琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ラルフとティナ

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「私は体が丈夫でなかった母から離され、乳母に育てられた。トーマの村で生まれ育ち、その器量と優美を父王に愛され、城に召されたこの女性。ティナ・ドア・レイノア……古代の言葉で表すなら、その意味は"深き森の聖なる泉"」
 ラルフは目を閉じた。彼女の口付けを受けるかのように、王の目には映った。
「私はティナが大好きだった。彼女は精いっぱいの愛情を私に注いだ。私は父王と彼女の関係なぞ何も知らず、母のように、姉のように、ただひたすら頼り、甘えていた」
 ティナの緑の瞳がラルフを見つめている。哀しみに愁えているような、深い深い緑の瞳。

「だが私の7歳の誕生日に、彼女は乳母の役目を解かれた。私に弟が生まれたので、今度はその世話をすることになったのだ」
 王は思わずぎゅっと拳を握りしめた。
「もしやそれが……」
「そうだ。お前はその弟の直系だ。父王は私ではなく、第二王子の弟に王の座を譲った。なぜか……」
 ラルフは唇を噛みしめてから、ふうと息をつく。

「私はそれからティナに会うことを許されず、父王や諸大臣、教育係のもと、君主となるための教えを受けた。また他国との小競り合いも頻発していたので、時には戦場も経験させられた。そうして10年の歳月が過流れ、ティナと再会したのは17歳の春。成人の儀式の席でだった」
 ラルフはその光景を思い出したのか、言葉を途切れさせた。
「ティナはこの肖像と同じ白いドレスに身を包み、10年前よりもさらに美しさを増して、私の前に現れた。懐かしそうに、だが明らかに子供を見守る乳母の眼差しではなくなっていた」
 王は聞きながらハラハラしている。1000年前の出来事なのに、今、展開されているような生々しさがあった。

「そう。私とティナは……愛し合った。だがそれは肉体の次元ではない。私は彼女に何もできなかった。指一本触れることもできなかったのだ。この私が」
 王は愕然とする。次々に美女をさらい、妻にし、残酷に打ち棄てているこの男が。まさか。
 だが王は、壁画を見れば納得できる気がした。ここに描かれた清楚な女性。欲望に汚すには、あまりにも清らかな佇まいであった。
「ティナは私にとって、永遠の聖女だ。だが父王は信じなかった。私とティナが男女になったと誤解し、激しく怒り狂い、嫉妬に乱心した。そうだ。あれは乱心だ。君主の振る舞いではない。私は失望したが、父王の魔力に打ち勝つ術を持たなかった」


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