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ミアの夢
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指先がミアの中に入ってくる。ラルフは愛しながら、酷薄に女を見つめる。
「正直に答えることだ。その黒のゴアは、どこで手に入れた」
「これは……母が、私に」
「母親が? では母親はどこでそれを得たのだ」
「ご、ご先祖様から、代々……受け継がれる、秘宝です。本と、一緒に……」
告白は喘ぎ声になり、ミアは溺れはじめた。ラルフはなおも訊問を続ける。
「本というのはなんだ。なぜお前達が、黒のゴアを受け継いでいる?」
「……わかりません。本当に、なにもわからないのです、私は」
「その本はどこにある。何が書いてある」
ミアはもう耐えられなかった。
「お願いです。話しますから……許して、くださいっ……」
ラルフはミアを解放した。
そして、彼女の胸もとのゴアに目を当て、その光を遮るように目を閉じた。
ざわざわと、妖しい気配が屋敷を取り囲むのを感じている。
「さあ、聞かせろ」
窓の外はまだ暗い。魔物が動き回るには都合のいい、夜明け前の漆黒の闇だ。
ミアは枕にもたれると、呼吸を整えた。
「本当に、どうして母の家に伝わっているのか、母にも、その母にも、誰にも分からないのです。ただ、プラドーの家には絶対に秘密に……というのは、先祖代々頑なに守られています。あの一家には渡せない。私達一族の血に、掟としてそれはあるのです」
ラルフは言葉を失った。ミアの瞳が、たとえようもなく美しい煌きを見せている。
ミアはベッドを降りると、チェストの引き出しから袋を取り出した。彼女がこの屋敷に運ばれてきた晩、ラルフが中身を調べた粗末な袋だ。
「まさか、あれか……」
その通りのものを、ミアは取り出してラルフに渡した。
【トーマクラシック百科】
箔押しされた表紙の、手の平に乗るぐらいの本である。
「これが先祖代々受け継がれている本だというのか」
ラルフはページをめくった。やはり、中身はすべて白紙である。
「何も分からないのです。ただ、黒のゴアとその書物を、生命を賭しても守り抜くよう、母に言われて……」
ミアは語尾を震わせた。
「でも……でも私はもう嫌なのです。守っているだけなんて!」
「……」
急に感情が昂ぶってきた様子を、ラルフは静かに見守った。
手にした本は軽く、しかしただの紙の束には思えない。重要な秘密が記されていると、どうしてか確信できるのだ。
「正直に答えることだ。その黒のゴアは、どこで手に入れた」
「これは……母が、私に」
「母親が? では母親はどこでそれを得たのだ」
「ご、ご先祖様から、代々……受け継がれる、秘宝です。本と、一緒に……」
告白は喘ぎ声になり、ミアは溺れはじめた。ラルフはなおも訊問を続ける。
「本というのはなんだ。なぜお前達が、黒のゴアを受け継いでいる?」
「……わかりません。本当に、なにもわからないのです、私は」
「その本はどこにある。何が書いてある」
ミアはもう耐えられなかった。
「お願いです。話しますから……許して、くださいっ……」
ラルフはミアを解放した。
そして、彼女の胸もとのゴアに目を当て、その光を遮るように目を閉じた。
ざわざわと、妖しい気配が屋敷を取り囲むのを感じている。
「さあ、聞かせろ」
窓の外はまだ暗い。魔物が動き回るには都合のいい、夜明け前の漆黒の闇だ。
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「本当に、どうして母の家に伝わっているのか、母にも、その母にも、誰にも分からないのです。ただ、プラドーの家には絶対に秘密に……というのは、先祖代々頑なに守られています。あの一家には渡せない。私達一族の血に、掟としてそれはあるのです」
ラルフは言葉を失った。ミアの瞳が、たとえようもなく美しい煌きを見せている。
ミアはベッドを降りると、チェストの引き出しから袋を取り出した。彼女がこの屋敷に運ばれてきた晩、ラルフが中身を調べた粗末な袋だ。
「まさか、あれか……」
その通りのものを、ミアは取り出してラルフに渡した。
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「これが先祖代々受け継がれている本だというのか」
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ミアは語尾を震わせた。
「でも……でも私はもう嫌なのです。守っているだけなんて!」
「……」
急に感情が昂ぶってきた様子を、ラルフは静かに見守った。
手にした本は軽く、しかしただの紙の束には思えない。重要な秘密が記されていると、どうしてか確信できるのだ。
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