琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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二人の想い

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 ラルフの心は今、ティナへの愛おしさでいっぱいなのだ。
 ミアは切ないほど感じている。
「そして火の中で、彼女も五行の詩を発見した。だが青のゴアを盗まれて、どうすることもできなかったのだろう……可哀想に……」
 腕の力が抜けて解放されると、ミアは体ごとラルフに見向いた。
 彼らしくもない、頼りない眼差しが彼女を捉えている。

「ラルフ様……憎しみに負けて大事な事を忘れないでください。父王様もティナさんも、あなたのことを愛していた。そうでしょう? もう苦しまないでください。皆が悲しまれます……私も」
 ミアはラルフの頬を優しく手のひらで包み込むと、唇を寄せ、キスをした。
「う……ミア」
 ラルフはミアの肩を掴むと引き離した。
「よせ。もう今までの私とは違う」
「いいえ、違いません。あなたはラルフ様です。私は今でもあなたを……」
「駄目だ。私は黒のゴア欲しさにお前を妻にしていた。それだけだ。愛してはいない」
 ミアは胸を深くえぐられ、残酷に傷付いた。
 だがそれよりもなお、彼を欲する気持ちが激しく湧き上がり、どうしようもなかった。

「それでもいいです。お願いです。最後にもう一度、抱いてください。身代わりでも、戯れでも構いません」
 ミアはラルフに抱き付き、首にしがみついた。
「馬鹿なことを……ミア」
「愛してください、ラルフ様。私を……一度だけでも良いです。お願い」
 懇願する妻に再び唇を塞がれ、ラルフはそのまま床に押し倒される。
「ミア、お前は私とではなく……」
 ミアの温もりが、匂いが、彼の意思を挫けさせた。お為ごかしを許さなかった。

「ミア……」
 ラルフの瞼からティナの面影が消える。

「この私を強引に押し倒すとは。本当に、お前は……何という娘だ」
 仰向けになったまま、ラルフは笑った。
 ミアは胸にしがみつき泣いている。ラルフの鼓動が聞こえてくる。いつものリズムで。
 そう……
 いつもの力強い腕の中で、いつものラルフの笑い声を聞けるのが、何よりも嬉しい。

 ラルフは身を起こして、ミアを組み伏せる。欲望に燃える、だがこれまでよりも温かな眼差しで、愛しい女の泣き顔を包んだ。
「私を愛しているのか」
 ミアは緑の瞳を濡らし、こくりと頷く。
 そして、大好きな人の口付けを受けた。頬に、唇に、胸もとに……


 二人はその夜、燃える暖炉の前で求め合い、一つになり、愛情を交わした。
 何も差し挟まぬ素の男と女になって、何度も、深く、堪えていた情熱を解放するように、思いきり互いを愛する。

 大切な人を守り、幸せにする――

 二人は同じ想いを、胸に抱いていた。

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