琥珀色の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
50 / 88
ブリーズへ

しおりを挟む
 暗黒の森を抜け、猛烈な勢いで飛ぶこと半日。
 サキ博士とルズは、広大な港を中心に漁業と観光産業で発展する国、ブリーズに辿り着いた。大陸の南に位置し、ゴアドアからもトーマからもさして遠くない場所にある。
 ルズは夜になるのを待ち、山側から密やかに入国した。辺境警備の兵士にも、その羽音は聞こえなかった。
「あなたは飛行の天才ね、ルズ」
 背中で姿勢を低くするサキに褒められ、妖獣はまんざらでもない。
「まかせといてよ。伊達にラルフの相棒を1000年もやってませんってね」

 指示された場所まで飛ぶと、ルズはサキをそっと降ろし、素早く元の姿に戻った。
「ここら辺でいいんだよね」
 サキの肩に掴まり、キョロキョロと見回す。
 レンガ造りの建物が並ぶ通りは静まり返っている。人家ではなく、商業用の建物のようだ。人が住んでいる気配はなかった。
 道は緩やかな下り坂で、真っ直ぐ行くと港に出るようだ。通りの先に、暗い海が横たわっているのがルズの丸い目に映った。

「そうね。暗くて分かりにくいけれど、ここで間違いないようね」
 サキは手の甲に記された住所と、建物に貼られたプレートを見比べた。
「番地は……」
 建物を順番に見てゆく。
「3の45…3の45……ああ、なんてこと!」
 住所どおりの番地を見つけたが、そこには何もない。不自然に切り取られたような、空き地があるだけだった。

「出版社が建物ごとくなっている。 一体どうして?」
 サキは暗い中、空き地の隅々まで目を凝らした。よく見ると、周りの建物の壁が焦げている。
「火事……火事で建物が焼失したようね」
 悔しそうにつぶやき、眉根を寄せた。しかしルズが不安げに覗き込むと、サキは眼鏡の位置をきちんと直し、前を向いた。
「港のほうは明るいわ。手がかりを探してみましょう」
 懐の金塊を確かめた。これを生かして、何とかしようではないか。


 酒場は土地の男達、他国の船乗り、観光客らで賑わっていた。
 サキは場違いな白衣姿のまま、その間を縫って奥のカウンターへ進んだ。
 むくつけき男達が、あからさまな好奇の視線を投げかけてくる。サキは何も恐れず、何も気にならなかった。ラルフの眼差しに比べたら、どれも皆かわいいものである。
 カウンター席に座ると、マスターに地酒でいちばん強いものを頼んだ。
「知りませんよ。火を噴いて倒れたって」
 親切に言うマスターから酒を受け取ると、サキは後ろを向いた。さっきからこちらを気にしている、土地の男達に高々と掲げてみせる。

「いいぞー、美人のお姉さん! 一気に空けちまえよ。ぶっ倒れたら俺達が介抱してやらあ」
 野太い冷やかし、口笛と猥雑な笑い声が飛び交った。
 黙って見守っていたルズは、顔をしかめた。荒っぽい雰囲気は好きではない。
 しかしサキは余裕の顔。男達に乾杯すると、グラスを一気に空けた。あまりにも気持ち良い飲みっぷりに、店中が歓声を上げる。
「ああ美味しい! やっぱり地酒がいちばんね」
 サキはにっこりと笑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...