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聖女の肖像
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「さあ、入るがよい。初代王がお前に遺した、お前のための部屋だ」
開かれた扉の中へ、慎重に入って行く。森の番人ともあろう者が、闇を恐れる子どものようだ。それほどまでに、彼は人間としての感覚を思い出していた。
足もとを見ると、通路と同じように平らな石が敷き詰められている。王の持つ燭台では灯りが小さく、内部がどうなっているのかよく分からない。
ラルフはゆっくり進みながら、呪文で火の玉を作った。
まばゆさに目を細める。そこに現れたのは剥き出しの岩に囲まれた、とてつもなく大きな空洞だった。
「ラルフよ、あれを見よ」
王がラルフの後ろから顔を覗かせ、正面を指差す。
幅広の階段を上ったところに石造りの祭壇があり、祈りを捧げる乙女の像が一対、配置されている。像は上方を見上げていた。
ラルフは火の玉をさらに高く掲げた。
巨大な壁が浮かぶ。天井まで届くような、巨大な壁だ。
そこに現れた肖像に、彼は言葉を失う……
後ろに下がって見守る王も、驚きのあまり立ち竦んだ。明るく照らし出された壁画の鮮やかな輪郭と色彩、描かれた人物の美しさ。
(ティナ!)
ラルフは心で叫ぶ。
誰よりも愛していた、大切な人の名前だった。
白雪の肌。ばら色の頬。豊かに波うつ銀の髪。
そして、憂いを含む緑の瞳。
森の奥深くに湧きいずる、清らかな泉を思わせるその佇まい。
巨大な壁に描かれた聖女の肖像は、まるで生きているかのように、ラルフに優しく微笑んでいる。
「あれは……」
ラルフは目をみはった。
清楚な白いドレスに身を包む、彼女の胸もとを飾るのは――漆黒のゴア!
階段を駆け上がり、祭壇の前に膝をついた。
ラルフは声をふるわせ、自分が何者であるのか、自らに教える。
「私の名は、ラルフ・ゴアドール・トーマ・オブ・エルエノ……初代ゴアドア王の息子であり、第一王子だ」
「な、なんと……!」
現ゴアドア王が叫び、燭台を取り落とした。
ろうそくの火は消え、煙が風に流され何処かに去っていく。
「ティナは私の乳母であり、そして父王が……最も愛する女性でもあった」
ラルフは聖女を見つめる。その眼差しは、懐かしさと愛情に満ちていた。
開かれた扉の中へ、慎重に入って行く。森の番人ともあろう者が、闇を恐れる子どものようだ。それほどまでに、彼は人間としての感覚を思い出していた。
足もとを見ると、通路と同じように平らな石が敷き詰められている。王の持つ燭台では灯りが小さく、内部がどうなっているのかよく分からない。
ラルフはゆっくり進みながら、呪文で火の玉を作った。
まばゆさに目を細める。そこに現れたのは剥き出しの岩に囲まれた、とてつもなく大きな空洞だった。
「ラルフよ、あれを見よ」
王がラルフの後ろから顔を覗かせ、正面を指差す。
幅広の階段を上ったところに石造りの祭壇があり、祈りを捧げる乙女の像が一対、配置されている。像は上方を見上げていた。
ラルフは火の玉をさらに高く掲げた。
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そこに現れた肖像に、彼は言葉を失う……
後ろに下がって見守る王も、驚きのあまり立ち竦んだ。明るく照らし出された壁画の鮮やかな輪郭と色彩、描かれた人物の美しさ。
(ティナ!)
ラルフは心で叫ぶ。
誰よりも愛していた、大切な人の名前だった。
白雪の肌。ばら色の頬。豊かに波うつ銀の髪。
そして、憂いを含む緑の瞳。
森の奥深くに湧きいずる、清らかな泉を思わせるその佇まい。
巨大な壁に描かれた聖女の肖像は、まるで生きているかのように、ラルフに優しく微笑んでいる。
「あれは……」
ラルフは目をみはった。
清楚な白いドレスに身を包む、彼女の胸もとを飾るのは――漆黒のゴア!
階段を駆け上がり、祭壇の前に膝をついた。
ラルフは声をふるわせ、自分が何者であるのか、自らに教える。
「私の名は、ラルフ・ゴアドール・トーマ・オブ・エルエノ……初代ゴアドア王の息子であり、第一王子だ」
「な、なんと……!」
現ゴアドア王が叫び、燭台を取り落とした。
ろうそくの火は消え、煙が風に流され何処かに去っていく。
「ティナは私の乳母であり、そして父王が……最も愛する女性でもあった」
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