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現れたディエゴ
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ラルフは足を踏ん張り、胸の前に立てた鞭でそれを受けると、逆にディエゴの胴へと炎の蛇を走らせ、きつく巻き付けた。
「ぎゃああっ!!」
おぞましい悲鳴を上げて、ディエゴがのけ反る。真っ赤な大蛇に絞め殺される鼠のようであった。
「私は魔炎使いだ。逆上して忘れたのか」
ラルフが命じるままに鞭は激しく燃え上がり、ディエゴの全身を焼き尽くそうとしている。
「やめてくれっ、ラルフ……ッ!」
半死半生の状態で鞭を解かれたディエゴは、転げるように跪くと、手を合わせて懇願した。
「頼むから聞いてくれ、ラルフ! わしはお前の父王に仕え、トーマの繁栄のために力を尽くしてきた。だが終いには棄てられた。そもそも私が放逐されたのは、お前とわしの養女であるティナの不義が原因ではないか。わしはティナの巻き添えでゴアドア王に疎まれ、置き去りにされたのだ。青のゴアは盗んだのではない。ティナが私にくれたのだ。迷惑をかけたお詫びにと自ら手放し、わしに贈ったのだよ」
目に涙を浮かべ、惨めな老体を震わせている。
「それは誠か」
ラルフはディエゴに歩み寄ると、片膝立ちになって訊ねた。
「では、黒のゴアはどうした。『黒と青のゴアが揃い合わさる時、どんな望みも叶うだろう』と、あの言葉にある黒のゴアはどこへやったのだ」
ディエゴはなおも頭を振り続ける。
「知らぬ。本当に知らぬのだ。ティナも知らないと……いや知っていたに違いないが、どうしても分からない。信じてくれ。黒のゴアを、私は持っていない!」
その言葉は信用できた。
黒のゴアは今、ミアの胸もとにある。
ラルフはガラスの小瓶をディエゴの目の前にかざした。
「……な、何だ、それは」
息も絶え絶えにディエゴが訊ねる。しかし、どこか隙を窺っているような目力に、ラルフは油断を解かなかった。
ガラスの小瓶の中には、呪術を施した特製のエーテルと、ミアの父親を酩酊させたというエリックの薬が混ぜ合わさっている。
小窓からの光を反射し、妖しくゆっくりと揺れている。
いかに魔力を身に付けたディエゴとて、ほんのひと雫で陥落してしまうだろう。
「お前は己の欲望のために、無垢な人間の生命を数え切れないほど犠牲にしてきた。これはその償いだと思え……こんなものでは足りないだろうが」
ラルフは言うなりディエゴの顎を掴んでこじ開け、その中へ液体を二滴垂らした。
「ウウッ……何をするか!」
ディエゴはラルフの腕を打ち払い、立ち上がった。しかし再び腰をふらふらと床に落とすと、虚ろな目線を空に浮かべる。
ラルフはミアを引き寄せると、強く手を握った。
理性的にならねばと、己に言い聞かせる。
ディエゴを八つ裂きにしないために。惨たらしい血の海を、ミアに見せないように。
「ぎゃああっ!!」
おぞましい悲鳴を上げて、ディエゴがのけ反る。真っ赤な大蛇に絞め殺される鼠のようであった。
「私は魔炎使いだ。逆上して忘れたのか」
ラルフが命じるままに鞭は激しく燃え上がり、ディエゴの全身を焼き尽くそうとしている。
「やめてくれっ、ラルフ……ッ!」
半死半生の状態で鞭を解かれたディエゴは、転げるように跪くと、手を合わせて懇願した。
「頼むから聞いてくれ、ラルフ! わしはお前の父王に仕え、トーマの繁栄のために力を尽くしてきた。だが終いには棄てられた。そもそも私が放逐されたのは、お前とわしの養女であるティナの不義が原因ではないか。わしはティナの巻き添えでゴアドア王に疎まれ、置き去りにされたのだ。青のゴアは盗んだのではない。ティナが私にくれたのだ。迷惑をかけたお詫びにと自ら手放し、わしに贈ったのだよ」
目に涙を浮かべ、惨めな老体を震わせている。
「それは誠か」
ラルフはディエゴに歩み寄ると、片膝立ちになって訊ねた。
「では、黒のゴアはどうした。『黒と青のゴアが揃い合わさる時、どんな望みも叶うだろう』と、あの言葉にある黒のゴアはどこへやったのだ」
ディエゴはなおも頭を振り続ける。
「知らぬ。本当に知らぬのだ。ティナも知らないと……いや知っていたに違いないが、どうしても分からない。信じてくれ。黒のゴアを、私は持っていない!」
その言葉は信用できた。
黒のゴアは今、ミアの胸もとにある。
ラルフはガラスの小瓶をディエゴの目の前にかざした。
「……な、何だ、それは」
息も絶え絶えにディエゴが訊ねる。しかし、どこか隙を窺っているような目力に、ラルフは油断を解かなかった。
ガラスの小瓶の中には、呪術を施した特製のエーテルと、ミアの父親を酩酊させたというエリックの薬が混ぜ合わさっている。
小窓からの光を反射し、妖しくゆっくりと揺れている。
いかに魔力を身に付けたディエゴとて、ほんのひと雫で陥落してしまうだろう。
「お前は己の欲望のために、無垢な人間の生命を数え切れないほど犠牲にしてきた。これはその償いだと思え……こんなものでは足りないだろうが」
ラルフは言うなりディエゴの顎を掴んでこじ開け、その中へ液体を二滴垂らした。
「ウウッ……何をするか!」
ディエゴはラルフの腕を打ち払い、立ち上がった。しかし再び腰をふらふらと床に落とすと、虚ろな目線を空に浮かべる。
ラルフはミアを引き寄せると、強く手を握った。
理性的にならねばと、己に言い聞かせる。
ディエゴを八つ裂きにしないために。惨たらしい血の海を、ミアに見せないように。
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