力、そして魔力をも併せ持った男が、何という甘さか。わしはしかし、そこにつけこんだ。ティナのおかげで命拾いもしたことだ。この際ティナにはとことん恩返しをしてもらおうと決めたのだ」
 ミアはラルフを見上げた。
 表情は変わらない。しかし握られた手には力がこめられている。

「わしはティナから『形見』のすべてをいただくため、その夜のうちに、あれの部屋を不意打ちした。するとどうだ、ティナが早速儀式を始めてるではないか。暖炉の火の前で黒と青のゴアを並べ、王が与えたであろう言葉どおりの儀式を……」
 ディエゴは咳き込んだ。ラルフは身を屈めると、ディエゴの口にさらに一滴、薬を落とす。
「あと一滴含んだら、命はないぞ」
 ラルフの最期通告に皆が驚くが、ディエゴ本人には理解できないのか、無表情のままだった。
 ミアは身体を起こしたラルフの手に指を絡める。
 もうディエゴのそばに行かないように。

 ディエゴは再び、自白を始めた。
「……ティナはわしを見た途端、あきらめ顔になった。そして、わしを傍らへ呼んだのだ。儀式に立ち会うようにと」
「まさか……!」
 ルズが前に出ようとするのをサキが止めた。
「最後まで聞きましょう。この男は、本当のことを話しているのよ」
 ディエゴは続けた。
「だが、上手くいかない。ティナは王が伝えた言葉とおり、巻紙を火にくべた。だが、何も起こらなかった」

 巻紙……?

 四人は顔を見合わせる。
「巻紙とはなんだ」
 ラルフが訊くと、ディエゴはこれも淡々と答えた。
「決まっている。ティナが王から受け取った形見の書だ」
「……」
 ラルフも皆も、絶句する。ディエゴは書を『本』ではなく『巻紙』だと思い込んでいるのだ。
「巻紙は、火に入れると文字が浮き上がってくる魔法紙でできていた。だが、文字など一つも現れない。わしはもちろん、ティナも衝撃を受けておった。当然だ。手がかりがなくなったのだから」

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