68 / 88
残酷な報告
2
しおりを挟む
プラドー家が伝承に執着するのは、石に宿る魔力を信じているから。その執着のために大勢の人間が命を落としたことを思い、サキは体を震わせた。
「どうぞ。ブランデー入りの紅茶です。温まりますよ」
サキが寒くて震えていると思ったのか、ミアが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、ありがとう。いただくわ」
カップを受け取ると、ひと口含んだ。温かさが心まで沁みて、涙が出そうだった。
ラルフは、ミアがなぜ黒いゴアを持っているのか、そのわけも皆に教えた。
黒のゴアは、プラドー家の家政婦長を代々務める母方の先祖から受け継がれたという。そして、ミアの父親もまた、プラドー家に代々仕える執事であった。
「プラド―家の、執事?」
サキは愕然とした。
ミアの父親はすでに亡くなっている。彼女が生まれる前に――
エリックから聞いた話が、ピタリと符合する。
「ああ、何てこと……」
19年前の冬、プラドー家の執事ウイリアム・J・オルバは死んだ。プラドー伯爵に殺された。
ミアはこの秋、18になるという。
あの時彼が、秋に生まれると喜んでいた初めての子が、目の前にいるミアなのだ。
「サキ博士、大丈夫ですか?」
サキが青ざめるのを見て、ミアが気遣う。背中をさすってくれる優しい手を感じながら、サキの胸は引き裂かれそうだった。
(こんなことって……)
黒のゴアを研究したかった。ただ研究者としての好奇心で、関わったのだ。
こんな哀しみを味わうことになろうとは。
だけど、サキは顔を上げる。
今度は自分が、ブリーズで調査したことをラルフに報告する番だ。
(でも、ミアさんには聞かせたくない――できることなら)
ラルフを見ると、彼はゆっくりとかぶりを振る。
「サキ、すべてを話すのだ。私達に秘密があってはならない。それがどんなに残酷な事実であっても」
まるで、報告の内容を察したかのように彼は言い切る。
ルズを見ると、彼も悲しそうに瞳を曇らせている。ウイリアム・J・オルバとミアの関係を推測したのだろう。
「こっちに来て、ミア。僕のところに」
ルズはミアを呼ぶと、隣に座らせて肩を抱いた。
ミアはラルフのほうを見るが、彼は壁にもたれた格好で目を閉じている。
ミアの寂しげな表情に目を当てながら、サキは話し始めた。ブリーズの国で見聞きしたこと。記者エリックの話。すべてを詳らかに……
静かな部屋に、いつしか嗚咽が響いていた。
ミアがルズの胸に顔を埋め、体を震わせ泣いていた。
「どうぞ。ブランデー入りの紅茶です。温まりますよ」
サキが寒くて震えていると思ったのか、ミアが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、ありがとう。いただくわ」
カップを受け取ると、ひと口含んだ。温かさが心まで沁みて、涙が出そうだった。
ラルフは、ミアがなぜ黒いゴアを持っているのか、そのわけも皆に教えた。
黒のゴアは、プラドー家の家政婦長を代々務める母方の先祖から受け継がれたという。そして、ミアの父親もまた、プラドー家に代々仕える執事であった。
「プラド―家の、執事?」
サキは愕然とした。
ミアの父親はすでに亡くなっている。彼女が生まれる前に――
エリックから聞いた話が、ピタリと符合する。
「ああ、何てこと……」
19年前の冬、プラドー家の執事ウイリアム・J・オルバは死んだ。プラドー伯爵に殺された。
ミアはこの秋、18になるという。
あの時彼が、秋に生まれると喜んでいた初めての子が、目の前にいるミアなのだ。
「サキ博士、大丈夫ですか?」
サキが青ざめるのを見て、ミアが気遣う。背中をさすってくれる優しい手を感じながら、サキの胸は引き裂かれそうだった。
(こんなことって……)
黒のゴアを研究したかった。ただ研究者としての好奇心で、関わったのだ。
こんな哀しみを味わうことになろうとは。
だけど、サキは顔を上げる。
今度は自分が、ブリーズで調査したことをラルフに報告する番だ。
(でも、ミアさんには聞かせたくない――できることなら)
ラルフを見ると、彼はゆっくりとかぶりを振る。
「サキ、すべてを話すのだ。私達に秘密があってはならない。それがどんなに残酷な事実であっても」
まるで、報告の内容を察したかのように彼は言い切る。
ルズを見ると、彼も悲しそうに瞳を曇らせている。ウイリアム・J・オルバとミアの関係を推測したのだろう。
「こっちに来て、ミア。僕のところに」
ルズはミアを呼ぶと、隣に座らせて肩を抱いた。
ミアはラルフのほうを見るが、彼は壁にもたれた格好で目を閉じている。
ミアの寂しげな表情に目を当てながら、サキは話し始めた。ブリーズの国で見聞きしたこと。記者エリックの話。すべてを詳らかに……
静かな部屋に、いつしか嗚咽が響いていた。
ミアがルズの胸に顔を埋め、体を震わせ泣いていた。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪


仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる