琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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残酷な報告

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 プラドー家が伝承に執着するのは、石に宿る魔力を信じているから。その執着のために大勢の人間が命を落としたことを思い、サキは体を震わせた。
「どうぞ。ブランデー入りの紅茶です。温まりますよ」
 サキが寒くて震えていると思ったのか、ミアが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、ありがとう。いただくわ」
 カップを受け取ると、ひと口含んだ。温かさが心まで沁みて、涙が出そうだった。

 ラルフは、ミアがなぜ黒いゴアを持っているのか、そのわけも皆に教えた。
 黒のゴアは、プラドー家の家政婦長を代々務める母方の先祖から受け継がれたという。そして、ミアの父親もまた、プラドー家に代々仕える執事であった。
「プラド―家の、執事?」
 サキは愕然とした。
 ミアの父親はすでに亡くなっている。彼女が生まれる前に――
 エリックから聞いた話が、ピタリと符合する。
「ああ、何てこと……」

 19年前の冬、プラドー家の執事ウイリアム・J・オルバは死んだ。プラドー伯爵に殺された。
 ミアはこの秋、18になるという。
 あの時彼が、秋に生まれると喜んでいた初めての子が、目の前にいるミアなのだ。
「サキ博士、大丈夫ですか?」
 サキが青ざめるのを見て、ミアが気遣う。背中をさすってくれる優しい手を感じながら、サキの胸は引き裂かれそうだった。
(こんなことって……)

 黒のゴアを研究したかった。ただ研究者としての好奇心で、関わったのだ。
 こんな哀しみを味わうことになろうとは。
 
 だけど、サキは顔を上げる。
 今度は自分が、ブリーズで調査したことをラルフに報告する番だ。
(でも、ミアさんには聞かせたくない――できることなら)
 ラルフを見ると、彼はゆっくりとかぶりを振る。
「サキ、すべてを話すのだ。私達に秘密があってはならない。それがどんなに残酷な事実であっても」
 まるで、報告の内容を察したかのように彼は言い切る。

 ルズを見ると、彼も悲しそうに瞳を曇らせている。ウイリアム・J・オルバとミアの関係を推測したのだろう。
「こっちに来て、ミア。僕のところに」
 ルズはミアを呼ぶと、隣に座らせて肩を抱いた。
 ミアはラルフのほうを見るが、彼は壁にもたれた格好で目を閉じている。
 ミアの寂しげな表情に目を当てながら、サキは話し始めた。ブリーズの国で見聞きしたこと。記者エリックの話。すべてを詳らかに……

 静かな部屋に、いつしか嗚咽が響いていた。
 ミアがルズの胸に顔を埋め、体を震わせ泣いていた。


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