琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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最愛の者へ

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「そう、ディエゴだ。父王が嫌悪し、トーマを去る直前に放逐した、貪欲かつ残忍な男」
 ルズもあとに続く。
「高慢で鼻持ちならない、悪知恵に長けた男さ」
 ラルフとルズの言葉は、ミアにある人物を連想させた。自分もよく知っている気がした。

「そのディエゴが、ティナさんの邪魔をしたというの? どうやって……あっ」 
 サキはラルフが目の前に掲げた青のゴアを見て声を詰まらせる。 
「ティナはディエゴに、青のゴアを奪われていたのだ。だから、望みを叶えることができなかった」 

 私と結ばれる望みを―― 

 ラルフは言葉を呑み込んだ。ティナの無念を思うと、苦しくて声にならない。

「プラドー家ですね。その石を奪ったディエゴという者の末裔は、プラドー伯爵!」 
 小さな声で、だがはっきりとミアが言い切る。
 ディエゴという男の特性は、プラドー家の当主プラドー伯爵にそっくり当てはまる。  
 あの伝承と、青のゴア。
 ディエゴという男が、何らかの方法で、それらをティナから盗んだのだ。何よりプラドー家のものになっている伝承と、青のゴアがそれを証明していた。

 サキはラルフの横顔に、呪いを解かれる前の、無慈悲で残忍な恐ろしさを見ていた。 
 ティナはディエゴに運命を狂わされたのだ。 
 そして、望みが叶わぬまま死んでいった。 
 黒のゴアと本と……血脈を遺して。 

 サキはミアに目を向けた。ティナに生き写しであるという彼女。この娘もプラドーに父親を奪われている。奴らは他にも罪のない多くの人々を私欲のために平気で犠牲にしている。 
 ブリーズで感じた怒りが、ふつふつと思い出されてきた。 
「許せないわ」 
 膝の上で握りしめた拳が震える。

【最愛の者へ】

 本の表紙を撫でながら、ミアは悲しみに暮れる。
 彼女を見下ろすラルフの身体からは、魔物のような殺気が立ち昇っていた。


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